向井万起男さんへ独占インタビュー

慶應義塾大学医学部准教授

向井万起男さん

日本人初、アジア人初の女性宇宙飛行士・向井千秋さんを妻にもち、女性の生き方などを問いかける病理医であり、現在、慶應義塾大学医学部准教授を務める向井万起男さんへの独占インタビュー。宇宙飛行士の家族について、今後の宇宙計画についてナビゲーター、クリス智子がお話を伺います。

千秋ちゃんと万起男ちゃん

クリス智子(以下、ク)宇宙飛行士に千秋さんがなるっていう風に言われた時のことって覚えてらっしゃいますか?

向井万起男さん(以下、向)日本でスペースシャトルに乗り込む宇宙飛行士募集があった時、女房よりも僕の方がはるかに宇宙飛行に詳しかったと思いますよ。人それぞれ、なんで宇宙飛行士になったかというモチベーションは違うと思うんですよね。新聞でスペースシャトル搭乗員募集を見て、「なにかすごく面白そう!」「日本人でも宇宙に行けるんだ!」って言って。とにかく好奇心旺盛なんで好奇心が最大のモチベーションだったと思いますよ。

千秋さんのこと「女房」って呼んでらっしゃるんですか?

そうですね。女房って言ってますし、女房がそばにいるときは千秋ちゃんって言ってます。

もう本当にいいですね。私ね、万起男さんの本(「君について行こう—女房は宇宙をめざした」)を、読ませていただいて、最初は宇宙の話を知ろうと思って読み始めたんですけど、お二人がすごいチャーミングで!

まあ、千秋ちゃん万起男ちゃんって呼び合ってますけど、これ単なる符号でね。コード名みたいなものですよ。

千秋さんが、実際に「宇宙に行く」ってなったとき、ちょっと気がきじゃないって思いませんでした?

これはね、色々なシュミュレーション・トレーニングやってスペースシャトルとそっくりな模型に中に入って、本当に臨場感溢れる訓練していてね。人間って訓練していくと次第に恐怖が薄れてくるんですよ。で、家族もね、それを端から見ていると、だんだん「こういうものだよね」っていう。皆さんが思っているほどね、ハラハラドキドキとか、心配とかそういう気持ちはないと思いますよ、僕は。

千秋さんは1994年と1998年、2回宇宙に行かれていますけど、宇宙に行っている時、話せたりしたんですか!?

94年の時は約15日間飛んだんですけど、中日にジョンソン宇宙センターの小さな部屋で5分間だけ1回線独占して女房と2人だけで話せました。94年だから、今から16年前でしょ。結構NASAもテクノロジー古くてね(笑)。

だってひどいのよ。喋る時、ボタンを渡されるんですよ、変な携帯電話みたいなやつを。「しゃべる時にこのボタン押せ」っていうの。で、このボタンを押すんですよ。「ちーあきちゃん」って言うでしょ、そのままボタン押してると何も聴こえないの。

で、こっちは離さなきゃいけないの。だから「ちーあきちゃん」ぱって離すと、向こうが「まきおちゃん」っていうでしょ。このタイミング合わせでね5分の内だいたい2、3分終わっちゃうの。だから実質3分ぐらいかなしゃべったの。でも、とても楽しかったですよ。

そんな経験ないですもんね!

4年後は、映像付きのテレビ電話みたいでしたよ。目の前のスクリーンにうちの女房が映って、僕の姿もスペースシャトルのスクリーンに映ったりして。それで時間も3倍に伸びて15分間。1回目の時は側にフライトサージャンっていう医者がいたんですが、2回目は誰もいなかったの。まーやりたい放題。15分間、フルにバカ話してましたよ。宇宙についての話なんてほとんどしなかったな。

普通の話をしているのがきっと一番いいんでしょうね。

そうそう、宇宙にいる乗組員と配偶者の交信というのは宇宙飛行士の精神衛生上のリラックスタイムなわけですよ。だから、本当にバカ話。1回目の5分間も、2回目もNASAが映像付きで全部ビデオにとってくれたの。それをね、今僕もっていますよ。

それ、千秋さんと一緒に見る事あるんですか?

このビデオテープを一度でも見た事があるのは、僕と女房だけです。これはだれにも見せない。生涯見せない。

…ちょっともダメ?

ダメ。これはね、2人だけのお宝だしね、これ他の方に見せるにしてはねちょっとね、会話の内容に問題があるの。ちょっと全然高尚じゃないから。ビデオデッキにいれてみると画面が二つに割れてんの。右半分が僕、左半分が女房で。僕はね、ぼけーっと地上にいるわけでしょ。で、女房はねスペースシャトルの中ぷかぷかと無重力の中浮かんでるわけですよ。15分間。内容はなんて意味のないくだらない話で、あまりのばかばかしさに笑っちゃうし、元気になるんですよ。

いーな、そんなのあって。

人類は火星に行くの!?

万起男さんが、小さい頃からみていた宇宙やアポロの話から、今の宇宙の話って、どんなふうに思われるんでしょう?

今現在でいくとね、地球の周りをくるくる回っているスペースシャトル。それから国際宇宙ステーション。これは地球周回軌道にいるわけですよ。地球の重力圏の中でくるくる回っている。この地球周回軌道から「ボーン」って離れて飛んでいったのは未だかつてアポロ計画しかないわけ。だから、地球の重力を振り切って飛んでちゃった。

簡単に言うと、地球の周りをくるくる回るために秒速8kmでいいんですよ。でも地球を回らないで振り切っていくためには秒速11kmが必要なんです。この秒速11kmで宇宙に飛び立したっていうのは、アポロ計画しかないわけ。それが1969年から始まってずいぶん経っちゃったわけですよね。

月面にたった男だけでも12人いますけど、今ずーっとそれがないのでもう1回、地球周回軌道から離れて月に行くか。それからオバマ大統領がまた言い出した火星に行くか。なんとか地球周回軌道から地球の重力を振り切って飛び出していってほしいですね。

でも、月に行くのと火星に行くとのでは全然レベルが違う。例えば、月には片道4日ぐらい往復一週間ぐらいで行けちゃう。火星は往復1年半から2年ぐらいかかるんですよ。あとアポロ計画では、月に行く時、3人で行ったわけですよ。いいですか、3人で約1週間ってことは、その3人の飲み物・食い物ってみんな積んでいったんですよ。ところがね、往復2年かかるとしますよね、往復2年かかる火星の乗組員は6から8人って言われてる。6〜8人の2年間分の飲み物・食い物なんて積みこんだら、あまりに重たくて絶対に打ち上がりませんからね。じゃあどうすると思います?

どうしましょっか?

それはね、動物性タンパク質は宇宙船の中で魚類を養殖するんですよ。

えっ? 魚類を? 養殖?

お魚。だって積んでいけるわけないじゃない、肉なんか。だから、水槽の中で魚を飼うわけ。それから、植物もちゃんと種蒔いて栽培するんですよ。

箱船が飛ぶみたいな。

そう。だからね、その装置が壊れたらね、いっかんの終わりなわけ。これはね、ちょっとリスクは全然違いますよ。

そうですね。

最も火星に人類を送り込むべきだって熱心に最初に表立って言った男って、マイケル・コリンズって男なんですけれどね。これは人類が初めて月面に立ったアポロ11号の3人の乗組員の1人で。二ール・アームストロングとバズ・オルドリンって2人の宇宙飛行士が人類史上初めて月面に降りてった時に月の周りをくるくるまわって待っていた。司令船パイロットで一番冴えない役だったんですけど(笑)。

でも、地球に帰って来てきてから国務次官補にまでなり、スミソニアンの宇宙航空博物館の初代館長にまでなったとても有能な男で。彼がね、相当前ですけど、NASAに向かって提言し、「一般の方にも読んでもらいたい」という本を書いて「人類は火星を目指すべきだ」と。

ちなみに彼は、往復1年半から2年かかる火星の旅は精神衛生上を考えて、8人で行くべきだと。8人は4組の夫婦にするべきだと。具体的に国の名前まであげてるの。どこの国の夫婦? どこだと思います?

…えっどこ? 日本?

そう、日本入ってるの。アメリカ、ロシア、フランス、日本、4カ国の4組の夫婦で行くべきだと。夫婦だとやっぱり支え合ってって…。でもね、僕はね半分本気半分冗談だけども、夫婦を辞めた方がいいと思っているの。夫婦は所詮他人でしょ。だから夫婦喧嘩で壊れることがあるわけですよ。

ぼくは、兄弟がいいと思う。なんだかんだ兄弟ってねケンカしても阿吽の呼吸で仲直り出来る。でも一度壊れた夫婦はもう戻らない。だから、僕は夫婦よりは兄弟がいいんじゃないかなって思ってるんですけどね。最もベストなのは男と女の兄弟がいいと思うけど。お姉さんと弟とか。

家から2人宇宙飛行士ですか?

アメリカの宇宙飛行士で双子っているんですよ。男の双子の宇宙飛行士。出来ればね、ぼくが生きてる間に、人類が火星に降り立ってほしいなって思いますよね。

人類はなぜ宇宙を目指すのか?

向井千秋さんは、今、火星に向けての何か研究であったりとかなされているんですか?

火星についてのプロジェクトには関係してないですが、今、国際宇宙ステーションで、長期滞在に向けて医学的なこと。それから色んな国の宇宙飛行士が行ってるわけでしょ。そういうカルチャーの違いによる長期滞在による軋轢とも生まれる。そういうことに関しての仕事とか実際に宇宙でやる自然科学系の実験について色んなとりまとめだとか、仕事してますけど。

例えば、宇宙に行くのに、年齢とかは、関係あると思いますか?例えばいくつぐらいまでだったらいけるとか。

今まで最長齢で行ってるのがジョン・グレンは77歳でいってますよね。

千秋さんとご一緒でしたよね。

まぁ、普通にサラリーマンの方で、ごく普通に毎日朝起きて会社に出てごく普通に歩いて帰ってこられる方であれば、明日にでもスペースシャトルにのって宇宙に行って無事帰って来れますよ。今の宇宙飛行ってアポロ時代と違ってそんなに過酷じゃない。体にかかる負荷もストレスも決して強くないので、スペースシャトルから地球を眺めて帰ってくるだけなら、ほとんど訓練いらないです。何歳であろうが、普通に暮らしている人であれば、宇宙に行けますよ。誰でもいけます。

人はどうして宇宙に行きたい(行こう)って思うんでしょう!?

もうこれはしょうがない。理屈じゃなくて宇宙に行くって言うのはやっぱり、誰だって「あっちにいったら何があるんだろう?」って、ふと思ったらあっちにいってみたいと思うでしょ? 怖いものみたさもあるし。何があるんだろうって。

偉そうな理屈をこねるより、なにより一番重要なのは“好奇心”でしょ。一体向こうの先には何があるんだろうっていう。これだと思いますよ。別に人間が行かなくたって無人探査器で探査してくればいいじゃないかと言うかもしれないけど、やっぱりね、あの先に何があるんだろう?あの山を越えたらなにがあるんだろう?その好奇心がなくなった時って、進歩がとまっちゃいますよね。

そうですね。宇宙も好奇心か。そうですよね。

コロンブスが地球は丸いから絶対あっちにいけば、まーインドがあると思っていっちゃったんですけれど、行っちゃってアメリカ大陸を発見しちゃったていう。あの海の先に何があるんだろうっていう好奇心があったために、新大陸が発見されたわけじゃないですか。とりあえず行ってみる。

そうですね。見えないもののところに行くもすごいですけれどもね。向こうになにがあるか。

行ってみたら、また意外な発見があるのは間違いないんですよね。間違いなくある。

想像していないことがあるんでしょうしね。


»インタビュー1 ─ 宇宙に魅せられた人たち=宇宙へ押し上げている人たち

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