2010/4/23 東京スカイツリーのHidden Story

今週は、建設が進みます「東京スカイツリー」のHidden Story。
その設計のヒントとなったのは、意外な建造物でした。

はじまりのはじまりは、2005年初頭。
株式会社 日建設計の設計部門に所属する吉野茂さんは、のちに東京スカイツリーの事業者となる東武鉄道のスタッフと面会しました。
吉野さんは、東武鉄道からのリクエストに驚きます。

最初に東武鉄道さんに会ったときに、これ本当の話なんですけど、「時空をこえた風景をここにつくってください」という要望があったんですよ。
普通、我々、設計者っていうのは 例えば、「オフィスビル何階建てのものを造ってください」とか、「何室のホテルを造ってください」とか、そういうところから始まるんですが、かなり抽象的な「時空をこえた風景をつくってください」と言われて。

「時空をこえた風景をつくってくれ」
通常の要望ではない この言葉を受けて、日建設計のチームは いっせいに考え始めました。
時空をこえた風景とは、いったいどんな風景なのか?

自分たちなりに、時空をこえるというのは何なのかと考えまして、ひとつは、古い時代からずっと、こういう高いものを目指した時代もありますし、あと現代、カナダのCNタワーとか広州のタワーとか巨大なタワーがあるんですが、それらを過去からずっとひもといて調べていこうということになったんですね。
古いものだとピラミッド、西安のタワーとか、ヨーロッパにも教会とかタワーとかあるんですが、あと現代のマカオのタワーとか東京タワーとか、いろいろ調べていくうちに、2つ、「時空をこえる」という要望に対する答えらしきものを見つけまして。

ピラミッドから東京タワーまで、人類の歴史のなかに存在するさまざまな建造物を調べていくうちに、2つの答えが導かれます。
ひとつは、これまでのタワーは、地面と平行して切り取った断面は上から下まで同じ形である。
ならば、上と下で断面の形が変化するタワーを作ればいい。
そして、もうひとつの答えは……

もうひとつは法隆寺っていうのがですね、いろんなタワーのなかで「外の形よりも足下がスっとすぼまっている」というタワーはほとんどないんですけど、法隆寺というのは、ひさしのひとつひとつの外側のラインより真ん中がギュッとせばまっているんですね。

21世紀の最新タワー、東京スカイツリーの原点。
それは、およそ1300年もの歴史をほこる法隆寺の五重塔だったのです。

では、五重塔をどうやって設計にいかすのか?
東京に 時空をこえる風景を!
誰も見たことがない 新しいタワーを!
チームの挑戦が始まりました。

東京スカイツリー。
設計チームのリーダー、吉野繁さんが明かしてくれたのは、その設計が 奈良の法隆寺・五重塔からインスピレーションを得ていること。
そして、法隆寺をどう設計に活かしたのかというと……    

その法隆寺がなぜその形で1300年も立っているのかということをうちの構造チームが調べまして、有名な話なんですが、心柱という一本の椋の木が入っているんですね。
かなり大きな模型なんかを作って調べてみると、中の心柱の揺れ方と まわりの屋根というかひさしの揺れ方が違うので、力を吸収しているようなんですね。
今回、スカイツリーも、真ん中に心柱を入れてまわりの鉄骨のやわらかい揺れ方と 中のコンクリートの、固いもんですから揺れ方が細かいんですね。
それが力を吸収しあって、地震とか風とかに対抗すると。

高いタワーの真ん中に心柱。
そして、もうひとつの課題は、根本と上で形を変えること。

足下は横の力に対して一番踏ん張れる形が三角形だったんですよ。敷地が非常に狭かったので、敷地の中に東武鉄道の本社さんを残したまま工事をしなければならないとか、地下鉄都営浅草線が下を通っていたので、いちばん踏ん張れるのは三角形だったんですね。
でも、展望ロビーのところにいくと、みんな関東の人も、日本の人も、世界の人も、自分の家の場所を探すと思うんですよ。
やはり展望ロビーは丸がふさわしいだろうと。
足下の三角形から丸にという風に、デザインは決まったんですね。

東京スカイツリー、一番下は三角形。
上にのぼるにつれて、おにぎり型、そして徐々に丸い円へと形が変わります。

さらに、日本の伝統もデザインに組み込まれることになりました。 

   

今回、デザイン監修に、東京芸術大学の元学長の澄川喜一先生が入っていまして、日本の伝統的な形とか、そういうものを取り入れて行ったらどうかっていう、日本刀の持つそりとか、むくりっていうのは、法隆寺の回廊の柱、エンタシスの柱っていうんですけど、より柱をまっすぐに見せるものなんですね。
ちょっと話が変わりますが、玉手箱の表面っていうのは、うっすらむくりっていうのがついているんですよ。
玉手箱の表面を平らにつくってしまうと逆にへこんでみえるんですね。
そういうむくりが日本の住宅には使われていまして、日本刀の持つそりと、むくりを取り入れたデザインにしようと決まりまして。
それによって見る場所によって形が違うんですよ。
錦糸町側、北側からみるとそりが勝っている形になりますね。
横から見ると、むくりという徐々にふくらんでいくラインがおなかのように出てくるんですね。
そういう意味でも世界に例のないタワーだと思います。

見る場所によって違う形に見えるタワー。
その真ん中を、法隆寺にヒントを得た心柱が貫きます。
完成すれば、634メートルで世界一。
2012年春、時空を超えた風景が東京に誕生します。