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「引きこもり中年男性は危険」という括りは乱暴だ【東 浩紀×津田大介】

画像素材:PIXTA

「引きこもり中年男性は危険」という括りは乱暴だ【東 浩紀×津田大介】

川崎市の児童殺傷事件と、農林水産省の元事務次官が長男を殺害した事件。相次いで発生したショッキングな事件を、「引きこもり中年男性」と関連付ける風潮が社会で広まっています。

2つの事件を「イコールで結ぶことはかなり乱暴ではないか」と語るのは、思想家・東 浩紀さん。6月10日(月)のJ-WAVE『JAM THE WORLD』では、ナビゲーターの津田大介と東さんが、この問題を語り合いました。

【6月10日(月)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/月曜担当ニュースアドバイザー:津田大介)】
http://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20190610201925(2019年6月17日23時59分まで)


■2つの事件はそれぞれ性質が違う

5月28日、川崎市多摩区でカリタス小学校の児童らが刃物を持った男に襲われ、小学6年生の女児と39歳の男性の2人が死亡、そして18人が負傷しました。刃物で襲った51歳の岩崎隆一容疑者は犯行直後に自殺しました。

その4日後、農林水産省の元事務次官の熊沢英昭容疑者が、東京都練馬区の自宅で44歳の長男を包丁で刺し、殺害したとして逮捕。取り調べに対して、熊沢容疑者は「川崎市の事件が頭に浮かび、息子が周囲に危害を加えないようにしようと思った」という主旨の供述をしていると報道されています。

この2つの事件はセットで捉えられている風潮がありますが、それぞれ性質が違う事件ではないかと、東さんは指摘します。

:川崎市児童殺傷事件の岩崎容疑者は、かなり精神的に不安定な状況にあったのではないかと思います。一方で練馬区殺害事件の被害者はSNSやネットゲームでの記録などを見る限り、ネット上に異性の友人などもいたりして、それなりに社交性があり、またひとり暮らしもしていた。岩崎容疑者はスマホもなければパソコンもないという話ですから、この二人の生活の実態はかなり違っていたと思うんです。でも、この二人が無職で同じような年代の男性だというだけで「引きこもり中年男性」とイコールで結ぶことはかなり乱暴ではないかと思います。練馬区の殺害事件は一部で「この被害者は犯罪を犯すかもしれないので、むしろ事前に防いだ側面がある」という議論が事件の直後から出てきていましたよね。
津田:元農林水産省の熊沢容疑者の行動自体を「殺すのはよくないけど、やむを得ないし、同情する」という声をけっこう見ますね。
:とんでもない話です。殺害された被害者が犯罪を犯すかもしれない可能性がどこにあるのか。例えば、被害者の彼が執拗に犯罪予告をしていたとか、犯罪歴があったとか、そういうことで父親が悩んでさまざまなところに相談をしていたというような事実があれば、もちろん殺人は決して許すことはできませんが、「事前に事件を防いだ」などの議論が出ることはあり得ると思います。でも、この事件はそんな事実がない状況なのに、みんなが勝手に、練馬区の被害者を川崎市児童殺傷事件の岩崎容疑者の加害者とイコールで結んで、推測で議論をしている。これはすごく危険なことだと思います。

川崎市児童殺傷事件の岩崎容疑者は51歳、練馬区殺害事件の被害者は44歳。ほぼ同世代にあたる48歳の東さんは、この年代の状況を踏まえて、こう話します。

:僕くらいの年齢でさまざまな事情で無職な人や、親と同居している人、独身の人は、かなりの人数いると思います。その人たちを「みんな潜在的に危険だ」「そういう人が犯罪を犯す前に社会的制裁を加えるべきだ」なんて言い出したら大変なことです。だから、僕はこの51歳の岩崎容疑者と44歳の被害者をイコールで結んで「引きこもりの中年男性は危険だ」と議論を立てることは、非常に危険だと思います。

津田は「この2つの事件が関連していると思わせているのは、メディア報道の影響も大きいのでは」と言及します。

:川崎市児童殺傷事件に対して「引きこもり中年男性が起こした」という報道がすぐに出てきたことによって、その4日後に練馬区の悲劇が起きたことは確かだと思います。ただ、僕としてはメディアが影響を与えて熊沢容疑者が事件を起こしたというよりも、むしろ熊沢容疑者がメディアでの報道をある意味、うまく口実にしたところもあるのかなと思うんです。
津田:どちらが先かわからない。
:やっぱりこの2つの事件はケースが違うと思うんですよね。熊沢容疑者が「川崎市児童殺傷事件の岩崎容疑者が自分の息子とそっくりだ」と思うのかな、と僕は不思議に思っています。
津田:そういった意味ではみんなが騒ぎ過ぎている部分があるというわけですね。


■「引きこもり中年男性」という括りを外さないと、問題の本質が見えない

「引きこもり中年男性」という括り方に疑問が残ると、東さんは続けます。

:練馬区殺害事件の被害者はSNSの記録などがあるわけですけど、それを見る限り、やっぱり社交的な人物なんですよね。書き込みを読んでいるとコミュニケーションが難しそうな感じはするんですけど、書き込み自体はすごく多いし、まわりの人間に対して怒ったり仲良くなったりしているので、完全に社会と接点を失っているどうしようもない人物には見えませんでした。もちろんこれは、SNSのアカウントを見ただけの素人の判断でしかないので、専門家からすると違うかも知れませんが。ただ、いずれにしても、とにかく「引きこもりの中年男性」は非常に広い言葉なので、それでいろいろな人を括るのはちょっとよくないと思います。
津田:そのフィルターで見ている限り、この事件の問題の原因は見えてこないから、切り分けることが大事ですよね。
:だって、「引きこもり中年男性」って山ほどいますからね。僕も津田さんもいつそうなるかわからない。まず中年で男性なんだから、あとは引きこもるだけですからね。
津田:そうですね。
:だから本当におおざっぱ過ぎると思います。

メディアの報道に惑わされず、それぞれの事件の本質を見ようとすることが、私たち個人も必要なのではないでしょうか。

次回、6月11日(火)オンエアの「UP CLOSE」は、ゲストに社会学者で首都大学東京教授の宮台真司さんを迎え、気になる時事問題からメディアの報道の在り方までジャーナリストの青木理と徹底討論します。ぜひお聴きください。 

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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

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