Dublin via London 2010/10/16

感動した事は未だに昨日のことの様に話せるんです。その“ドキドキ感”が残っているのを考えると、本当に大事なのはやっぱり物じゃないかもなあって。

小松易 (かたづけ士)

1969年北海道生まれ。高崎経済大学在学中に交換留学生としてアイルランド・ダブリンへ渡り、帰国後、サラリーマンを経て、2005年かたづけが苦手な人に向けて個人カウンセリングとコーチングを提供するかたづけコンサルティング「スッキリ・ラボ」を開業、日本初の「かたづけ士」として活動をスタート。個人・企業に向けて、これまで延べ2000人以上に「かたづけ」コンサルティングを行っている。「たった1分で人生が変わる かたづけの習慣」など、かたづけに関する著書も多数。
 

ダブリンで3ヶ月のホームステイを終えた時、トランクを見て「これ1個で生活出来てたんだ」と。(小松)

まず“かたづけ士”という肩書きは、ご自身で考えられたんですか?

はい。思いつきなんですけど“片付けをやる仕事”というのは今まであったんですが、“片付けが出来るように習慣化する”というテーマで考えたときに、コンサルタントとかだと長いので“かたづけ士”と“士”を付けました。実は当初は“師”で始まったんですけど、ある方と話してて最終的にはそういう人がもっと増えた方がいいんじゃないか、“士”にした方が広める意味にもなるのでは、と。

なるほど。で、その“かたづけ士”になるきっかけが旅だったと伺ったんですが?

旅というか、留学で生まれて初めて海外、アイルランドに行ったんですね。通っていた大学で交換留学制度が始まって、姉妹校提携した先がダブリンの大学で。実は僕、子供の頃から、今言うと恥ずかしいぐらい物を持っていて、割とコレクター体質だったんです。音楽も本も好きで、大学時代の寮はまあまあ小綺麗なんだけれども物で溢れていたんですけど、ダブリンで3ヶ月のホームステイを終えて帰る時、荷造りしようとベッドの下から出したトランクを見て「これ1個で生活出来てたんだ」と、ふと日本に居た時の物の多さに気付いて。

あ、そうか!3ヶ月間トランク1つで大丈夫だったじゃないかと。

当時、20年近く前の日本は使い捨て文化と言われてた位の時代ですから、物ありきが当たり前の生活だったんですよね。ダブリンに行ってとにかく学んだのは「本より経験」というか、ホストのお父さんテリーさんとの出会いもあったんですけど、とにかく経験重視の方で、色んな人に会わせてくれて、色んな所へ連れて行ってくれたんです。

そのホームステイ先での経験とトランク1つで問題無かった事の2つが大きく影響した訳だ。それまでは、そんなに片付けとか得意な方ではなかったんですか?

そうです(笑)。片付けというと2つの分野があって、物を捨てる事と残ったものを配置するという、前半を整理、後半を整頓と言うんですけど、その2つは違うものなんですよね。大学時代、整頓は出来たんですけど、整理が出来なくて、今の時点で何が本当に必要かを見極めずに物が溢れてたのが、アイルランドで整理を学んだと思うんです。

小松さんの『たった1分で人生が変わる 片づけの習慣』を読ませて頂いたんですけども、色々と心が痛かったです(笑)。まず整理、使わない物は捨てると。でも捨てられない物もある…とは思いませんか?

そうですね。この仕事始めた5年前は「とにかく捨てた方が良いですよ!捨てることが全て!」というような話をしてたんですけど、今思うのは、本当に今要る物と要らない物の判別というか、判断が出来る人になって欲しい(笑)。よく思い出グッズを捨てられないと言われるんですが、当時は「そんなの持ってても仕方ないじゃないですか。今使わないでしょ?」ってなんとか説得してたんです。でも今は、「全部必要ですか?10あったら、それを1か2に収めても、思い出というのを語れたり、再体験出来るとしたら、8割は手放しましょう」とか。


とにかくアイルランド全体が音楽好きなんですよ(小松)

留学されたダブリンの印象はどうでしたか?

着いたのが夜の8時頃で、ホストのお母さんと当時9歳の息子さんが迎えに来てくれた車に乗ったんですけど、真っ暗だったんですよ。向こうも多少緊張してたと思うんですけども、そんな中でも「あそこが行く大学よ」とか「あそこの町は~」とか英語で言ってくれて、でも真っ暗なので分からないまま“Yes”だけ言ってるぐらい僕も緊張しながら家に着いて、2階の案内された部屋のベッドで寝て。朝目が覚めて、カーテンを開けて見えた、日本と全く違う家々がずーっと向こうまで続いてる風景には物凄く感動しました。写真には残してないんですけど、未だに脳裏に焼き付いてますね。「ああ、違う所に来たんだなあ」って気持ちと、朝の清々しい気持ちとが、五感に染みついていて、それがダブリンの第一印象ですね。後、ホストのお父さんがやたらどこにでも連れて行ってくれる方で、「この人仕事してるのかな?」って思ってて、後で聞いたら丁度転職の時期で、人生のことを考えてた時に日本人の男が来て、非常に興味を持ったんだと。

その時の季節は?

ちょうど夏休みが終わって、毎日曇りがちになる時期の9~12月ですね。だから食卓ではよく、夏休みがいかに楽しかったか、日が長かったかを聞きました。お母さんがよく「子供達が10~11時まで明るいから子供達が遊んじゃって」と話すんで、何で自分は時期をずらしちゃったんだろうって(笑)。

本当に夏は11時位まで明るいのが、急に7~8時で真っ暗になっちゃうんですよね。ただその代わり、夜が長い分は家族で居間で寛ぐ時間が長くなりますよね。

それで思い出すのが、とにかくアイルランド全体が音楽好きなんですよね。家の中もそうですし、路上も今でこそ日本でも盛んになってますけど、当時右見ても左見ても、ギター弾いたり、小さいドラムを叩いたりして、ホストのお父さんもバウロンって打楽器みたいなのやりますし、娘さんはピアノが物凄く上手で、息子さんはバグパイプとか、ティンホイッスルとかやったり。

もう皆やるんだよね。僕もアイルランドの音楽が凄く好きで、自分でも取り入れたりしてるんですけど、いつも思うのはあれ究極のアマチュア・ミュージックなんですよね。プロフェッショナルって概念を持ってなくて、パブで皆演奏して騒ぐでしょ?あれも「さあ仕事終わった!」って来て一杯飲んでから、鞄から笛とかヴァイオリンとか出して、知ってる曲があると段々加わってきて。始め一人だったのが店中皆で歌って踊って誘われるっていう。あの感じは凄いですよね。

凄いですよね。居間で演奏が始まって「じゃ、お前何が出来るの?」って言われた時が一番(笑)。何も出来ないんですよ。でも唯一歌えると言ったら、伴奏するから歌えと言われて、日本の歌を結構紹介させて貰ったり、“Storong voice!”とか褒められたり、凄く相手を称えるお父さんで、こちらも調子に乗ってどんどん持ってるものを引き出されていく訳ですよね。そんなことばっかりでした。


アイルランド大統領直々の手紙が届いて「アイルランドで良いステイを更にして下さい」みたいな事が書いた手紙が入ってて、「日本でこんなことあるかなあ」と。(小松)

その留学先のお父さんが凄い行動力だったそうですね?

ある時、お父さんが電話していて、電話してると何かイベントが起きるとこっちも分かってくるんですが(笑)。すると「地元の小学校にセットしたから、その日に行ってきてくれ」と言われたんです。「何するの?」と聞いたら「折り紙折れるだろ?英語で鶴の折り紙を授業してきてくれ」と。ずっとホストに折り紙を披露してたんです、鶴とか兜とか。そしたら朝から夕方まで3クラス、校長から紹介されて「今日は折り紙を学びます」と、折り紙先生を3時間別クラスでやったら、小学校5年生位の学年なんですけど、初めて東洋人を見て「日本は何処?」って話から始まって「今日は何するの?」「鶴=crane bird」とかままならない英語で言って、とにかく「この四角い紙をこんな風にします」と言ったら、「キャー!」となる訳ですよ。1時間かけて一つ一つ教えていって、出来上がったら皆手を叩いて喜んで。

うわぁ、凄いね。その日に折り鶴が出来たってだけじゃなくて、子供達は折り方を学んだんだからね。未だに折れるかもしれないし、後輩や子供達に教えてたら凄いよね。

そうですね。恐らく百人位に教えたので、一人でも魅了されてたらね(笑)。私も人生の中であの時の感激は無いですね。

折り紙は大統領にも持って行ったんだって!? どういうこと?

そうなんです。発想が凄いですよね。またお父さんから「大統領に鶴を作って届けろ」って、お父さんと官邸に行って、あんまり近づくとここは危ないので官邸の50m位先に車を停めて、「看守の人に箱を渡してこい」と。ちゃんと説明しないと危ないことになるので、箱を開けて見せて、当時の女性の大統領の「メアリー・ロビンソンという方に」と渡したんですよ。勿論渡った瞬間は見てないんですけど、2週間位経ってから大統領直々の手紙が届いて、しかも大統領の割と大きめな、サイン付きの写真と「ありがとうございます。アイルランドで良いステイを更にして下さい」みたいな事が書いた手紙が入ってて、「日本でこんなことあるかなあ」と。

ないね(笑)。ええと、あと地元のラジオにも出たの?もうスターダムじゃないですか(笑)。

勿論単独でじゃないんですけど、クリスマスイヴにアイルランド・グラフトン・ストリートってミュージシャンが集まったりする賑やかな通りで、毎年恒例の7~8時間の生放送があって、アマチュアからちょっとしたスターまで、色んな人が出て5~10分話すんです。「そこの1枠をとったから、行け」と、またテリーがアレンジしてくれて、一体テリーは何者なんだと(笑)。丁度一緒に居た大学のメンバーと3人で、「じゃあお父さん、何すればいい?」「お前の出来ることをやったらいい」と言われ、とにかく歌おうとアカペラで『きよしこの夜』を、英語だとつまんないので “『Silent Night』 in Japanese”と言って歌ったんですよ。後でラジオを録音して貰ったのを聞いたんですけど、ずーっと英語で話してるのに、そこだけいきなり野太い声で日本人の学生が、ちょっと音外しながら歌った『きよしこの夜』が92年12月アイルランド全土に響き渡ったという。物凄い経験でしたね。

テリー、凄すぎですね。かなり行動力ありますね。色んな事を教えてあげたかったんだろうなあ。

そうですね。元々行動的ではないというか、人に押されて出るタイプではあるんですけども、その行動が色々積み重なって本当に思ったのは、将に今、葉加瀬さんとお話していて、感動した事は未だに昨日のことの様に話せるんです。学校で確かに英語を学んだんですけど、殆ど覚えてなくて、でもテリーと色んな所、大統領の官邸にドキドキしながら行ったその“ドキドキ感”はやはり残っているのを考えると、本当に大事なのはやっぱり物じゃないかもなあって。じゃ、物を何の為に物を持ってるのかと。

そうか、深いね。小松さんの片付けというのは、ただ綺麗にするだけじゃないね。深いなあ。


フィッシュ&チップスとかでもあれも半分以上ポテトですから(笑)(小松)

ダブリン、食事とか全然問題無かったですか?

基本的に何でも食べる方で、ホスト先のお母さんは仕事もされてて帰ってきてからのご飯になるので、いつも「ごめんね」ってあり合わせの物とか。大体ポテトばっかり出てきましたけど、出掛けると、日本でも今アイリッシュパブが沢山ありますけど、フィッシュ&チップスとか、でもあれも半分以上ポテトですから(笑)。後は、初めて飲んだ黒ビールですね。大学の歓迎会で「何飲む?ギネス?」って聞かれて、飲んだこともないのに「Yes!」と。出てきたら上に白いのが乗ってて、真っ黒で、衝撃でしたよ。正直一瞬躊躇ったんですけど、2~3杯飲んでく内に病み付きになりましたね。

あの辺りは、パブ行ってビールやりながら芋食べてれば何も問題はないからね。

チャージが無いので、行ってビールとスナックが何セントで本当に安くて、何軒梯子しても安く済むので、人気のパブは凄いですね。グラフトン・ストリートに大学の仲間と行った時に一番覚えてるのは、もう入り口から入れないよって所に滑り込んで朝の山手線の満員電車以上に混み合った中、皆楽しそうに話してて、出た方が良いんじゃないかって所に1時間位居たことがあったんですけど、何だろうこれは!?って(笑)

何であんなに立ってられるんだろうね。「座るでしょ!普通!」って思うんですよ。ロンドンでもそうなんだけど、ずーっと立ち飲みするんだよね。椅子があっても!2~3時間喋りながら何杯も何杯も飲んでね。あれは文化の違いだね。肉も食べました?美味いでしょ?

羊が美味かったですね。北海道出身なのでジンギスカンは大好物でしたから。でも本当に食べ物に関しては余り気にせず、家族で皆で白い食卓を囲んで食べたのが良かったですね。


自分にとって本当に必要なものは何かを楽しみながら確認出来る機会が旅じゃないでしょうか。(小松)

ロシアにも行かれたことが?

はい。96年に3~4日、ホームステイのような形で行かせて貰った事がありまして、ウラジオストックの側の田舎町なんですよ。ボストーチンという町だって記憶してたんですが、なんとなく未だに本当にその名前だったのか違和感がある位の田舎で、ついこの間ネットで引いたら「地図にはない町 ボストーチン」という記載が誰かのブログにあったぐらいなんですよ。

これもまた学校関連だったんですか?

ある語学団体のホームステイだったんですけど、それもある種独特の経験で「ロシア人ってどんな人種だろう?」とか、勿論ロシア語は殆ど話せず、英語を交えての会話で。とにかく生活がシンプルでしたね。印象深かったのは、ゴミ箱が家に1個しか置いてなくって、部屋はいくつかあるんですけど、日本だと各部屋に当然あるじゃないですか。それに象徴されるように、マガジン、ロシア語で店のことなんですけど、店もまばらで、物資がまだまだ浸透してない時期だったもんですから、シンプルに生きてる様が凄く楽しかったですね。一度でもいいからそのシンプルさを味わう、もしくは家を一回リセットする、つまり片付けするっていうのは、自分を見つめ直すきっかけになるのは間違いないなって思います。

そうだね。シンプルにしていくっていうのは、今大切なことかもしれないなあ。さて、最後に小松さんにとっての旅とは?

そうですね、振り返ってみると、旅は、余裕をもって自分をリセット出来る所。それが自分の持ち物、片付けという観点でついつい今は見ちゃうんですけど、自分にとって本当に必要なものは何かっていうのを、ゆっくりと楽しみながら確認出来る機会、それが旅じゃないでしょうかね。

 

PLAYLIST

  1. WINDOW IN THE SKIES / U2
  2. YOU CAN LOVE ME NOW / HOTHOUSE FLOWERS
  3. FALLING SLOWLY / GLEN HANSARD/MARKETA IRGLOVA
  4. AMARANTINE / ENYA
  5. ONE PINT OF LOVE / 葉加瀬太郎
  6. THE MAN WHO CAN’T BE MOVED / SCRIPT

LINKS