ON AIR DATE
2016.09.11
BACKNUMBER
  • J-WAVE
    EVERY SUNDAY 20:00-20:54

Let's travel! Grab your music!

TUDOR logo

Theme is... William Eggleston




『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。


★★★★★
番組前半はリスナーの皆さんからお寄せ頂いた旅のエピソードと、
その旅に紐付いた曲をオンエア!

後半のテーマは「ウィリアム・エグルストン」。
「写真会のサリンジャー」と呼ばれ、メディアにも滅多に登場しない
エグルストンを訪ねてメンフィスを訪れた訓市。
本人と対面するまでの苦労したエピソードとは?
その場での会話、エグルストンの魅力について語ります。



★★★★★
番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。
ドライブ旅で聴いた曲なども教えてください。

旅に紐付いた「リクエスト曲」をオンエアさせていただいた方には
図書カード1,000円分をプレゼントします!

番組サイトの「Message」から送信してください。
手書きのハガキ、手紙も大歓迎!
日曜日の夜に聴きたい「ゆったりした曲」をゼヒお寄せください。


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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛

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2016.09.11

MUSIC STREAM

旅の記憶からあふれだす音楽。
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
1

I Can See Clearly Now / Jimmy Cliff

2

Learning To Fly / Tom Petty & The Heartbreakers

3

Eblouie Par La Nuit / ZAZ

4

That SUmmer Feeling / Jonathan Richman

5

きれいだ / SION

6

Let's Stay Together / Al Green

7

I'm In Love With A Girl / Big Star

8

Everybody Needs Somebody / Primal Scream

9

Reservations / Wilco

2016.09.11

ON AIR NOTES

野村訓市は、どこで誰に会い、
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。

Kunichi was talking …


★★★★★★★★
今の時期はまだ空気もカラッとして暑く、風景を見るのに一番素敵な時期だと思います。それは日本だけじゃありません。僕がアメリカの街や郊外、打ち捨てられた工場や車なんかを思う時は、何もない景色がいいなぁと思うんですけど、そういう景色の素晴らしさをどうやったら伝えられるのか。試してみてもだいたい言葉が足りなくて伝えられないんですが、そんな時に頼るのがウィリアム・エグルストンという写真家の写真です。みなさんは、エグルストンという写真家を知っていますか。彼は70年代の初頭に、ニューヨークにあるモマの展示会で、初めて“カラー写真”というものをアートとして発表したカメラマンの一人です。不思議なことに、それまでカラー写真というのは家族がスナップ写真で撮るような写真で、芸術とかアートというものとしては一切認められないものだったらしいです。もし芸術として写真を撮るのであれば、誰もがまだモノクロを撮っていたんです。色に頼ることなく、その構図や陰影、表情で勝負する。そういうのが芸術としての写真だったみたいですが、そこにエグルストンという人は色を持ち込みました。アメリカのありふれた日常。人が注意を払うことを忘れていた、打ち捨てられたような風景。そして、どこか懐かしいような色でそういうものを表現したんです。色褪せた道端の看板、草原に寝転ぶ少女、それからゴミ。エグルストンが撮ると、あらゆるものがそこに意味を持つような気がします。そしてその写真を眺めていると、なんだか自分が旅先の傍観者として周囲を眺めている、その時の気持ちとシンクロするんです。旅を思い出させてくれる写真というのは、撮ろうと思っても実はとても難しいです。綺麗だと思って撮った大自然の写真は、あとで見てみるとなんの変哲もないフラットな山の写真になってしまったり、これはいいと思った水平線と浜辺の写真は、あとで見るとただの線で、そもそもなんでその写真を撮ったのか自分でも思い出せないくらいの出来です。ところが何気ないものばかり切り取るエグルストンの写真には、なぜだかその旅先での風景を思い出させるものが必ずなにかあるんです。僕はエグルストン本人に、どうやって被写体を選び写真を撮るのか聞いたことがあります。そこには、僕もうまい風景画を撮ってやろうという下心があったんですけど、彼は、『写真を撮ろうと思って街をうろつくことはない。向こうからそれはやって来るんだ。』と言っていました。難しい言葉ですが、なぜだか僕はそれを言われてとても納得してしまいました。要は、僕が写真を撮ろうとする時、それは思い出のためや綺麗な景色を撮って誰かに見せたいとか、どこか下心があって、人に見せようと思うからつまらない写真になってしまうのかな、と。エグルストンが言うところの『心を解放してなにかしら訴えてくるものがあった時に、自然にシャッターを切ればいいんだ。』というのは、すごく納得する話でした。



★★★★★★★★
僕がエグルストンに最初に会ったのは、もう10年近く前のことです。どうしても一度会ってみたかったんですが、彼は写真界のサリンジャーと呼ばれるくらい人嫌いというか、メンフィスに住んで滅多にメディアに出て来ない。アメリカジャーナリストが取材をしようと思っても、なかなか出ないという人でした。そこで僕は困った時のハーモニー頼み、映画監督のハーモニー・コリンに頼んでみました。彼はアーティストとして、ハリウッドからアングラまですごい人脈を持っています。しかも同じ南部、テネシーに住んでいたので聞いてみると『あぁ、会ったことあるよ。マネージャーの息子になら連絡つくから紹介してやる。』とすぐにメールをしてくれました。すぐその返事が来て、『親父に会えるかどうかわからないけど、メンフィスにくることがあったら事務所においで。』と書かれていました。それだけで飛行機をブッキングしてメンフィスに行ったんですが、突然、その息子からの返信が途絶えてしまいまして、再びハーモニーに頼りました。『ちょっとなんとか息子に電話して、俺がいまメンフィスにいるって言ってよ!』そうすると連絡がつきまして、息子とその事務所で30分だけ会えることになりました。偶然にもその息子が僕と同い年で、いろんな共通の趣味があったんです。それで30分だけのはずが、その場でエグルストンのプリントとかカメラコレクションまで見せてもらいまして。最初に『親父には会えない。』と言われてたんですが、『親父に挨拶したい?彼はインタビューを受けたり写真を撮ることはないし、僕もそうしろとは言えない。でも、あいさつくらいはできるかも。あとはお前の運次第だ。』そう言って電話をしてくれました。『東京から親父の仕事のすごいファンの友人が来ていて、是非あいさつしたいと。』
答えがイエスで、行けることになりました。すると息子は『俺は一緒に行かないよ。親父にそんなこと頼めないし。住所をあげるから自分で行ってらっしゃい。グッドラック。』と言われました。ビビりながらエグルストンの家に向かって玄関のベルを鳴らすと、スーツを着た本人が出てきました。『お入り。』とリビングに入れてもらいあいさつをしたんですけども、興奮した挙句に質問攻めにしてしまうという悪い癖が出て、僕がしゃべっていました。でも、妙に波長があいまして、そのまま午後の3時になりました。3時というのはエグルストン本人がお酒を飲み始めていいという、勝手に決めた時間らしく、ウィスキーを飲みだしたんです。『お前も飲むか?』もちろんイエスですよね。気づけは3時間以上は経っていました。昔のことから写真の撮り方、コレクションで持ってる古いライフルを構えてくれたり。現代音楽が好きでピアノを弾くんですけども、ピアノまで弾いてくれました。食事の時間が近くなって退散したんですけど、帰り際に『またおいで。』と言ってくれました。お礼の電話をしなければと、すぐ息子に電話をしました。「親父には会えた?」『会えた。』「まさかインタビューできたか?」『うん、できた。』「それはラッキーだな。滅多に受けないんだから。聞きたいことは聞けたのか?」『もちろん聞けた。何しろ今終わったから。』「え?!あれからずっと親父の家にいたのか?」そのあとライフルの写真を撮ったり、ピアノまで弾かせたって言ったら絶句されまして、『それは気に入られたんだな。』そして、これからは何かやりたいことがあったらいつでも連絡してらっしゃい、という仲になりました。今でも雑誌に写真を載っけたい、とメールするとタダで使わせてくれたりします。そしてメールの最後に必ず『またメンフィスに戻っておいで』と書いてあります。いつ、またあのアメリカの南部に行っていろんな音楽を聴きながらウィスキーが飲めるのかなぁと夢想しています。