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「ロシア語学科なんか選択して季節外れじゃないの」とか言われましたけどね。(島田) 初めて海外旅行をしたのはいつ頃ですか? 学生の時ですね。20歳くらいだと思います。1980…81年かな、ロシアへ行きました。当時はソ連と言ってましたが。 何でソ連に? 大学でロシア語を専攻していたんです。習った言葉は使ってみたいものですからね。 ロシア語を専攻した理由は? ロシア文学に影響されて? もうロシア文学熱は冷めてるし、左翼活動も下火になってる時期で。「ロシア語学科なんか選択して季節外れじゃないの」とか言われましたけどね。でも日本で暮らしてると、アメリカのポップミュージックやハリウッド映画に周囲を固められてて…。 ということはロシアに興味を持った島田さんは、どちらかと言うと完璧にマイノリティですよね。“ロシア語、ロシア文学、ソ連に旅行に行こう”なんていうのは(笑)。 そうそう。文化的には反米なんですよ。 でもアメリカのハリウッドとかに興味はなかったんですか? 全くなかったわけではないけれどね。詰襟の学生服を着た人達がフォークギターを買ってジョン・デンバーの『カントリーロード』とかやったりして、それを「恥ずかしいなー」と思って見てるわけですよ。 その辺はスノッブ…というのは変ですけど一歩引いて見てたわけですね。「何だよアレ」という人だったのね、若い頃(笑)。 そう。「やっぱシェスタコービッチの方がいいだろ」と思ってるんですよ。 あははは(笑)。でもクラシックも凄く好きでしょ? そうですね。ジャズとかロックは殆ど教養ないので。当然このジェネレーションだと知ってなくちゃいけないのを殆ど知らなくて、未だによくバカにされますけどね。 逆にクラシックはいつ頃から聴いていたんですか? 小学校5年ぐらいの時、家に中古のステレオが来たんです。でもかけるレコードがない! うん(笑)。 小遣いを持ってレコード屋に走る! それで1時間色々と吟味して。あの当時はシングル盤が400〜500円かな。その値段で一番長く聴いてられるのはどれかなと思って探してたら、シューベルトの『未完成』だった。つまり1分あたりの単価が安いレコードを探してたの。そしたらクラシックになっちゃったんですね。 それきっかけですか(笑)?! 自分でピアノ弾いてたとかじゃなくて? いやいや、そんなことはなくて。 でも凄い価値観でレコードを選んじゃったのね(笑)。それで聴き始めて、どんどんクラシックをいいなと。中学、高校とずっとそういうのを聴いていたんですか? ずっとそうですね。 珍しかったでしょ? でもー、学年に3人くらいはいるわけ(笑)。 はは。僕も同じクチですからね(笑)。 マルボロ掲げて救急車に乗ってしまいました。(島田) 伝説にもなってますけど、マイルス・デイビスに会った時というのは、どういう状況だったんですか? 香津美さんとマイルスの写真があるじゃないですか。 あれはライブハウスで撮ったものなんですけどね。僕はレコーディングが終わって1週間くらい向こうのミュージシャンと色々セッションをやっていたんですよ。ある日、ワン・ステージ目が終わった時に客席がシーンとしてね。「なんだろう。俺達の演奏盛り上がらなかったのかな」と思ったら、店のマネージャーが「あそこあそこ、来てるよ」と言うんですよ。「何が来てるのかな」と思ったら(笑) その前にロシアに行ってた? いわゆる“語学研修旅行”と言うやつですよ。夏休みに1ケ月レーニングラード、今のサンクトペテルブルグに滞在して習って来るわけですね。“どの程度自分のロシア語通じるのかな”と試しに行くわけです。 純粋にファースト・インプレッションはどんな感じだったんですか? 「随分ぶっきらぼうな所だなぁ」と思いましたね。普通、大都市へ行けば光と色彩で満たされてる。何しろそれが資本経済だから。ショーウィンドウみたいな状態にどこの都市もなりますよ。 はい。 だけど資本経済じゃないということは、まず色がない、光もない。 無駄なものないですもんね。 そうなんですよ。店に何にも売ってないんですよ。本当に生活必需品しか売ってないんですよ。 それがかなりショックだった? 一番興味を持ったのは、こっちは外国人で資本制経済にどっぷり浸かってる日本人ですよ。その僕らが見ると、一応建前上は社会主義・計画経済だけど。要は二重経済なんですよ。闇経済の豊かな世界があるんですよ、アンダーグラウンドの。 そっちは豊かなんだね。 だってルーブルなんて殆ど紙屑みたいなもんでね。パンとか石鹸は買えるけど、ジーンズは買えないし。あまりお金の価値がないんですよ。銀行預金しても全部利子が付かないからみんなタンス預金してるんですよ。 はい。 ドルに替えないと好きな物も買えないんですよ。ドルだったら何でも買えるんです。だからみんなドルが欲しいんですよ。ルーブルの大枚はたいて観光客が持って来る時計とかカセッターとかジーンズとかを買いたがるわけ。 うんうん。 言わば、自国の通貨に全く信用が置かれてないと、限り無く物々交換経済に近くなってくるんですね。この営みが結構面白いんです。 その時は何日間くらいいたんですか? 初めての時は1ケ月くらい。 1ヶ月色んなことが分かりますもんね。 そうそう。アメリカ製のマルボロ、これが通貨の代わりになってますね。 はは(笑)。 例えばタクシーがなかなか捕まらない。ところがマルボロを持って手を挙げると止まるんですね。そのマルボロでタクシーに乗るんです(笑)。 …お金払うんじゃなくて、マルボロで払うんだ。 マルボロで救急車に乗ったこともある。 ははは(笑)。 これはどういうことかと言うと、「タクシー来ないなー」とマルボロ掲げてたら救急車が止まっちゃったんです。「今、患者乗ってないから乗ってけ。何処でも連れてってやる」って(笑)。 凄い経験だな、それ(笑)! |
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ロシアには“ニューリッチ”という人達が出てきた。(島田) ソ連が崩壊した、その後のロシアには何度も行ってるんですか? 何度も行ってますよ。トータルで1ダース以上は行ってますから。 崩壊後はかなり変わりました? 普通の国になっちゃったというかね。今は“ぶったくり資本主義花盛り”って感じ。今は“手っ取り早く儲けようと思ったら人は何をするのか”という見本が全部ありますよ。ともかくカジノばっかりとか。キャバレーみたいな綺麗なおネエさんがいる酒場が林立してたりとかね。 そうか、手っ取り早くとはそういうことか。非常に浮いたお金だ(笑)。 マフィアが興してね。一番手っ取り早く稼ぐのは暴力で、ゴリ押ししてマフィアの世界に入ると確かに儲かるけど。でも“足を洗おうと思ったら、それは死を意味する”みたいな世界。 ひょえー。でも清く正しい人達もたくさんいるんでしょ? もちろん。素朴な人達はいますよ。 でもやっぱりどちらかというと闇社会の方が力が強いんだ、今は時代的に? そうですね。“ニューリッチ”という人達が出てきてね。 そういう人を“ニューリッチ”って言うの? 昔は共産主義の時代は“赤い貴族”といって。官僚が蓄財に励んで、まぁ日本でもそうですけど貴族的な暮らしをしてるというようなことありました。でも今はマフィアがらみでニューリッチという人々がいたり、少数ですけどネットビジネスで成功した人とかもいます。 ふーん。 そういう人向けに凄く高級なレストランとかあって、そこへ行くとみんな退廃的な暮らしをしてますよ(笑)。 随分と色んな層が出来てきてるということだよね。そうなっていくのが当たり前だけどね。それはまだ渾沌とする前夜という感じなのかな。ニューヨークも東京もそうだけど、色んなものが入り混じるとわけわかんなくなるじゃないですか。 それで言うと昔『コットンクラブ』みたいな映画がありましたよね。あれはハーレムがオランダ人の街だったけど、それがアフリカ系のアメリカ人に移り変わっていく代替わりのせめぎ合いをした話だったりするし。 そうですね。 『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』なんてのは、リトルイタリーとチャイナタウンの攻防とかが話のネタになってますよね。今のモスクワは近いところがあるんじゃないですかね。 そういう風に出来ていく感じなんだろうね。“整備”というか“分割する前”みたいな感じかなぁ。 そんな感じしますよ。 蒸留に蒸留を重ねて90何度の密造ウォッカを作るんです。(島田) 僕は島田さんの何が好きって、食べ物について書かれてるのを読むのがホント楽しくてしょうがないんですけど。 ありがとうございます。 ロシアは美味しいんですか? 楽しい食事はたくさんありますか。 基本的にはロシア料理は家庭料理ですよね。シチというスープですね。 いわゆるボルシチみたいなものですか? シチはスープの意味? そう。“ボルシチ”で1つのカブのスープのことを言って、これ実はウクライナ料理なんです。 へー。 “シチ”と言うとたくさんの種類があって、肉が入ってるもの・魚が入ってるもの・キノコが入ってるもの…ともかく具沢山のスープのことを“シチ”と言うんですよ。これはまさにおふくろの味みたいなもので家庭によって全然味が違うんですよ。これは美味いです、飽きないし。 なるほどね。 あと我々には見慣れないもので、サーロというラードがあるんですよ。 豚の脂身? 脂身の塩漬けです。これを薄く切ってバターの代わりにパンに乗せて食べる。あるいはそれを細かく切ってウォッカを飲む時につまみにする。 味はパンチェッタみたいなものですか? そんなものです。だけど赤いところがない。全くラード! 100%脂身か。凄いね。 シベリアの人は大好物でね、でもコレを食べる必要があるんですよ。 寒いから? そう。毛皮もフェイクファーなんかじゃシベリアの寒さ凌げないから、やっぱり脂肪を付ける必要があるんですよ。でも夏になってもその脂肪は落ちないから、結果は推して知るべしですよね(笑)。 あははは(笑)。必需品というのは分かりますね。あとウォッカもそういうことでしょ。あそこまで度数の高いものでないとダメだし。 密造酒があってね。磨きあげるんですよ。蒸留に蒸留を重ねて、どんどん度数を高くするんです。もうそうなるとマニアですよ。だから90何度の密造ウォッカとか、みんな嬉々として作るんですよね。 スピリタスという96度のポーランド・ウォッカがありますが。あの世界ですよね。ただ痛いだけですもんね。 火、噴けますよ。練習したことあります。 何何?? スピリタスで火を噴くんです。口に含んで霧状に出してライターで火を付ける。青い炎がバッて出るんです。 ははは(笑)。何それ宴会芸として(笑)? 宴会芸として。 島田雅彦ゴジラ状態?! マジそれ(笑)。凄いねー! 危ないんで絶対真似しない方がいいですね(笑)。 凍結した川がハイウェイになってダンプカーが走るんです。(島田) “ロシアの広大な大地”みたいなイメージがあるんですけど、忘れられない風景とかありますか? シベリア鉄道を半分、4日間かけて乗ったことあるんです。ところがね、いつ見ても風景同じなんですよ。 はははははは(爆笑)。景色が変わってくれない。 カレンダー貼ってあるみたいなんだもん、変わらなくて。 ずっと一緒だ。僕はアメリカのバスでフロリダの方まで行った時はずっとそうだったな。いつ起きてみてもずーっと一緒なんだよね。でもデカいよね、ロシアにしてもアメリカにしても。そういうの実感しますよね。 そうですね。 日本にいると、新幹線に乗ったらコロコロと風景が変わるのが当たり前になってるけど。 実物は一瞬しか見てないんですけど、冬になるとシベリアの方の川、アムール川とかは全面結氷するんですよ。で、その時に川がハイウェイになるんですね。非常に車線の広いハイウェイに代わるんですよ。 走れるの、それを? 走るんですよ、ダンプが。冬場には輸送能力が格段に上がるの。これは凄い壮観ですよ。 ちゃんと止まれるのかな、氷の上で? 雪がザラメ状になるんです。つまり気温が低すぎると溶けないんで、ザラメ状になったものがストッパーになるのでスリップとかしないんですよ。 僕達の知ってる氷じゃないんだね、全然違う次元の氷なんだね(笑)。それは初耳ですね。 いつもみんな毛皮の帽子を被ってますよね。あれはやっぱり必需品でね、あれがないとホントに脳みそ凍っちゃうんですよ。 実際何度くらいになるんですか? 経験したのはマイナス30度くらいまでですけど。感覚としては、鼻水が凍るので鼻水が凍る時に、物凄い勢いで鼻毛が引っ張られて痛いんですよ。それでいつも泣いてるんです。涙が凍ると、それを溶かすためにさらに涙が出る。 自発的に(笑)。 そう。“涙は実に温かいものだなー”ということを感じるわけですね(笑)。 やたら文学的に聞こえるのは僕だけでしょうか? ちょっと汚い話なんですけど。ちょうどシベリア鉄道が駅に停まってる時に“大”の方をもよおしてしまって、したんですよ。そうするとそのまんま線路にポトンと落ちるわけです。それで何事もなかったように終えて、何事もなかったように駅のプラットホームで一服してたら遅い朝日が昇ってきて。 はい。 そしたら先程自分がした…自分のだって分かるんですよ。何でかと言うとトイレに紙がなくて自分のメモ用紙とか領収書とかをくしゃくしゃにするクセがついてて、それをトイレで使うんです。その紙が分かるから「あ、あれはオレのだ」と。 うん。 順序としては、大便、次に紙、その次に流した水、そうなってるでしょ。 そうですね(笑)。 その最後の水が凍ってツララのようになってるわけです。これに遅い朝日の照り返しがあって、クリスタルの輝きを呈していて。 うわっはっはっはっは(爆笑)!! 今までした自分のものの中で、一番綺麗な大便がシベリアで見た大便でしたね。 キラキラキラって。朝日の中で(笑)。 持って帰りたいなと思ったぐらい(笑)。 あはははは(爆笑)。 |
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