2004年に小説家としてデビューし、
作家生活10周年を記念した作品『サラバ!』で
直木賞を受賞。2024年には『くもをさがす』で
読売文学賞を受賞するなど、
幅広い世代から支持されています。
西さんはイラン生まれで、大阪府で育ちました。
「父は普通のメーカーの中近東支部で働いていて、
イランに行ったり、エジプトや
ドバイへ行ったりという感じで、
それについて行ってました」
西さんが生まれた翌年の1978年、イラン革命が勃発。
「本当はもっと長くいる予定だったんですけど、
革命が起こったので帰らざるを得なくなって、
父だけ置いて緊急帰国をしました。
会社からは自己判断で帰るようにと
言われたらしいんですが、
当時の日本のサラリーマンだから、
『危険なんで』って自分の判断では帰れなかったみたいで。
私たちが帰国後、母が本社の役員に
『帰国命令を出してください!』って直談判しに行って、
それから父は最後の民間機で帰ってきたらしいです」
その後、小学校1年生から4年生までは
エジプトのカイロで生活し、
小学5年生で日本へ帰国した西さん。
生まれて初めて自分のお小遣いで買ったCDは、
映画『スタンド・バイ・ミー』のサウンドトラックでした。
「映画を観て、ベン・E・キングのあの曲に感動したんです。
映画にはただただ圧倒されましたね。
友情もそうだし、最初にリヴァー・フェニックス演じる
クリスが死んだっていうニュースから、
回想で始まるじゃないですか。
物語の作り方に幼いながら衝撃を受けて、
そこから映画そのものにもすごくハマりました」
英語は分からないながらも、
サントラを聴きながらカタカナで歌っていたという西さん。
卒業アルバムには「将来の夢は映画のスタッフ」と
書くほど映像の魅力に取り憑かれていきました。
大学時代には映画サークルで8ミリカメラを回した
経験もあり、現在の「小説を書くときに、
まずビジュアルや風景から頭の中に立ち上がってくる」
という執筆スタイルは、映画からの影響だと語りました。
「サントラを買えば間違いない」と考えた西さんは、
限られた小遣いで失敗しないよう選んだのが、
映画『ニュー・ジャック・シティ』のサントラだったそう。
「アイス-Tが出てるやつですね。
それにドハマリして、そこからヒップホップが
好きになりました。ガイ(Guy)がズート・スーツを着て、
角刈りで……」と話す西さんに、
クリス・ペプラーも
「髪型もファッションも、あの時代は
何もかもが四角くてカクカクしてましたよね!」と反応。
それに対し、西さんは
「ガイとかが着ていた、肩パッドが入って
裾がキュッと細くなったズート・スーツって、
当時の日本のヤンキーの変形制服と一緒なんですよ!
ガイと日本のヤンキーには
めちゃくちゃ親和性があるなって思ってます」
と話しました。
20代半ばまで大阪で生活をしていた西さんですが、
「自分が書いた小説をどうしても本にしたい」
という気持ちで、26歳で単身上京を決意。
しかし、東京での生活は寂しく辛かったとのこと。
そんな中、大阪のインディーズレーベルから
リリースされていた、プリンス・バスターと
大阪のスカバンド、デタミネーションズが共演した
ライブ盤『Prince of Peace』を購入し、
東京でずっと聴いていたそうです。
「本当に、このアルバムだけで
生きていたって感じでした。桜上水のアパートで一人、
すごく寂しくて……。そのCDの1曲目で、
デタミネーションズのボーカルの
高津直由さんがステージに出てきて、
『まいどー!飲んどるかー?生きてるかー?』
って叫ぶんです。本当にその声に助けられて、
その声で生きてました」と当時を振り返りました。
そして、そのCDのケースの中には、
渋谷にあるロックステディが流れるバーの
フライヤーが挟まれていたそう。
「『ここでバイトしよう!』と思って、
勝手に履歴書を送ったんです。
そしたら、そこの店長さんが履歴書を
読んで雇ってくれたんですよね。
バイトを始めたことがきっかけで友達が一気に増えて、
やっと東京が楽しくなったんです。
だから、デタミネーションズと
プリンス・バスターには、
いろんな意味で人生を助けられました」
西さんの作品にはニーナ・シモンや
カーティス・メイフィールド、
ア・トライブ・コールド・クエストなどが
登場することがありますが、
やはりご本人も好んで聴いているとのこと。
「ニュージャックスウィングから
ヒップホップを聴くようになりましたが、
ローティーンの私にとっては
“セックス・マネー・マーダー”みたいな世界観が
ちょっと怖かったんですよ。でもトライブとか
デ・ラ・ソウルに出会って、
『楽しい!オシャレで可愛い!』となって。
(トライブの)Qティップは私の
ファーストクラッシュと言っていいと思います」
と語りました。
そこから音楽を遡るように、
カーティス・メイフィールドや
ニーナ・シモンといった音楽にたどり着きます。
「歌詞を調べたら、
『え、こんなに暗いことを歌ってたんや』って
驚くことが多くて。ニーナ・シモンの
「Feeling Good」も、言葉では
気分がいいと歌っているのに、
サウンドはダウナーだったりする。
でも、どんなに悲しい内容であっても、
彼女の歌は結果として絶対に“生きる”という
方向へ向かっている感じがするんです。
そこがたまらなく好きですね。
例えばニルヴァーナも大好きなんですけど、
彼らは今にも死んでしまいそうな雰囲気がある。
でも、マーヴィン・ゲイもニーナ・シモンも、
どんなに打ちのめされていても、
最後に生の方へグッと手を伸ばしている感じがして、
そこに救われるんです」
直木賞を受賞した『サラバ!』の執筆期間中も、
西さんは「Feeling Good」を繰り返し聴き続け、
物語の推進力にしていたと明かしました。
番組中盤、クリス・ペプラーから
「西さんにとって完璧なアルバムとは?」という
質問が投げかけられました。西さんは迷うことなく、
ローリン・ヒルの名盤
『The Miseducation of Lauryn Hill』を挙げました。
「ストーリーもちゃんとあって、言い方はあれですが、
捨て曲が一切ない。1曲1曲も素晴らしいんですけど、
絶対にアルバムとして聴くべき作品なんです。
「Ex-Factor」という曲が好きで、
あれは痛みを伴う元カレとの恋愛の歌として
聴かれがちなんですけど、
私はあの『あなた』という対象を、
『自分自身』に置き換えて聴いているんです。
自分に向けた祈りの歌として聴くと、
ものすごく胸に響きます」と紹介しました。
この流れから、J-WAVEにローリン・ヒルが
訪れた際の話や、クリス・ペプラーがプリンスを
間近で見たエピソードなどで大いに盛り上がりました。
自身が体験した最高のライブとして
西さんが挙げたのは、カナダのバンクーバーで観た
ケンドリック・ラマーのスタジアム公演でした。
「CD音源のままのラップが生で飛んできて、
鳥肌が立ちました。あんな超高速のラップを、
一言もブレずに再現できるスキル。
そして、途中で客席が盛り上がっているなと思ったら、
レブロン・ジェームズがいたんですよ!
めちゃくちゃ踊ってて、
あの光景も含めて忘れられない最高の夜でした」
現在注目しているアーティストとしては、
映画監督としても活躍するイギリスの
ジェイムズ・サミュエル(The Bullitts)の
名前を挙げました。
映画『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール: 報復の荒野』や
『The Book of Clarence』などを手がけ、
自らサントラも制作する才人です。
「サントラにブジュ・バントンとか
ジョルジュ・ベンとかをフィーチャーしていて、
『この人、絶対に同年代や!』と思って調べたら、
私の2歳下でした。映画も音楽も規格外で、
今一番注目しています」
また、執筆のモチベーションとして
西さんが心の拠り所にしているのが、
ベネズエラ出身の世界的指揮者、
グスターボ・ドゥダメルの映像。
シモン・ボリバル・ユース・オーケストラを率いて
演奏したバーンスタインの「マンボ」です。
「YouTubeで何回観ても泣いてしまいます。
演奏者たちが楽器を回したり、
踊ったりしながら演奏して、
会場全体が爆発するような多幸感に包まれる。
直接音楽をテーマにするわけではないけれど、
あの動画から受け取った多幸感を、
いつか自分の言葉で小説として表現したい。
死ぬまでに絶対に書きたい、
私のライフワークです」と語りました。
作家である西さんが「歌詞にシビれた」と語る楽曲は、
チャットモンチーの「シャングリラ」でした。
「『希望の光なんて なくたっていいじゃないか』
というフレーズ。あれを聴いた時は本当に衝撃でした。
普通は『希望の光は小さくてもある』って
励ますじゃないですか。
『無くたって生きていける』と言い切った人は、
作詞をした高橋久美子さんが
初めてだったんじゃないかな。
光がない絶望のなかにいる人間に対して、
“光がなくても私たちは生きていけるんだ”と
肯定してくれた。ものすごい勇気をもらいましたし、
今でも忘れられない言葉です」
さて、この番組では「サッポロ生ビール黒ラベル」を
飲みながら音楽トークをしていることにちなんで、
ゲストの皆さんに「大人になった1曲」を伺っています。
この質問で西さんが選んだのは、
ディアンジェロの「Untitled (How Does It Feel)」でした。
「当時23歳くらいでしたかね、
あの曲とミュージックビデオは衝撃的すぎて、
『なんて、いやらしいんだ!』って叫びたくなるくらい(笑)
でも当時、私は若い女性として生きている中で、
性的な目線で見られたりすることが本当に苦しくて。
同時に、自分も男性を性的な対象として
消費するのはやめよう、と思っていたんですね。
でもあの曲のMVは、エロティックに
見てもいいんじゃないかって思えたんです。
ところがその後、ディアンジェロ自身が
性的に見られる重圧に苦しみ、
山に籠もって激太りしてしまったという
ニュースを見て……。
『私のような人間が、彼を苦しめていたんだ』と
ショックを受け、それ以来トラウマになって
あの曲が聴けなくなってしまったんです」
それから何年も経った後。
音楽活動を再開したディアンジェロが来日し、
横浜でライブを行った際、
緊張しながら客席に足を運んだ西さん。
「ステージに現れたディアンジェロは、
全盛期よりは少しぽっちゃりしていたけれど、
本当に楽しそうに音楽を奏でていたんです。
その姿を見た瞬間、涙が止まらなくなって……。
『もうあなたは性的に搾取される存在じゃない。
一人の偉大な音楽家としてここにいるんだ』って。
そして聴いている私たちも歳を重ねて、
『若い頃って、お互いにしんどかったよね』と、
言葉を超えて傷を分かち合えたような気がしたんです。
本当にビタースイートで愛おしい名曲です」
そんな西さんですが、5年ぶりとなる
待望の長編小説『きずもの』(小学館)が
9月30日に刊行されます。価値観の急激な
アップデートを迫られる現代を生きる、
傷を抱えた人々の交錯を描いた渾身の群像劇です。
足かけ3年に及ぶ新聞連載と、
その後の徹底的な加筆修正を経て完成しました。
「今の心境はいかがですか?」という問いに西さんは
「本当にワクワクしています。登場人物たちと、
ものすごく長い時間を一緒に過ごしてきたので、
今は『いってらっしゃい!』と笑顔で
見送るような気持ちです」と答えました。
本作の章立てや場面転換の鮮やかさについて、
クリスさんが
「チャプターの終わり方や次の始まり方が、
すごく音楽的で映像的ですね」と指摘すると、
西さんは嬉しそうに頷きました。
「嬉しいです!まさにアルバムを聴くような
感覚を意識していたのかもしれません。
小説は1行ずつ読み飛ばさずに進んでいく
ルールがあるからこそ、前の場面の余韻を残しながら、
次へと移り変わるような感じにしたかったんです」
タイトルの『きずもの』という
強い言葉に込めた想いについて伺いました。
「『あの子は“きずもの”になった』とか、
『脛に傷を持つ』とか、世間ではネガティブな
文脈で使われる言葉ですが、
そもそも生きていて傷のない人間なんて
一人もいないはずなんです。
人間には醜い瞬間やズルい一面があるけれど、
100パーセントの悪人なんて絶対にいない。
みんなパッチワークのように色んな面を持っていて、
多面的で、複雑だからこそ愛おしい。
そんな人間のグラデーションを描きたかったんです」
最後に「読者の皆さんにメッセージを」と促された西さん。
「本当に丁寧に、魂を込めて作った作品です。
ページ数は長いですけれど、
クリスさんがおっしゃってくださったように、
1枚の素晴らしいアルバムをじっくりと
味わうように楽しんでいただけたら、
これ以上の幸せはありません」
『きずもの』の情報はこちらから
次回10月3日は、吉祥寺を拠点に活動するバンド、
グソクムズのベーシスト・堀部祐介さんをお迎えします。
フォーキーで温かみのあるサウンド、
日常生活を反映させた親しみやすい歌詞で支持を得ています。
その音楽性のバックグラウンドには、
どんな楽曲が流れていたのでしょうか?
次回もぜひ、お聴きください。

汐吹昆布 まる昆
この「まる昆」は小さな粒に
旨味が凝縮されていて本当に美味しいので、
召し上がっていただきたいです。(西加奈子さん)

Stand By Me / Ben E. King
New Jack City / Guy
Burke's Law
/ Prince Buster & DETERMINATIONS
Bonita Applebum / A Tribe Called Quest
Feeling Good / Nina Simone
Ex-Factor / Lauryn Hill
HUMBLE. / Kendrick Lamar
Hallelujah Heaven
(feat. Lil Wayne, Buju Banton & Shabba Ranks)
/ Jeymes Samuel
'Mambo' from West Side Story /
Gustavo Dudamel & Simon Bolivar Youth Orchestra
シャングリラ / チャットモンチー
Untitled (How Does It Feel) / D'Angelo
Give Me Your Love / Queen Latifah
西加奈子さんとのトークを受けて、
クリス・ペプラーが
選んだ1曲はこちら!