J-WAVE SELECTION SMBC EARTH TALK

私たちと地球の未来に向けてのビジョンを語る 今月のラインナップ

2015/10/11 ゲスト 山崎直子(元宇宙飛行士)

SMBC EARTH TALKの第一回目ゲストは元宇宙飛行士の山崎直子さんが登場! 2010年に日本人女性としては2人目の宇宙飛行士として、スペースシャトル ディスカバデリーに搭乗し、ロボットアームのスペシャリストとして活躍。 そんな山崎さんが考えるAI、ロボット、そして地球と人との未来とは?

山崎直子氏(宇宙飛行士)×竹村真一氏
第一部 【コスメティックはコスモス(宇宙)を身にまとうから来ている】

竹村
今回のゲストは宇宙飛行士の山崎直子さんです。
まずは、宇宙飛行士を目指されたきっかけをお話しいただけますか。
山崎
小さないろいろなきっかけが積み重なったのですが、子どもの頃見たアニメ『宇宙戦艦ヤマト』や映画『スターウォーズ』のようなSFの影響もとても大きかったです。もうひとつ、当時、私が小学生の頃、ボイジャーという探査機がきれいな土星や木星の映像を届けてくれました。その映像も、非常に印象深かったのを覚えています。
竹村
考えてみれば、ボイジャーは私たち人類が遠い宇宙の先を見る眼差しを獲得したきっかけでした。本当だったら、どんな望遠鏡を使っても見えないような、非常に拡張された視覚を人類が得た。そういう形で新しい時代がはじまったという感じですね。
山崎
あの映像にワクワクしたのを思い出します。肉眼で見るとほんの点にしか見えませんが、望遠鏡を使うとかろうじて輪っかやいろいろな模様が見えるのですけれども、それがさらにより鮮明な映像が届いたことにとても驚きました。
竹村
実はこのラジオのスタジオは六本木ヒルズの33階にあります。この六本木ヒルズの毛利庭園には、何と"宇宙メダカ"が放されています。宇宙で孵化したメダカの子孫ということですが。
山崎
私の先輩である向井千秋飛行士が宇宙に行ったとき、メダカを一緒に連れて行きました。そのメダカが宇宙できちんと赤ちゃんを産みました。それは初めてのケースでした。そのメダカが地上に戻ってきた後、子孫がどんどん増えていったものを、毛利衛飛行士がここに放流したと伺っています。
日本はメダカもそうですし、カエル、ガマアンコウなど、水の中に棲む水生生物の宇宙実験にとても蓄積がありまして、世界的にもメダカの繁殖に初めて成功しました。
でも、全ての生物が宇宙で孵るかというと必ずしもそうではなく、今までメダカ、あるいはカエルも卵を持っていたところオタマジャクシに孵った例はあるのですが、たとえばニワトリの卵は宇宙に持って行っても、ヒヨコに孵りませんでした。
ですから重力がある、ないという環境の変化によって、まだまだ私たち生き物にどういった影響があるか、そこがまだわからない点が多い、わからないことがわかってきたところです。
竹村
逆に宇宙という違う環境に置かれることによって、地球という環境、重力がある、空気があることの有り難さがわかります。われわれは当たり前過ぎて、普段、そういうことを感じることがないのですが、それを改めて認識するのでしょうか。
山崎
私たちが当たり前だと思っていた環境の中で、私たちはずっと過ごしてきたわけですけれども、でも宇宙から見ると決して当たり前ではありません。私も宇宙から地球に帰ってきたとき、フワッと風が吹いてくる、その風の心地よさ、空気のおいしさ、その一つひとつが本当に幸せだと思って、ですから有り難いことだと思いました。
竹村
この地球環境がどれだけ宇宙環境の中で有り難いことか、漢字で書くと「有り」「難い」、まさにレアだということですが、そういうことは地球にいるとなかなかわからないので、逆に宇宙に出て初めて認識することもあるでしょう。重力にしても、まさに宇宙にいると無重力の中で筋力が衰えて地上に戻ってくると大変だ、という話を聞きます。
山崎
宇宙に来ますと、だいたい太ももあたりの筋肉が、初期の頃は1日当たり1%ずつ減っていってしまいまして、骨の密度も1カ月で数%弱くなって減っていってしまいます。ですからイラストに出てくる宇宙人は足が細くてひょろっとした体形に近づいていますけれども、あれは、あながち間違っていません。
宇宙ではそれでも良いのですけれども、地球に戻ったときに、またきちんと歩けなければ困りますから、毎日、私たちは2時間、宇宙でも運動することが日課になっています。自転車をこいだり、腰のあたりをベルトで固定しながらランニングマシンで走ったり、最近ですと空気圧を使いながらスクワットのような屈伸運動をしたりすることもできます。
そのようにして運動していくと、筋肉、骨の衰えはかなり防げるのですね。ただ、宇宙に行ったときの変化は加齢現象に近いのですけれども、それは歳を取る、時を経るだけではなく、重力を使わないことで減少が起こるのです。ですから私たちは普段歩くと良いと言われますけれども、重力を使うことで、むしろ身体の健康は維持できると、そんなことも研究しています。
竹村
宇宙は多くの人にとってはまだ縁遠い世界で、ほんの一握りの方々が宇宙に行ける、自分には直接関係ない世界と思われているかもしれませんが、今のお話を伺っていると高齢者医学など、誰にとっても切実な問題に関わってきますね。われわれは地球で重力をパワーユーズして健康を保っている。そうした観点を、もっと高齢者医学に応用できる、という話ですね。
山崎
まさに、そうです。ですから宇宙でのいろいろな実験や研究のデータを、私たちの地上の生活のスタイルに生かしたいと思っているのです。
竹村
宇宙も意外と遠い世界ではないという気がしてきたのですが、「宙女(sorajo)」ですか、宇宙開発など、宇宙にもっと興味を持ってもらえる女性を増やす活動もされていると聞きました。
山崎
宇宙というとどうしても、ロケットや人工衛星など機械的なイメージがあるのですけれども、最近ですと、物をつくる人はもちろん大地にたくさんいるのですけれども、それだけではなく、つくったものをどう地上で使っていくか。たとえば人工衛星にしても、気象衛星「ひまわり」ですとか、通信放送衛星ですとか、私たちの日常にいろいろな形で溶け込んでいます。
けれども、もっと、もっと、たとえば農業の畑や田んぼを宇宙からモニターすることでよりよく効率を上げていこうですとか、最近ですと、GPSのような測位衛星の精度をもう少し上げることで車の自動運転、運転の補助などいろいろな形で使っていく研究がされています。
あるいは、私は女子美術大学で客員をしているのですが、芸術と宇宙も、きっと結びつきが強いであろう。普段、お化粧品のことをコスメティックと言いますけれども、あれは元々、コスモスという宇宙を指す言葉からきています。ですからお化粧をすることひとつ取ってみても、昔は男性の方もしていました。歌を歌ったり、踊ったり、お祈りを捧げたりするのと一緒で、宇宙と対話をする意味があったのではないかと言われています。
ですから宇宙はきっと私たちの生活と密接に関わるのだろうということで、より多くの女性も含めて、多くの方の視点が集められたらと思っています。
竹村
面白いですね。私のもともとの専門は人類学ですが、諸民族の化粧や身体装飾を見ていると、色彩にしても文様にしても、まさに「コスモスを身にまとう」のがコスメティックであると感じます。天文学の天文も、宇宙の、「天のメッセージを読む」ということでした。
山崎
あっ、そうですね。
竹村
コスメティックも、宇宙の本質を身にまとうということになってくると、実はこういう宇宙開発がはじまる前から人類はもっと宇宙を身近に感じ、コミュニケーションをしていたのかもしれません。
山崎
私も宇宙に行ったとき、無重力で身体がフワッと浮いたとき、どことなく懐かしい感じがしました。身体の細胞が喜んでいるというと変ですけれども、懐かしがっているような感じ。宇宙って、私たちの故郷だと思うのです。私も、皆さんの身体も、地球も、元はといえば星の欠片、宇宙の欠片でできていて、きっと遠いところではなく、全ての源、故郷であろうと感じましたので、いろいろな切り口があるのだろうと思います。
竹村
彗星が降ってくるようなところ、山などで彗星を見ていますと、まさに降ってくるレベルを超えて、星屑の中に私たちが入り込んでいく感覚を地上でも感じることができるのですね。そういうとき、サン=テグジュペリの『星の王子様』を思い出します。星にポツンと一人でいて、宇宙にさらけ出されている。
 でも、実際に彗星というのは地球に降ってくるわけではなく、星屑の中に、球体としての地球が突っ込んでいくわけですね。
山崎
ああ、広い宇宙からいえば、地球のほうが飛び込んでいくような。
竹村
そういうことですよね。宇宙飛行士の体験はできませんが、ときどきそういう形で、宇宙の中の地球人みたいな感覚になることが、地上においてもあるのですね。
山崎
私はスペースシャトルに搭乗して、国際宇宙ステーションに行きましたけれども、それぞれ秒速8キロメートルで地球の周りを回っています。マッハ25という、音よりも25倍速いスピードです。よく皆さんに「速いねー」と言われますけれども、でも考えてみると、この地球も太陽の周りをもっと速い、マッハ50を超えるようなスピードで回っているのですね。私たちは普段、そんなスピードは感じませんけれども、私たちも宇宙をこうして旅しているんだなと思うと、不思議な感覚になります。
竹村
自転しているだけでも、相当な速度ですからね。宇宙からの視点で、地球にいるという当たり前なことの面白さ、不思議さを改めて感じます。

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