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STORY

2019.04.13

SF作家の藤井太洋さん

++ Introduction ++

SF小説「ハロー・ワールド」で「第40回吉川英治文学新人賞」を受賞した
作家の藤井太洋さん。現在、電子雑誌「文芸カドカワ」の「第二開国」と
「ハヤカワS-Fマガジン」にて隔月で連載している「マン・カインド」
という2本を並行して執筆されており、「第二開国」は
藤井さんの故郷である奄美大島を舞台にクルーズ船の寄港地建設が進む中、
そこにまつわる陰謀が徐々に見えてくるというストーリー。
「マン・カインド」は短編作品集「公正的戦闘規範」のシェア・ワールドで
デザイナー・ベイビーについて描かれているということです。
また、「ビッグデータ・コネクト」の続編の執筆も決まっていて、
明治維新前後の奄美大島を舞台にした
書き下ろしの歴史小説も準備を進めているとか。

『侍の時代から近代国家に変わっていく時の
“きしみ”みたいなものに巻き込まれた
人たちの話を書こうと思っていまして、
海外から帰ってきた青年が奮闘する話です。
帰国子女が感じる違和感や苦しみに直面する
主人公を実在の人物をモデルにして
描こうと思っています』。

テクノロジーに関する情報は
ニュースをチェックしたり論文を読んで収集し
コンピューターに関するものでソフトウェアを入手できる範囲であれば
実際に手に入れて自身でプログラムを書いて試すこともあるそうです。

『例えばAIが人の言葉を借りて書かれているものだけではなくて、
どういう性格のものかを何となく自分なりに掴めるようになります。
自分が今までに書いた全てのテキストをプログラムに入れてみて
どれくらい予測ができるかを試してみると、
自分の手持ちの小説だけでは
全然足りないんですよね。その規模感が先ず分かりますよね。
せいぜい数百メガバイトくらいのテキストでは何も結果が出ないと。
多分ギガ、ひょっとしたら
ペタみたいな世界のテキストがないと駄目だみたいな。
そうすると小説の中で
どの程度のバックグラウンドでデータが集められた時に
どれ位のことが予測できるとか、
そういう勘所が掴めてくるし、スピード、遅さとか
リアルタイムとはどういうことなのかとか手触りみたいなものが掴めますね』。

藤井さんの作品は明るい未来を描いていることが多いのですが、
その点について・・・

『信念として今私たちは人類史上最高の社会に生きていると信じているんですよ。
出来ないことが出来るようになって、昔よりも確実に自由は手に入りやすくなり
発言も出来るようになっている。
ただ、そんな中でも間違いなく不幸せとか問題を
見付けてしまうんですよね。
今、女性に対して暴行を加えても不起訴になったという
ニュースが出てきますが、今まではニュースにすらならなかったわけですから。
次はその芽を摘む方向に一歩ずつ進んで素晴らしい世界にしたいなと思っていて、
作品がその一助になれば幸いだなと思っています』。



++ Until now ++

15歳まで出身地の奄美大島で過ごし、都会やテクノロジーに憧れて育ったという
藤井さんにとって初めてのSF小説は小学校3年生の頃に公民館の図書室で手にした
ハイライン著「さまよう都市宇宙船」を子供向けに書き換えられた本で
一気にその世界に引き込まれたということです。

大学進学で上京した藤井さんは当時、「青年団」を主宰して「こまばアゴラ劇場」で
活動を始めた平田オリザさんに声をかけられて演劇の世界に入り舞台美術を
手伝うことになりMacで舞台の図面を描いたり完成予想図をCGで作っているうちに
Macで出来る仕事がしたいと思うようになったということ。
その後は印刷会社でのグラフィックデザインの仕事を経て、
ソフトウェアの開発会社に入ってコンピューターのエンジニアになったとか。

2013年に自主出版して話題になった処女作「Gene Mapper」について・・・

『それまで小説を書いたことは無かったけど、2011年の震災後の津波で
私の同僚の実家も流されたりして被害があるにもかかわらず、
報道は原発事故や放射能一色に変わってしまって違うなと疑問を感じていた時に
「高エネルギー加速器研究機構」の方が主宰の「KEKサイエンス・カフェ」に行って
実際に宇宙放射線を霧箱で見たり、
その先生が放射線や放射能について説明されていて
その言葉の強さにすごく安心しました。強い言葉はどこからくるかと言えば
彼が科学者であって正しく科学をやってきたからこそであって、
自分も同じような強い言葉を持ちたいと思ってフィクションをやりました。
「Gene Mapper」では原子力そのものに対して
アプローチする勇気は持てなかったので
環境テロで煽って人の恐怖を利用するなという
メッセージを込めた作品になりました』。

++ Right now ++

藤井さんが行き詰まったり困った時に逃げないで書くために実践されているのは
音楽を聴きながら作業するということ。それでも無理な時はNetflixでSFモノの
動画を観て気分転換しているとか。

情報は文章を書いていて必要になった時にはネットで検索しているそうですが、
できるだけオリジナルの情報に近いところまで行って複数のネタを探して
十分に確認した上で使っているそうです。
また、小説を書くために現地取材するよりは
仕事やプライベートで実際に行ったあとで
その場所について書くことが多く、
短編集「公正的戦闘規範」内の「常夏の夜」は
奥様と二人で旅行に行ったセブ島を舞台に書かれたそう。
今行ってみたのはアフリカで、現地を取材した成果で小説にしたいとのこと。



++ From now on ++

今後、注目している技術について藤井さんは・・・

『昨年、中国で遂に生まれてしまったデザイナー・ベイビーの今後ですね。
「クリスパーキャスナイン」という
遺伝子編集技術は今までの遺伝子組み換えとは
まるで違う精度で物事が実行できるので何かできると思ってしまう可能性が高いし、
遺伝子組み換えのビジネスに投資する人たちは今まではソフトウェア産業で
莫大な富を築いてきた人たちが多いんですよね。
ソフトウェアの基本は信頼できるハードウェアの上で動くプログラムを
書き換えていくことで、今回の中国のような胎児に対する遺伝子組み換えのほうが
政治に対する遺伝子組み換えよりも楽で正しいという価値観に繋がりかねない
と思っています。ですから凄く注意していないといけない技術ですね』。

今後10年で成し遂げたい夢は二つ。

『4歳になる息子がいるんですけど、彼が読める間に児童用のSFを書きたいです。
宇宙の学園モノで遺伝子組み換えが普通に行われている時代に、
将来木星で働きたい人は特殊な遺伝子治療を受けてセルロースを消化できるように
ならなければいけないとか、将来に対して自分の体をちょっと改造していくという
モラトリアムを抱えている人たちがいる。それを当然のものとして受け入れている
社会を描いてみたいと思っています。
SFは技術だけでなく社会問題というか働かないと食べていけないという
私たちの社会のバグも直したいと思っています。
ベーシックインカムが実現している
社会を極力書いていきたいなと思っているんですけど…中々ね(笑い)。
この二つが今のところ目標です』。

ON AIR LIST

  • NIGHT RUNNING / CAGE THE ELEPHANT BECK
  • AERODYNAMIC / DAFT PUNK
  • AWAY AND HOME / TSUYOSHI NIWA
  • 魔法の瞳 / 大瀧詠一

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