Harare via Paris 2010/01/09

私にとって旅は“最高の学校”ですね。

中村安希 (作家)

1979年京都生まれ。三重県で育ち、2003年にカリフォルニア大学アーバイン校舞台芸術学部を卒業。社会人生活を経て、2006年からユーラシアとアフリカ大陸を中心とした47カ国を旅行し、2008年に帰国。その旅の様子を綴った『バックストリートの星たち ユーラシア・アフリカ大陸、そこに暮らす人々をめぐる旅』で第7回開高健ノンフィクション賞を受賞。加筆され、タイトルを変えた『インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日』が昨年11月に出版されたばかり。
 

出来るだけ先進国ではなくて、私達が普段知らないような国に行きたかったんです。(中村)

ユーラシアとアフリカ大陸を684日。この旅のきっかけは何だったんですか?

大学時代、ミュージカルもシェークスピアも何でもありの舞台芸術を勉強していたんですけども、その大学が非常に前衛的な舞台を作るんです。海外の民族や国際政治をステージに取り入れて表現していくという学部で、その先生が「表現者になるには色んな世界を見てくることが凄く重要で、そういうものを生かして新しい物を作れ」という強い方針を持っていたんです。「大学を出たら旅に行け」とも言われていたし、行ってみたかったので、先生の言葉が一番のきっかけですね。

大学を卒業してヨーロッパとかに旅する方って沢山いらっしゃると思うんですよ。でも普通は2週間位じゃないですか。26歳で旅に出て、中村さんのように韓国からモンゴル、中国、東南アジア、インド、中東、アフリカ…と47の国を2年かけて旅されるような人はそんなに居ないですよね(笑)?

そうですね。やっぱりこれから新しいものを表現しようという時に、新しいものを発掘したい想いと「アメリカや日本ではなかなか見られないような違った文化を見なければいけない」という気持ちがありましたので、出来るだけ先進国ではなくて、私達が普段知らないような国に行きたかったんです。それを海外旅行だと思って行っていたら、2週間位になったと思うんですけども、どちらかというと将来の芸術活動に対する投資というか仕事という気持ちで行ったので、バケーションの気持ちも無いですし、ガイドブックがあることも殆ど知らずに出て行って、向こうで初めてバックパッカーという言葉を知った感じです。

ちなみに、行くことについて親御さんはどう仰ってたんですか?

何も言わせないように、何も言わずに出ました。言えば勿論親は心配しますし、止めるかどうかは分かりませんけど心配をかけますので、言わずにというのがいつものやり方です。でも途中で連絡はしました。1年位経った時、トルコに居たんですけども、イスタンブールの大使館で日本から蚊取り線香と薬を受け取ろうとしたら失敗して、大使館から電話をかけました。

「安希ちゃん今どこに居るの?」「イスタンブール」って?

そういう感じです(笑)。


ジンバブエのハラレは、経済が破綻してる割に意外と人が落ち着いていて、何食わぬ顔でいるのが凄く不思議で。(中村)

47カ国の中でも印象的だったのがジンバブエと伺いましたが、ジンバブエってどこでしたっけ?

アフリカの東南の内陸部、南アフリカ共和国の上にあります。私が行った2007年は経済が破綻した状態で、首都はハラレと言うんですけど、街並みは先進国のようにビルが建ち並んで、大使館にもエレベーターがついていて、ガラス張りのオフィスがあるんですけども、物が無くて。スーパーの棚もがら空きで何も置いていない、不思議な印象でしたね。

物がないという事は、物凄いインフレが起きるよね。レートも毎日変わって、街も乱れていくんじゃないですか?

スーパーインフレだったのでいつも札束を持ち歩いて買い物に行く感じでした。でも暴動とかには余り遭遇してないんです。経済が破綻してる割に意外と人が落ち着いていて、何食わぬ顔でいるのも凄く不思議で。ハラレも昔は先進国だった訳で、そういう状況が起きて失業率も90%位なのに、ちゃんとネクタイを締めてスーツを着た人が道を歩いている。「彼等は何をしているんだろうか?」って。それを見ると、もしかしたら日本が同じ状況に陥っても、意外とそのままスーツにネクタイでやることは無いけども道を歩いて、生活しているんじゃないかと思いましたね。パニックになったところで、どうしたらいいか分からないと思うんですよ。

実際食べるものが無い中での生活はどういう風にしてるんですか?

確かに食べ物もどんどん街から消えていくんですけども、あのスーパーインフレの中では皆が安定した米ドルが欲しい訳ですよね。私の場合海外から来ていて、非常に強い通貨であるドルを持っていたので、意外と美味しい物が食べられたりしました。

今はどういう状況なんでしょうか?

去年の夏にも訪れたんですが、通貨のジンバブエ・ドルは消滅して、現在は米ドルと、南アフリカのランドという通貨を使っていて、一応インフレは無くなって安定しています。それに伴って周辺国が物資を入れているので、夏の時点では物資が60%位、スーパーの棚も6割方埋まって、大分落ち着いてますね。


パキスタンのペシャーワルはタイムスリップしちゃったような錯覚を覚えるんです。(中村)

他に印象的だったのがパキスタン?

はい。行く前は、もしかしたら非常に危ない国かなと思っていたんですけど、インド側から国境を渡って行ったら、物凄く明るいんです。インドって実は物凄く暗かったのかなと思う位明るくて。イスラム圏の人達って非常に暖かくて、自分達の伝統やモラルを大事にしている中で経済もどんどん発展させていて、とにかく活気が違うんですね。皆お喋りが好きで、基本的に余りネガティブな事を言わないというか、非常に前向きで暖かい発言が多いですね。

どの街が良かったですか?

どこの街も良かったんですけど、文化的な面で言うと、ペシャーワルというアフガン近くの街が非常に面白かったですね。一昔前な感じがするんです。発達した機器とかが無くて、お茶屋さんは昔ながらの入れ方で大きな樽を使って入れてくれるし、肉屋さんは豪快に肉を切っているし。映画で作って初めて見ることが出来る世界を、生で見られる面白さですね。その風景は、アジアの中だとある程度観光向けに残されているものが多いですけれども、パキスタンのペシャーワルはそのレベルが違っていて、本当にそこで人が生きているので、タイムスリップしちゃったような錯覚を覚えるんです。

なるほど、面白そうですね。その前のインドではどんな街に行かれたんですか?

インドはコルカタから入って、バラナシとか有名な街をいくつか回って、西の端のラジャスターンという所に行って、その後デリーを通って北の方に行き、ダライ・ラマ14世の居るダラムサラに行って、アムリトサルという国境付近の所からパキスタンとの国境を越えました。

インドからそれだけ旅されてきても、パキスタンはやっぱり違いました?

違いますね。インドは発展してきてると同時に凄く貧困もありますし、なんとも言えない暗さもあるんですよね。

食べる物にも違いが出てくると思うんですが?

それが嬉しかったんですけど、肉料理が増えますね (笑)。インドはヒンドゥーなので牛肉が駄目ですから。逆にパキスタンに行くと豚肉が食べられないんですけど、豚は動物園で見せて貰いました(笑)。


タンザニアでは折角だから宝堀りしようかなって(笑)。(中村)

その土地ならではの体験もしつつ旅して来られたと思いますが、途中で結婚したの!?

はい、ペーパーの上で結婚したんですけど、これは大した事じゃなくて(笑)。イスラム圏の国、特にイランに入る時、戒律が厳しいので女性1人だと入れてくれなかったりするんです。同伴の男性で一番良いのは「夫」だと事前に聞いていたので、ナンパして結婚して、ビザを取ったんです。

ええ!? ちょっと待って下さい(笑)。国に入る為にビザが必要で、女1人じゃ無理だからナンパして、結婚して、ビザ取得して、離婚(笑) !?

はい。入国して離婚です(笑)。相手の彼としても形だけで。その方もバックパッカーで、それぞれ行きたい方向は違ってたので。でもそれも旅のテクニックの1つです(笑)。

他にも何か珍しい経験はありました?

タンザニアでたまたま知り合ったビジネスマンに「オレ山持ってるから、日本に宝石を輸出したいんだ」と誘われて、一緒に宝石掘りをしました。多少は石とかも出てきたんですけど、彼等と私達とではビジネスの捉え方が余りにも違うので、結局喧嘩になって終わりでしたけど。先進国の人間としてそういう国に行くと、向こうはビジネスチャンスだとか日本にコネを作るチャンスだとか、色んな思惑があって近づいてきて、私もブラブラしてるし折角だから宝堀りしようかなって(笑)。キリマンジャロの山の麓にある鉱山とかに行ってましたよ。


南アフリカ共和国は非常に洗練されてホットで音楽が面白い国という印象でした。(中村)

今年サッカーW杯が開催予定の南アフリカ共和国にも行かれてますが、どんな国でした?

私は都市の方にしか行ってないんですけども、第一に先進国で、それから場所によっては非常に治安は悪いと思うんですけど、本当に危ない場所を避けて行けば面白いものも沢山ある国だと思いました。特に去年行ったケープタウンは、本当に音楽が良いですね。特にマリンバとか打楽器が良くて。向こうの人はご飯を食べるのと音楽を楽しむのは同じ位の感覚なので、非常に洗練されてホットで音楽が面白い国という印象でした。

この沢山の国を巡った旅を『インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日』という形で出版されましたが、今後はどういう表現活動をしていこうと思ってらっしゃるんですか?

これからも色んな世界に出掛けて書いていくというのはやります。それ以外にも大学時代にやっていたステージ。あと写真も沢山撮っているので、それも含めて世界の事を伝えていきたいですね。今年は是非中南米を攻めたいなと思っています。行った事が無いのと音楽が面白そうなので。凄く期待しています。

さて、最後に中村安希さんにとっての旅というのは、どんなものですか?

私にとっては“最高の学校”みたいなものですね。色んな事が学べて、自分自身の変化が沢山あって、自分の弱点とか強みとか、そういうものがどんどん露わになってくるので、それに対してどう対処するかとか、そういう事がどんどん分かってくる。もう最高の学校ですね。


 

PLAYLIST

  1. WAKE UP(IT'S AFRICA CALLING) / YOUSSOU N'DOUR
  2. INCI TANEM / TARKAN
  3. MASVINGO NETARA / ROBSON BANDA AND THE NEW BLACK EAGLES
  4. WHY ME WHY THEM / REZ ABBASI
  5. SOMETHING IN THE WIND / 葉加瀬太郎
  6. AFRICA / SALIF KEITA

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