J-WAVE SELECTION SMBC EARTH TALK

私たちと地球の未来に向けてのビジョンを語る 今月のラインナップ

2016/1/10 ゲスト 奥田政行
(イタリア料理店「アル・ケッチァーノ」シェフ)

SMBC EARTH TALK、今回は、三井住友銀行東館ライジング・スクエア1階のアース・ガーデンで行われた、公開収録の模様を中心にお送りします。
奥田さんの地域プロデューサーとしての活動や、ちょっとビックリな得意技など、様々な魅力をお伝えしていきます。

奥田正行氏×竹村真一氏
第一部『左手の臭いを嗅げば今日の昼何を食べたかわかる?はい、食べたもので体臭が変わります』
〜「大地の翻訳者」「地球の編集者」としての料理人のしごと〜

竹村
皆さん、こんばんは。アーストーク・ナビゲーターの竹村真一と申します。この番組は私たち人類と地球の未来を、思い切りポジティブに語ってみようとのコンセプトで進めています。
今回、世界的なシェフである奥田政行さんとともに「食」をテーマに語ります。奥田さんも私もお手伝いしたミラノ博の日本館は、最優秀賞をいただきました。それはとても嬉しいのですが、ミラノ博ってそもそも何だったのか。あるいは日本館がどんなメッセージを発信したのか。そういう所が、日本ではほとんど伝わっていないようにも感じられます。
実はいま、地球の「食」は結構大変なところにきています。そうした状況に対して、日本が持つソリューションをしっかり展開すれば、たぶん世界の食におけるゲームチェンジャーに日本はなれるかもしれません。では、奥田さんをお迎えしたいと思います。
奥田
こんばんは。
竹村
奥田さん、シェフの格好でご登場ですが、これが正装なのですね。さて今日、奥田さんと久しぶりにお会いして、いきなり「左手を見せて」と言われて、奥田さんは私の左手をクンクン嗅ぎ始めました。何をしているかと思えば、左手の臭いを嗅げば今日の昼何を食べたかわかる、とおっしゃる。「カツオ節系を食べましたね」と。
「しっかりとカツオで出汁をとった夕べのお味噌汁をつくり直した、美味しい味噌うどんを食べました」と白状しましたが、そういう方です。なぜ、わかるのですか?
奥田
はい、食べたもので体臭が変わります。必ず左手の甲です。自分で嗅いでも自身の体臭になっているのでわからないのですけれども、他人のはわかります。6時間ほど前に食べて消化したものが左手の甲から香りとして出てきますから、どこどこの牛丼を食べたとか、全て当てられます。
竹村
奥田さんは人間もこうして嗅ぎ分けますけれども、マグロの口先も嗅ぐんですよね。
奥田
そうです。イワシの香りがしていればイワシを食べたマグロなので、するとマグロの身には酸味があります。イカを食べていると、マグロは丸い味になります。餌によってマグロという名のイカを食べたマグロと、かたやマグロという名のイワシを食べたマグロと、味が違うのです。
竹村
奥田さんは"アル・ケッチァーノ"で大成功した著名なシェフですし、地域プロデューサーとしても、地域おこしの名人として十分知られていると思うので、ここでは普段メディアや本に出ない奥田さんの人となりを知っていただこうと思って、こんな話からはじめました。 普通、私たちはマグロといえば「赤身」や「トロ」の違いがわかるくらいで、ほとんど十把一絡げでマグロを見ます。ところが奥田さんの場合、太平洋側を北上したマグロと日本海側を北上したマグロで、イワシを食うかイカを食うか餌が違ってくるし、水温が違うことで脂の乗り方も違ってくると・・。
奥田
そうです。日本海側は水温が低いので、皮下脂肪に脂がつくのです。だから溶けやすい脂になります。太平洋側は比較的、プランクトンは日本海側より多くて水温が高いので、身の中に脂肪が入っていき、やや溶け辛い脂になるので、太平洋側のマグロはワサビやショウガをつければ美味しく食べられます。
竹村
なるほど、霜降りのステーキを食べるみたいですね。皮下脂肪に脂がついてスッと溶けるマグロは、どんな料理にするんですか?
奥田
塩だけで食べたり、醤油だけで食べたり、あとは甘い醤油になったりします。
竹村
太平洋を北上したかどうか、あるいは水温で脂のつき方が違うから、料理法も違うなんて、なかなか料理人でも考える人はいないのではないでしょうか。
奥田
ですから本来、料理のレシピに載せる材料も、太平洋側のマグロ何グラム、あるいは日本海側のマグロ何グラム、とならなければいけません。トマトに関しても、雨が3日間降った後のトマトと、日照りが続いたトマトとは違うので、本来レシピにそれを書かなければ、正式なレシピにはならないのです。
竹村
たとえば奥田さんのお店でいただいたブリの幼魚のワラサ、そのカルパッチョに海の塩をひとふり振った料理がありましたね。"月のしずく"というから「何ですか」と聞くと、満月のときの海水から塩分を取ると一番美味しいミネラルが出てくるので、そのとき「月のしずく」のように大事に海水を掬い取り、そこからつくった塩である、とおっしゃいました。塩を振ってオリーブオイルだけで美味しくいただいたのですけれども、その海水はどこの海水でも良いわけではないのですね。そのブリが育った海ですか。
奥田
そのブリが育った海の、一番力があるときの海水を汲んできて塩をつくり、そのブリにその塩をかけると自然回帰といって、細胞が一瞬生き返り、口の中に入れると、まるでブリが泳いでいたときのような印象を感じます。
竹村
ブリが泳いでいたときの記憶を細胞が取り戻すということですか。
奥田
そうです。死んだホタテなども、氷を入れた塩水に入れると、一瞬、ピッと動きます。生きていた環境に入れると、細胞が再び動きます。一瞬、生き返りますから、そこをパッと料理します。
竹村
私はよく、地球のトランスレーター(翻訳者)と奥田さんのことを表現しますけれども、つまり食材があって、ただそれを料理するという観点ではないのですね。そうではなく食材になる前のその生き物がどこで、どんな風に生きてきたのか、その環境を見て、それを最大限に活かす料理をされるわけですね。
奥田
そうです。食べ物はミネラル以外全て生き物なので、生きている状況がわかればどのように料理すればよいかわかるのですね。コーヒー豆も、コーヒーという生き物です。お茶も生き物です。皆さんは、そこに気づいていないのです。
竹村
コーヒーは苦い。でも苦味も、植物が環境のなかで生きて行くために、虫から身を守るために出した毒です。その毒を適度に私たちが身体に入れると、コーヒーも、ハーブもそうですけれども、私たちの免疫力が上がって元気になったりする。それを料理にも生かそうというわけですね。
奥田
自然界では、苦味と酸味は毒のシグナルなので、子どもがヨーグルトよりも酸っぱい酸味を食べないとか、苦いピーマンを最初は嫌いだというのは、自然に適った行為で、自然界のシグナルを身体がわかっているのです。ところがそれを大人が何回か摂ると、実は癖味になってしまいます。
竹村
私は、これが未来の食であり、未来の料理だと思っているのです。つまり、「奥田さん凄いね、ぱちぱち」で終わるわけはなく、こんな風に食材を見る、あるいは食材になる前の生き物の姿や生きていた環境を見る。もちろん私たちは、こんな精緻なプロの目は持てないかもしれないけれども、そういう感覚を持って私たちがものを食べたり、生き物と付き合ったりするようになれば、ずい分、地球と人類の関係は変わるのではないかと思うのですね。
今日は、食の未来を語るのに奥田さんにどうしても登場いただきたかった。今は魚の話からはじまりましたけれども、野菜の気持ちを知るために土に埋もれた、という話もあります。
奥田
人間や牛などは動くから動物なのあって、植物は種から芽が出たら、死ぬまでそこから動けません。植物の気持ちを知るためにどうすれば良いのか、土を掘ってそこに自分が入ればよいのではないか。そこにずっと蹲っていると喉が渇くのですが、でも植物は喋りません。自分の前を歩く人たちに「水をくれ」と口で訴えられませんから、口を尖らせたり、目で訴えたりするわけです。これが、植物が突然変異する法則である、ということに気づきました。
竹村
確かリンゴをどのように美味しく料理できるかと、「リンゴの木になってみた」という話もありました。
奥田
サクランボですね。サクランボをタルトの中に埋めて焼いたのです。そうしたら、生産者の方がタルトを食べ残しながら、こう言いました。「お前はサクランボの気持ちがわかっていない」
わからないのでサクランボの農園に行って迷って、そのとき、サクランボの木を背中に乗せて立ってみたわけです。自分がサクランボの木として、外側から見るのではなく、サクランボの木側からサクランボを見てみました。 すると人間がどういう気持ちで採りにくるかがわかってきました。サクランボ側から人間を見て考えると、サクランボよりクリームは甘くしてはいけない。3粒目までは大事に食べるサクランボで、4粒目からのサクランボはただ欲望を満たすものに変わってしまう。ならば、ケーキの中には3粒だけ。
竹村
つまり普通、お菓子だったら砂糖で甘くしてしまうけれども、本当はサクランボは自分を一生懸命甘くして、鳥などに食べてもらおうとしているのに、その気持ちを奥田さんは無視していたことに気付いた。
奥田
そうです。人間も糖分が8度以上になってしまうと、突然、違うところに火が点いてしまうんです。なので、そのサクランボよりも、サクランボは8度以上あるのですが、クリームをサクランボよりも甘くしないところが大事なのです。そしてサクランボの言い分をきちんと代弁してあげる。サクランボは実を鳥に食べてもらって、その種を鳥の胃袋にしまって遠くに運んでもらうために、甘くするわけです。
竹村
私たちはどうしても食材や生き物を「三人称」で、対象として見ます。しかし奥田さんはそうではなく、「一人称」でサクランボの立場から、どんな料理にしようかでなく、どんな料理に「なろうか」と考えてみる。
奥田
そうするとオリジナルの、まったく違う料理やお菓子ができてくる。でもこれが、なかなか理解されない。
竹村
それと同時にワインなどでも、よくテロワール(terroir)といって、同じ斜面でもちょっと場所が変わり、日の当たり方が変わるとまったく違う品質のワインができ上がるなど、それと同じような感覚があるわけですね。
奥田
自然を見ると、後ろにある山が高くて、尾根までの距離が短かったら川の流れが速いので、冷たくて透き通った水をここの植物は与えられているのだろうと思います。山が低くて、海までの距離が長いとゆっくり流れるので、ミネラルをたっぷり含んだ少し濁った緩めの水がそこの植物に撒かれていることがわかってきます。また後ろが広葉樹林だったから、針葉樹林だったから、どんな野菜ができているか、そこのところを見ていると全て読めてくるのです。
世界のワイナリーなども見に行きます。ぼくは典型的なノッペランとした日本人顔をしているので、ワイナリーに行くと、「うちのワインのブドウはどうの、こうの」とうんちくを語られるのですが、「あの山の裏はこんなブドウになっていて、あの山とこの山の稜線のあいだのブドウだけ背が高いでしょう」などと言うと、その人は驚いて、「奥田、(なぜそう思うか)教えてくれ」と突然、立場が逆転します。
竹村
私は宮大工の本を書いたことがあるのですけれども、宮大工も同様です。材木を買ってきて、それをただ組み立てるだけと思いきや、とんでもない。山のどの当たりの斜面なのか、同じ木でもその材が日が当たっている側なのか、影の側なのかによって、材木の質が違う。それぞれの材がどんな場所に育って、日面(ひおも)てなのか、日浦(ひうら)なのかをきちんと見て組み合わせないと、木がてんでバラバラに曲がってしまう。でもそこまできちんと読んで、木の癖を合わせて組むと、年月が経つほどにどんどん安定した強い建造物になっていって、結局、1000年以上となる法隆寺のような建造物も可能になると言います。
そのために、「木を買わず山を買え」という宮大工の口伝があるのですが、森や全体を見なければ、その木材の質がわからない。それと同じことですね。
奥田
そうです。その生きている環境で違います。
竹村
私たちがこれからどのように生きていけばよいか、奥田さんからはとても大きなヒントを与えていただいていると思うのですね。カリスマ奥田としてではなく、プロだからできる、のではなく、そういう目で生命と付き合うようになったとき、私たちの食文化はだいぶ変わるのではないかという気がします。
奥田
うちの店では調味料は全く使っていません。食材の状況を選んで、その食材だけで味をつくっていきます。人間の身体に良いように、生で食べてもらいたい植物は、たとえばサクランボなどは生で出す。大根などはかじると辛くなります。あれは、生でぼくを食べてはいけないよ、というシグナルなので、大根は火を通して食べていただくと、人間と地球の生態系がつながるので、地球のメッセージが伝わってきます。

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