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STORY

2019.04.27

アニメ評論家の藤津亮太さん

++ Introduction ++

藤津亮太さんが考えるアニメ評論家の役割は“見通しを良くすること”。

『一本の作品を観て面白かったと思っても、その先はあまり言葉にならなかったり、
何で面白かったのかまでは考えないじゃないですか。
そこをここがこうだから面白いんじゃないですかとか、
ここが不思議なのはこういう理由じゃないですか
といったことを文章にすることでいろいろな人の見通しが良くなるといいな
と思ってやっています。
カルチャーセンターの講座でも基本的に腑に落ちることを
一番の目標にしています』。

毎クールごとに期の最初は20本強の新作をチェックしているということですが、
徐々に物理的に観られなくなると後から追いかけて観たり、今は配信を利用して
フォローしているそうです。

『新作の本数が多いのは利点もあって、
これが半分であればかなり個性的な企画が
通らない可能性がある訳ですよね。そういう意味ではいろいろな企画が通るのは
プラスな面ではあるんですよね。ただ、作品を作り上げるという意味では
現場もかなり大変だという話も聞くので、そこはプラスとマイナスが裏表だなぁ
という感じですね』。

ここ最近、藤津さんの印象に残った作品は「どろろ」と「約束のネバーランド」。

『手塚治虫による「どろろ」は原作で書かれている要素を見事に再構成して
足りないところはオリジナルを足して
原作の良さが生きるようにしてやっています。
手塚先生は原作をあまり気に入っていなかったという話をされていますし、
50年前にアニメ化された時も途中で人気が無くて路線変更しているんですね。
そういう作品が半世紀を超えて
遂に本来だったら描かれるはずであったであろう
テーマに今近づいている感じがドキドキするんですね。
「約束のネバーランド」は原稿を書くために原作と照らし合わせながら観ましたが、
ちょっとした差異で映像表現として面白くする作りになっていて。
尺の都合から台詞も少し間引いて言葉の並び順を変える配慮もあり
それによって原作よりもキャラクターが明確になっていたりと、
細かな味付けが丁寧で観ていて楽しいと思いました』。

Netflixに代表される配信作品について藤津さんは・・・

『これから影響が大きくなるんじゃないかなという感じですね。
映像作品の先行指標は音楽と言われていて、CDが売れなくなった後に
サブスクリプションと言われる定額聴き放題サービスとライヴに移行しました。
映像もそうなるだろうと言われていてアニメはいち早く実験的に移行しつつある
というイメージですね。
ただテレビで放映しないと存在感が無いということもあるので
テレビと全く縁が切れてしまうのではなく、多分並立していくと思います。
どういう形が良いかはこれから多分正しい塩梅が見えてくると思うんですよね』。



++ Until now ++

藤津さんが考える平成時代のアニメとは?

『日本の国産アニメは2017年に100年で、
その内の30年ですから結構長いんですよ。
しかも産業化して映画館やテレビでアニメが観られるようになった最初の作品は
1958年に公開された「白蛇伝」という映画で、そこから60年になります。
僕たちが何となくアニメの歴史だと思っているうちの半分は平成なんですよ。
スポンサーがお金を出してゴールデンタイムにテレビでアニメを放映する形から
深夜アニメへと移行し、さらに配信によってテレビとの距離が大きく変わったのが
平成時代のアニメです。
それは単純に少子化であったり視聴率が取れなくなった時に
生き残り方として土日朝の子供に向けたゾーン、
そして大人のゾーンとして深夜枠が
生まれて本格的に普及したのが今からざっと20年くらい前のことなので、
平成の後半三分の二はそういう深夜アニメの時代がやってきたんですね』。

アニメ製作で最も大きく変わったのはコンピューターが本格的に導入されたことで
以前は透明なフィルムにセル絵の具で色を塗ったセル画をフィルムカメラで
撮影していましたが、2000年前後には仕上げと撮影の工程がデジタル化され、
現在はさらに作画もデジタル処理したりキャラクターを3DCGで描くなど
多くの領域でデジタル化が進行したのも平成30年間の特徴だったということです。

次の節目になる作品として藤津さんが注目されているのが4月からテレビ放送も
始まった「キング・オブ・プリズム」。

『音楽がCDから配信とライヴに移行した時にアニメでライヴに相当するのは何か?
どういうものが提供できるかという問題がありました。一つは2.5次元の舞台や
イベントだと言われていましたが一つの作品としてビジネス的に大きくなることは
無いんですね。そういった中で「キング・オブ・プリズム」が映画館での
“応援上映”という新しい楽しみ方を完全に定着させたんですよね』。

映画館を一つのライヴ会場と見立てて大音量で良い音で聴くというライヴ的な
楽しみ方が数年前から普及していて、アニメのライヴ化に一つの結論が出たとか。

ここ最近の作品で藤津さんがお薦めするのは映画「リズと青い鳥」。

『吹奏楽部で仲良しだと思っていた二人の女の子、一人は活発でもう一人は内向的。
活発な子は内向的な子に付いていてあげなければと思っているのですが、
内向的な子のほうが楽器が上手かったことから、
実はその依存関係は逆だったのでは
と思い悩む話を京都アニメーションの山田尚子監督が凄く丁寧に描いています。
女の子同士のそういった微妙な距離感を描くところも今のアニメといった感じで、
さらにそれを繊細な表現を積み重ねて作られていて、こういう方向でここまで
研ぎ澄まされているんだと感じるインパクトのある作品でしたね。

++ Right now ++

藤津さんが時代を超えて大好き作品は、
1978年、小学4年生の時に観た宮崎駿さんの初監督作品「未来少年コナン」と
翌年の「機動戦士ガンダム」、劇場版「銀河鉄道999」の3作品。
その洗礼によりアニメ好きのスイッチが入ってアニメ雑誌を買うようになり、
アニメ評論家の道に進むきっかけになったそうです。

『高校を卒業する頃に1980年前後にあったアニメブームが終わるんですね。
ちょっと面白いアニメが無いと思いながら観ているのは良くないと思って、
ただ気になるから劇場版は観ようと。テレビは観なくていいかなとなって
10年弱くらい過ごしていたんですけどアニメ雑誌は読み続けていたところ、
就庵野秀明監督が「セーラームーン」を褒めていたので観て戻ってきた感じです。
そこから現在の仕事に就くまでにはさらに7〜8年かかっています』。


++ From now on ++

アニメ業界が抱えている構造的な課題について藤津さんは・・・

『今は変化の時期です。
ここ20年くらいはDVDやブルーレイを売ることでビジネスが
回っていましたが売れなくなって配信になった時にどういうビジネスモデルを
作るかを模索中だということが一つ。
もう一つはそれとセットで働いている方の
ギャランティを含めての働き方改革も手がつき始めつつあります。
まだまだ道は長いかもしれないですが、
その二つが上手くはまるとアニメの未来が
もっと具体的に見えてくるんじゃないかなと思いますね。
そして社員化も重要です。
これまでは社業務委託という形で手がけた仕事分だけ対価を支払うという形が
基本的には多かったですが、今は作品数も多いので人材を確保して育てる目的で
優秀な人を社員として雇って抱え込みたいという流れが出てきています。
今後どのような広がりを見せるのか、未来はそこにかかっている気もします』。

今後の目標はアニメの歴史を追いかけた連載の書籍化。

『雑誌で「僕たちの好きなアニメの戦争」という連載をやっていて、
戦中からアニメの歴史を振り返りながらそこで戦争がどのように描かれてきたかを
追いかけている連載で全8回のうち4回まで書いていて、来年以降に完結したら
本にしたいと思っています。
「ゲゲゲの鬼太郎」はこれまでに6回アニメ化されているんですけど、
原作にある「妖花」というエピソードは4回アニメ化されていて、
それは戦争で死んでしまった人が残された人を思って花が咲くという話ですが
これがアニメ化される度に解釈がちょっとずつ違うんですよ。
その時の時代に合わせて語り口が変わっていてその時代を表したりしているので、
そういう変化を追いかけている本ですね』。

5月には40代半ばから50代にかけての方を中心とした
声優のロングインタビュー集、「私の声優道」が出版されます。

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