ON AIR ARCHIVE
Letter #16 Emma-Jean Thackray
僕が手紙を送ったのは、Emma-Jean Thackray。
【Emma-Jean Thackray Profile】
イギリスのヨークシャーで生まれ育ち、現在はロンドン拠点で活動をする
マルチプレイヤーで、プロデューサー、ヴォーカリスト。
ブルーノートのカヴァー・コンピレーション『Blue Note Re:imagined』への参加が話題となり、
2021年には自身のレーベル〈ムーヴメント〉からアルバム『イエロー』をリリースしてデビュー。
今年9月には、初来日公演が決定!
社長:
親愛なるエマ
僕が初めて人前で音楽を奏でたのは、小学校の時、ブラスバンドのコンサートだった。
その時はトロンボーンを吹いていたんだ。
あなたはコルネットだよね。
今でも僕は、ホーンアレンジをするときとかに、ブラスバンドっぽいハーモニーをつけてしまうことがあるし、
意外とそれが好きだったりもする。
そんな作曲のことを聞いてみたい。
あなたはトラッペッターであると同時に、
いろいろな楽器をプレイするマルチインストゥルメンタルプレイヤーでもあるよね。
頭の中に曲が出来たときは、どうやって形にしているの?
どんなモノやコトが、インスピレーションの源になるの?
Best Regards, 社長
Emma:
親愛なる社長
時々、頭の中で楽曲が形になることがあります。
リアルタイムで曲が聴こえて、頭の中で楽譜が見えるような感じなんです。
こういう時は日々の生活から抜け出して、まず頭の中にあるものに耳を傾けるのです。
ベースラインやメロディーの断片しか浮かんでこないこともあるから、
それを形にするために、ピアノの前に座ったり、ギターを持って、聴こえてくる色を探すのです。
インスピレーションは、作曲していないときにいつも湧いてくるのですが
(音楽や、自然、本、絵画などを楽しんでいるときなど)、
作曲しているときは、自分のアイデアをどうしようかということだけを考え、
それ以外のことは一切考えないようにしています。
私は長い間、即興演奏や作曲を勉強し、アイデアを練るために必要なスキルを学んできたので、
今ではもうそれを意識しなくてもできるようになりました。
そういう複雑な技術が自然にできるようになり、クリエイティブな作業に集中できるようになったときが、
技術を習得した時の指標になると思います。
自分の邪魔をしなくなった時、真実を捉えることができるのです。
ただし、隣人さんが大きな音でテレビを見始めるまでは、ですけどね!
Best regards, Emma-Jean
Emma:
親愛なる社長へ
私のトランペットはすっかり曲がってしまっています。
ベルが下を向いているんです(Dizzyのとは逆向き)。
トランペットのイントネーションに影響しますが、なんとか演奏を続けています。
やりにくいこともあるけれど、好きになってきたくらいです。
楽器の修理はとても繊細な技術だから、修理してくれる人が見つかるかどうか不安です。
ほんの些細なことが、音や演奏に大きな影響を与えてしまいますからね。
私のスタジオにはいつも少し壊れているもの、言わば不完全なものが沢山あります。
鍵盤がいくつか壊れたキーボードが数台と、ネックが歪んだギターに、ちょっとだけ壊れた打楽器。
私はこういう不完全さが好きだし、それは音楽に人間らしさをもたらしているような気がするのです。
完璧すぎるものはつまらない。
あなたの音楽はとてもソウルフルですね。
完璧なものが作れるテクノロジーに溢れた時代に、
どのように人間らしさを表現し続けているのですか?
Best Regards, Emma-Jean
社長:
親愛なるエマ、返事をありがとう。
トランペット…曲がっちゃったのか…。
確かにあなたが言う通り、楽器の修理は本当に繊細な技術が必要だから、信頼出来る人を探してしまうよね。
一言で「トランペットの修理」と言っても、そこには長年の実績で培われた熟練の技が必要とされる。
そして、自分のフィーリングと合うかどうか…が、とても重要。
なぜならほんの少しの狂いで、楽器の音色は全く変わってしまうから。
音色は、表現者として、最も大切な「自分の声」なのだから、それが変わってしまう事は大問題だ。
もしよかったら、今度日本に来た時に、
うちのトランペットのタブゾンビがメンテナンスを一任している職人さんの工房を訪れてみてはどうかな。
人間らしさの表現ね。とても大切なことだね。
ラッキーなことに、僕たちはバンドだから、
いくらテクノロジーが進化しようとも、音楽のOKの基準は全く変わっていない。
レコーディングでは2,3テイク録音して、その中からOKなテイクをチョイスするんだ。
それまでにしっかりと準備をしてレコーディングに臨むから、
それで満足の行くクオリティーのものが録音できるようになっている。
そんな中で、最近とても大切にしている事は、「本能でプレイできる楽曲」をつくるということ。
コード進行やメロディー、そしてアレンジ。
体に染み込ませて、頭で考える事なく、本能でプレイできる曲であるということが、
より高いクオリティーに繋がると思っている。
そして、そういう楽曲は、ライブでも長く自分たちのスタンダードになりうることを、
この20年で学んだんだ。
Best Regards, 社長
【PLAY LIST】
Our People / Emma-Jean Thackray
Once Twice / Bugz in the Attic
Everybody Loves The Sunshine feat. Theo Croker / Kiefer
Riverflow / SOIL&"PIMP"SESSIONS
Spotifyの番組公式プレイリストはこちら