STORY
ゲームクリエイターの小島秀夫さん
++ Introduction ++
ゲームクリエイターの小島秀夫さん。
大ヒットゲーム「メタルギア」シリーズの
生みの親で、2015年の独立後に設立した
「コジマプロダクション」の初作品となる
「デス・ストランディング」のリリースを
世界中のファンが心待ちにしています。
『例え話をすると、
まず僕が料理長として「デス・ストランディング」という
新しい料理を作ろうと思いついてレシピを書き、
食材を探しに出かけて行って
実物を見ながら仕入れ値も確認した上である程度の料理を作ります。
そして、どういう機材を使って焼いたり煮たり料理するかを
シェフたちと相談して
一皿一皿の前菜、主菜、デザートなどを
分担して個別で作っていきます。
で、一つ一つの料理や器はある程度完成しているんですね。
今は僕がコース料理を順番に味わいながら
調整してメニューを少し書き換えたり
箸休めを作ったりしている段階です。
これが終わると今度は一連のコース料理を
いろいろな人に食べてもらうという
シーケンスに入ります。
ゲームはインタラクティブなので
僕が想定したお客さまになった気持ちで
料理を作っていましたけど、実際にそれが皆さんにどう伝わるのかを
いろいろな人を呼んで食べてもらって
そこで意見を聞きながら調整します。
ここがゲームならではのプロセスで、
それが終わると今度はニューヨーク、
ロンドン、東京など場所によって湿度も違うので
世界各地で最終的に確認します。
それがゲーム作りのフィニッシュですね』。
通常、ゲーム作品のリリース日は企画の段階で決まっていますが
当初の計画より遅れるケースもある中で、
「デス・ストランディング」は
大幅に遅れること無く
順調に製作が進行しているということです。
『締め切りがあるから物を作れるので、
妥協が無いということは無いです。
アマチュアや芸術作品であれば
満足いくまで作り込めるじゃないですか。
でも納期があるからそこまでの目標を立てて
優先順位をつけて作っていくので、
僕も納期が無いとずっと作っていくタイプですから、
納期があるからこそ頑張れる
というか、そこまでにできることをやるという感じです。
ただ、自分の合格ラインがあるじゃないですか。
それを下回る時は出せないですね。
グラフィティ、サウンド、演出、ゲームプレイングなどのクオリティも
もちろん重要ですけど、そもそも、最初にゲームを企画した段階では
僕の中にしか見えないんですよ。
ですから全く新しいゲームというのは
プレゼンしてもほとんど理解されないですが、
一番良くないのは自分が思い描いたものになっていないことです』。
++ Until now ++
映画好きの両親の影響で
半ば強制的に映画を観させられていたという小島さんは
子供の頃に各テレビ局で
毎日のように放映されていた映画劇場を観るのが日課で、
その当時は料理番組、ドキュメンタリー、ネイチャーものなど
海外製作の番組も数多く放映されており、
テレビをつけると世界が広がっていて、
それがゲーム作りの基礎になっているとのこと。
そのなかでも最も大きな存在となっている映画が
「2001年宇宙の旅」。
『キューブリックとヒッチコックと黒澤明は
親が絶対に観ろという英才教育でした。
キューブリックの「2001年宇宙の旅」は
モノリスが出てきてお猿さんが触れて
進化する話ですけど、僕にとってあの映画はモノリスなんです。
月面にアポロが行く前にあんな作品を作った人がいるというだけで
頑張れるじゃないですか。
自分は未だそこまで到達していないですけど
いずれはモノリスを越えたいということを
考えながらゲームを作っているので
僕にとっての映画はものづくりが
何たるものかという目標を示してくれていて、
その中でも「2001年宇宙の旅」は特別な作品になっています』。
映画は受け身なのに対してゲームは
インタラクティブでプレーヤーを制御できない
ことから別物として認識されているそうですが、
音声やレンズの使い方などの演出は
映画から学んでゲームというメディアを紡いで
きたことから、“どこか映画みたいなゲーム”と言われていて、
その点については嫌であり嬉しくもあるそうです。
『小説、映画、ゲームなどエンターテイメントと呼ばれるものは何でも
まずは人を喜ばせることが大切ですが、
そのちょっと先には、
そのエンターテイメントに触れたことで
自分が知らなかったことを
知ることができるというのが重要だと思います。
映画を観たり本を読んで故人も含めて世界中の凄い人たちに触れることで
学校では教えてくれないようなことを知ることができます。
それがエンターテイメントのある種の側面で、
もうひとつは日々悩んでいる時に
ちょっと背中を押してくれる、
自分の生き方を変えてくれるような働きもある。
最終的にはそれを観たり読んだりした人がものづくりの力を知って、
そういう職業に就いてみたいとか、自分も何かを作ってみたいと思う・・・
そんな作品を作りたいんです。
僕は子供の頃からそういったものに触れてきたという思いがあって、
その恩返しをゲームで表現しているだけです』。
++ Right now ++
クリエーターはアウトプットするのが仕事で、
常に出し続けていると干からびして
しまうのでインプットが必要という小島さんが手っ取り早い手段として
取り入れているのが本と映画で本屋には毎日足を運んでいるそうです。
『この世の中には素晴らしいものがいっぱいあって、
死ぬまでにどれだけそれを
知ることができるかというのを考えて、
ただ失敗しないと正解は引けなくなるので。
本屋に行くと何十万冊とあって全部読むのは無理なんですよね。
この中でどれだけ当たりがあるかというのを
自分で引く訓練をし続けていると
何となく当たってくる。それが自分の人格になってくるというか。
自分が誰よりも先に見て人に薦めるという
自分でありたいと思っています』。
手塚治虫さんが一日に一本映画を観ていたという話を聞いてから
年間に365本の作品を観ることをご自身に課しているという小島さんが
最近観た映画の中で
お薦めの作品は現在公開中のデンマーク映画「ギルティ」。
『2013年に公開された
イギリス映画「オン・ザ・ハイウェイ」という作品があって
トム・ハーディがハイウェイを車で走っていて何故か焦っているんですが
カメラは延々と車の中を映していて先に行かない、これで86分。
いかにもハイウェイが
彼の人生であるかのようなストーリー・テリングで驚きましたが
「ギルティ」はもっと凄い。
元警察官で日本で言うところの
110番のオペレーターをしている人物のもとに
電話がかかってくるというシチュエーションだけです。
で、俳優さんの顔のアップ、パソコンの画面、
電話の声と音声波形だけで80分。
「オリエント急行」や「駅馬車」などに代表されるように映画は
ワン・シチュエーションでも
窓の外の風景が変わるので映像的に凄く映えて
間が持つんですけど、
「ギルティ」は窓も無い部屋で寄りと引きくらいだけで
1本の映画を作ってしまう。
普通はもたないですがこれが凄くてびっくりします』。
今、小島さんが製作している「デス・ストランディング」は尖ったゲームで、
世界観やストーリーも含めてこの世に無いものになっているそうですが
ビジネスとしては初めてのものは受け入れられにくく、二番煎じ、三番煎じが
成功を収めるケースが一般的とか。今回は独立して自分の会社が手がける
初作品ということもあって失敗できないそうです。
++ From now on ++
エンターテイメントに関わるテクノロジーの進化で小島さんが
まず注目しているのが“ストリーム”。
現在、Netflix、Hulu、amazonなどの
配信サービスでは解像度が高い映画やドラマを
テレビ端末で普通に観ることができますが、
この流れがゲームにも来るということで
この先5年くらいでエンタテーイメンとは大きく変わるということ。
『映画とゲームは180度違う、
この間が埋まってくるので映画とゲームが
ある種ひとつのエンターテイメントになるという
未来が来ると思うので、
そこに対応するべくいち早くいろいろ考えています。
映画でもない、ゲームでもないという切り口の選択肢が増えるんですよ。
今、映画は観るだけでゲームはプレイするだけですけど、
そことは違う側面が
テクノロジーによって出てくるので、皆さんびっくりすると思います。
作り手もびっくりしますし遊び手もちょっと変わってきます』。
小島さんがその先にあるものとして考えているのがAI。
AIはデータベースがあれば学習するので、
今後はデータベースが存在しない
新たなアイディアや思考を生み出すことが人間の価値だという小島さんは
今後、ロボットの開発も手がけたいそうです。
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