STORY
歌人の穂村弘さん
++ Introduction ++
昨年、17年ぶりに歌集「水中翼船炎上」を発表した歌人の穂村弘さん。
17年前に書いた作品から近作まで混在していますが、
感覚は随分変化しているとのことで、
その変化をなるべく滑らかに見えるように構成したそうです。
『今の感覚と違うと言いますか、例えば昔はこんな歌を作っているんですよね。
“未来を語ることだけに 今を費やして ライスおかわりなんかしている”
学生の頃に友達とファミリーレストランで未来のことについて話しているんだけど、
それは“今”という時間を無駄遣いしていて、当時は“ライスおかわり”が重要で
皆んなバクバク食べて… そんなに未来が気になるなら今頑張ればいいのに、
すごくザーザー時間をこぼすような。
これはリアルタイムで作った歌ではありませんが、思い出したんですよね。
もう今が“未来”だからこんな風にザーザー流すことはできないし、
ライスもおかわりどころか“少なめにお願いしますゾーン”に入っているから
変わるなと思いますね』。
「水中翼船炎上」は現在から穂村さんが子供時代に過ごした昭和40年代に遡る
自分史、自伝的な要素が含まれていますが・・・
『子供の頃は水中翼船が夢の乗り物みたいなイメージだったんですよ。
学習絵本には将来は
これが地面も海も走るし空も飛べるみたいに書かれていたんです。
ところが、今全然そうなっていないし、
当時のイメージでは21世紀は土星や木星に
行っているという筈だったんですよ。それも全然そうはなっていない。
だから未来が違ったなというショックみたいなものが何となくあるんです』。
短歌はとっつきにくくて難しいと感じている人が多いことについて穂村さんは・・・
『例えば知らない国の言葉は難しいと思わないじゃないですか。
分からない知らない言葉だと思うけれど、短歌や俳句は日本語で書かれているから
普段読み書きして知っている言葉だから分かる筈なのに
読むとちょっと分からない。
だから逆にすごくハードルを感じると思いますし、
多くの人は詩の法則みたいなものに
多分まだ慣れていないからでしょうね』。
日常の中にあるちょっとした疑問や違和感みたいなものが詩や短歌を作る種に
なっているという穂村さんが最も頼っている感覚とは・・・
『今、目に見えているものが全てではないという感覚だと思います。
自分がまだ知らないすごいものが
その奥にあるんじゃないかというときめきみたいな。
目に見えているものが全てとなると一番大事なのはお金と物と権力みたいな
ベタな発想なってしまうんだけど、まだ名前も無いものがあるんじゃないかとか。
例えばそれは愛とかでさえないような未だ我々が発見していなくて名前の無い
すごいものを自分が見付けられたらみたいな、そういう感覚かな』。
++ Until now ++
今でも幼児的な部分が多いという穂村さん。
大人の人がこれはこういうものと納得してそれ以上は考えないことについて、
いつまでも“?”と思っているような、チューニングがちょっとずれた感じとか。
『最初に自分のズレを感じたのは友達の車に乗っていた時で、今の信号機は光り方が
高度になったから全部色が均一でしょ。でも昔は一つ一つ個体差があったんですよ。
それで友達に“これがこの町で一番暗い色の青信号だよね”と言ったら
すごく驚かれて“信号は信号だろう”と言われて、その時に何かずれを感じました。
つまり信号は記号であって、色が少しくらい明るくても暗くても青信号さえ分かれば
それでいいというのが大人の世界だと思うんですよ。
でも子供はそうではなくて、“何だかいつもよりあの信号は暗いよ”といったように
信号機の役割以外の何かが気になる。僕は言葉も普通の記号以上のものとして
捉えてしまうみたいなズレがあるんですよね』。
++ Right now ++
創作に行き詰まると穂村さんが手にするのは何十回も読んだことがある漫画。
初めての漫画を読むほどの集中力は無く、心の中は焦っているそうで
そのうちに思い付くことがあるそう。
そして、逃避して友達と遊びに行った時に何かいいことや
面白いことをポロっと言われると、
遊びながらネタも貰えて有り難い気持ちになるとか。
『原稿を仕上げるのは自宅が多いですけど、
外にいる時は毎日、何かメモしています。
町内会の掲示板に書かれていることだったり、
迷い猫の張り紙も心がこもっていて
悲しみと焦りとなんとか帰ってきて欲しいという飼い主の思いをメモしたりね。
ネットも素晴らしい言葉の宝庫で、なんか変なニュースが載っていて
水族館からサメを盗んだ人、
ドアストッパーが実は隕石でしたというニュースだったり
ついついストーリーを想像してしまいます』。
++ From now on ++
これからの歌の表現について穂村さんは・・・
『進化とは違うかもしれませんが、短歌は着物に似ていると思うことがあります。
昔から日本にあるもので、
でもちょっと格式があるような感じがして気軽には試せない。
でも、今は若いカップルが滅茶苦茶な浴衣を着て花火大会に行ったりとか、
外国の人が着物を着て楽しそうに歩いていたりするじゃないですか。
滅茶苦茶と思うのは
こんな感じできちんと着るという着物に対する先入観であって、
多分リアルに着物を着ていた時代はみんな滅茶苦茶だったと思うんですよね。
短歌もそれに似たところがあって、その先入観が無い世代が作り始めているから
万葉集や百人一首の歌からすれば滅茶苦茶に見えるけど、
今は面白いと思います』。
今後、取り組んでいきたいことについて・・・
『僕は絵本も書きますが文章だけなんですよ。
絵が書けないから好きな画家さんと
コラボレーションしてすごくエキサイティングだったので、
これからもいろいろな人と
やったことが無い組み合わせで作品を作れればと思っています』。
ON AIR LIST
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DANCING WITH A STRANGER / SAM SMITH & NORMANI
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CHASING PIRATES / NORAH JONES
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そんな海はどこにもない / ハルカトミユキ
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RUNNING / HELADO NEGRO