2013/1/18 テニスのストリンガー、細谷理さんのHidden Story

今週は、現在開催中、テニスの4大大会の全豪オープンで活躍する日本人。
テニスのストリンガー、細谷理さんのHidden Story。

ラファエル・ナダル選手も、錦織圭選手も、この方にラケットを預けます。
細谷理さん。茅ヶ崎市でテニスショップを運営しながら、世界を転戦するテニスのストリンガーです。

ストリンガーと英語で言う場合は、テニスのラケットを張る仕事といいますか、ラケットにガット、ストリングという糸を通して張る仕事なんですけど、ただ、張る相手というのは、一般の人もいれば、お店で張る人もストリンガーですし、僕のように大きな大会に行って選手のストリングを張る人もストリンガーというひとくくりになってしまいますので、ツアーでやる場合はツアーストリンガーと名乗ってますけど。

細谷さんがストリンガーとして世界の大会で活動することになったきっかけ。
それは、雑誌に掲載された ひとつの記事でした。

たまたまですね、2000年くらいに、あるテニスの雑誌を見てた時に、プロ選手のストリングを張る専属の人がいたんですね。
アンドレ・アガシという選手の専属のストリンガーがいまして。それを見た時に、この人に会ってみたいと思ったんですね。
選手のストリングと一般のストリングとどう張り方が違うのかと思って。

細谷さんは、雑誌で目にしたジェイ・シュワイズさんにコンタクトをとりました。
すると、「マイアミの大会へ来てみないか」という返事。
2001年3月、細谷理さんはアメリカ、マイアミへ飛びました。

一応、10日間の滞在予定だったんですが、2日目くらいで挫折して、もう帰りたくなりまして。

自分は張る技術に関しては、まあまあ自信はあったんです。
ま、いかんせん、コミュニケーションが、とにかく取りづらいと。
英語に囲まれる環境は、正直初めてだったもんですから、もう2日で「もう帰りたい」と思いまして、「もうやめよう」と、泣きが入りまして。
でもチケットの関係で無理だし、逃げ出すわけにもいかないので、とにかくひたすら10日間を一生懸命やったと言いますか、それで帰ってきまして、もう自分には向いていない、その時点でもう僕はやめようと思ったんですね。
そしたら、その同じ年の夏にUSオープンという大きな大会があって、そこでも呼んでもらったんですね。

泣きが入ったマイアミ。
しかし、USオープン、ニューヨークでは一度目の経験もあって、コミュニケーションが上手く取れるようになりました。
それからというもの、細谷さんは毎年、世界のトーナメントでストリンガーを務めるようになったのです。

大会中、ストリンガーのみなさんは、ストリングルームにスタンバイし、選手が持ってくるラケットにガットを張ります。

その数が膨大なわけですよ、一日そうですね、多い時は30本くらい張らなきゃいけないので、1本張るのにどのくらいかかるかというと、1本20分前後なんですよ。
その他もろもろ準備したりするのに5分、なんだかんだ30分くらいはかかっちゃうんですね。だから30分を30本40本になると、だいたい15時間ですよね。

グランドスラムは選手のエントリーが128人いるんですね。男子だけで128人、女子が128人。だいたいひとつのトーナメントで予選から本戦までやって3,000本はいきますね。
それを10人くらいでやるんですけど……だから一番忙しいのは、予選の大会が始まりますよね、その前日。それと本戦の前日。
僕らはビッグデイと呼んでるんですけど。

細谷さんが、この仕事のなかで、最も熱くなる瞬間だと言うのが
「オンコート・ラケット」。

試合中に張り替えることがあるんです。

例えばセンターコートで試合をやってますよね。試合中に選手が張り替えに出すんですよ。
それを係の者が僕らの部屋にやってきて、「だれだれ選手張り替えてください」って持ってくるんですけど、試合中ですから、20分とかで張ってると間に合わないので、基本18分くらいで張るんです。
オンコートが選手によって多いんです、ナダルとか、錦織君も多いですね。

試合中、細谷理さんは、錦織圭選手のことを他の人とはちょっと違う視点で見つめています。

楽しいんですけど、プレッシャーにもなりますね。最近、錦織君の試合を見る余裕はないですね。

どっちかというと彼の試合を見てるんじゃなく、ラケットを見てるんですよ。だから、彼がラケットを気にしだすと、すごくドキドキしますね。
錦織君の場合は、試合に勝つのが大事ですから、試合で勝てるように張ってあげたいとは思っています。
特に彼の場合は、1ポンド違うだけで気になるみたいなんで、分かんないことがあったらどんどん聞いてくれとは言ってますんで。

自分が張った選手には勝ってもらいたいと思いますから、自分が張ったラケットは何でも入ると。ラインちょっとでもかじってればいいんですから、それくらいのラケットだから、それでやれば絶対勝てるんだ、というくらいの気持ちで張ることはありますね。

「このラケットなら何でも入る」。
細谷さんは、そんな想いを込めて、ガットを張ります。

南半球、オーストラリアの空の下。
選手と共にストリンガーも戦っているのです。