2008/8/15 甲子園球場のHidden Story

今週は・・・高校球児たちの熱戦が繰り広げられています、甲子園球場のHidden Story。

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8月の太陽は、グラウンドでプレーする選手に容赦なく照りつけます。浜風と呼ばれる風が吹くものの、スタンドに座っているだけでも体じゅうから汗が吹き出します。それでも、アルプススタンドからは地元のヒーローへの大声援。 兵庫県西宮市にある阪神甲子園球場。夏の高校野球は今年が90回の記念大会です。桑田真澄さんも、松坂大輔選手も、オリンピック代表の田中将大選手も、この舞台で 忘れられない瞬間を刻みました。 そして、そんな熱戦の裏には、知られざる努力がありました。甲子園球場のグラウンド整備を手がける「阪神園芸」の金沢健児さんはこう語ります。

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僕ら入ってから一番すごかったのは松坂でしょうから。松坂君とPLと延長17回やったとき。それは印象に残ってます。延長になればなるほど、グラウンド状態が悪くなるんでイレギュラーの確率も高くなるので、それも心配でした。斉藤君と田中君が投げ合った試合も延長になったんですが、あのとき延長14回でイレギュラーしたんですがそれが点にならんよう、祈りますよね。

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甲子園の大きな特徴のひとつは、内野の部分が土のグラウンドになっていること。高校野球の場合は、試合中の整備は「5回終了後」におこなわれるだけなので延長戦にもつれこむと、イレギュラーバウンドの確率も高まります。さらに、夏の大会につきものなのが、通り過ぎる夕立。土のグラウンドに突然の豪雨。しかし、ある程度の雨ならば、抜群の水はけを誇る甲子園。何ら心配は必要ありません。そしてこの水はけがいい理由、秘密は 冬のあいだに行われる作業にありました。

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土を30センチ掘り起こすんですね。それが一番、水はけに対して大事なことなんですがこれをよく思いついたなと思いますよね。それが誰でもできることではなく、掘り起こすのは誰でもできるんですけど、それを野球ができる状態に固めるのが水加減が難しいんです。人の手で散水するとばらつきが出るので、自然の雨を待って。で、雨が降ってその一日後なのか二日後なのか状況を見て固めて行くわけです。これを1月2月3月までで繰り返すわけですね。

オフシーズンに繰り返される 30センチの土を掘り起こして固める作業。。。「人の手で水をまくとばらつきが出るから自然の雨を待つ」土のプロ 金沢健児さんは まばゆく光る夏の空を見上げて そう言いました。甲子園球場と聞いて思い浮かぶのは外壁にからまる蔦(つた)。最初に植えられたのは、甲子園ができた年、大正13年、1924年のことでした。壁に蔦をはわせた理由は「コンクリートの壁では殺風景だから」。現在はリニューアル工事のため蔦は取り外されていますが、これまで基本的に 甲子園の壁は「緑」が守ってきたのです。いわば、壁面緑化の先がけ。

壁面緑化があることによって、コンクリートの耐久性が上がったというか80年たっても あんなにきれいな壁ですから。はずされた姿をみたら、きれいに型枠のあとが残っていて。一般市民の方も、ああ、コンクリートってこういう風になるんだと思われたと思うんですよね。

阪神園芸の永田晴彦さんは、このところ毎日、甲子園球場の近くのある場所で蔦の状況をチェックしています。 永田さんが育てているのは、リニューアル工事が終わったあとに再び植える「蔦」実は 2000年の記念大会の際に 全国の高校に「甲子園の蔦」が配られました。 この蔦を甲子園のリニューアルのために返してもらう、というのが、「蔦の里帰りプロジェクト」です。すでに全国の200校以上の高校から 蔦の苗木が戻ってきました。ふたたび壁を覆う日にそなえ、これを栽培されているのです。

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昔があったからこそ、根があそこまではっていたからこそあの蔦があったんですよね。基本的には強い蔦だと言われているので、あまり心配はしていないんですが、こればっかりは大事な、全国の高校生から期待をかけられている。高野連さんにしても、電鉄さんにしても、「再生」という形でのリニューアルですから。ドームにしようかという話もあったけどでも天然芝やろうと。「伝統」を守ろうというのが第一にあります。僕で伝統をつぶすわけにはいかないんで、ちょっとプレッシャーです。

甲子園ができた大正時代とは気候も変わっています。球場のまわりの環境も変わっています。もう一度、甲子園が「蔦のからまるスタジアム」となれるのかどうか、永田さんの挑戦の日々は続きます。そして、その胸に秘めたのは 自然とともに生きる球場への誇り。

僕らからすると、天然芝があるのは自然ですよね。蔦も植物です。土も無機質であるかもしれないですけど、天候によって変わる。これも生き物ですよね。こういう自然と調和とりながら 育ってきた球場かなと思いますよね。野球の原点って何だろう?ってことですよね。雨があるからこそ野原があったりするんですよね。やっぱり自然とやるのが一番いい球場なんじゃないかなと思うんですよね。プレーする方は暑い中、大変でしょうけど、もともとの原点は、晴天の外でボールを投げて打ってということですからそのほうが長く続くスポーツになるんじゃないかなと思います。

野球の原点を体現する球場で、球児たちは全力疾走。観客も汗を拭きつつ、大きな声援を送ります。