ON AIR DATE
2016.07.10
BACKNUMBER
  • J-WAVE
    EVERY SUNDAY 20:00-20:54

Let's travel! Grab your music!

TUDOR logo

Theme is... DRIVE!

『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。


★★★★★
テーマは「ドライブ」。
訓市が世界旅を始める以前、夏の夜に友達が運転する車の助手席で過ごした
忘れられない思い出、
テキサス時代に親友のデイブと二人で目指したパリ・テキサス、
夏のバルセロナからローカルのビーチに辿り着くまでのエピソード・・・。
この日のミュージック・ストリームは全曲、訓市がセレクトします。



★★★★★
番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。
ドライブ旅で聴いた曲なども教えてください。
この夏の間に、「ドライブ・ミュージック」特集もお送りする予定です。

旅に紐付いた「リクエスト曲」をオンエアさせていただいた方には
図書カード1,000円分をプレゼントします!
3曲セットの「ミュージック・ストリーム」セレクションでもOK!

番組サイトの「Message」から送信してください。
手書きのハガキ、手紙も大歓迎!
日曜日の夜に聴きたい「ゆったりした曲」をゼヒお寄せください。


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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛

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2016.07.10

MUSIC STREAM

旅の記憶からあふれだす音楽。
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
1

Magic In The Air / Badly Drown Boy

イギリスのシンガー・ソングライター、バッドリー・ドローン・ボーイが2000年にリリースしたデビュー・アルバム『The Hour Of Wilderbeast』から。

2

In Another Place In Time / Donna Summer

1989年のアルバム『Another Place And Time』に収録されている曲で、プロデュースは「ユーロビート」で80年代中頃に一世を風靡したストック・エイトケン・ウォーターマン。

3

Second Chance / 38 Special

アメリカのサザン・ロック・バンド「38スペシャル」の1988年のアルバム『Rock & Roll Strategy』に曲で、グループとして最大のヒットを記録しています。

4

I Miss You / Klymaxx

アメリカのR&Bグループ「クライマックス」が1985年にリリースしたシングル曲で、全米チャート3位を記録しています。

5

車の中で隠れてキスをしよう / Mr. Children

1992年にリリースされたMr. Childrenのセカンド・アルバム『Kind Of Love』から、ブレイク前のミスチル・サウンドです。

6

You / Lani Hall

アメリカ人女性シンガー、ラニ・ホールのソロ・デビュー・アルバム『Sun Down Lady』から。

7

In Space / Royksopp

ノルウェーのエレクトロ・ハウス系デュオ「ロイクソップ」のデビュー・アルバム『Melody A.M.』から。

8

The Sunset (A Reminiscent Drive Mix) / Coco Steel And Lovebomb

Coco、Steel、Lovebombの3人からなるイギリスのエレクトロニック・ユニットによるチル・アウトの名曲です。

9

Driving (Masters At Work Racing Mix) / Everything But The Girl

トレイシー・ソーンとベン・ワットの男女デュオ、エブリシング・バット・ザ・ガールのヒット曲を、リトル・ルイ・ヴェガとケニー・ゴンザレスによるユニット「マスターズ・アット・ワーク」がリミックスしたヴァージョンです。

2016.07.10

ON AIR NOTES

野村訓市は、どこで誰に会い、
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。

Kunichi was talking …


★★★★★★★★
僕らが若かった頃。誰もが、特に男なら18歳になるとこぞって同時に車の免許を取ったものだった。好きな時間に好きなところに行ける道具。周りも大体すぐに免許を取る中で、取らない者というのは、受験で忙しい、すでに働いている、そして通い事が苦手で期間内に取れない事を繰り返した僕くらいのものだった。もっとも免許がない方が酒は飲めるし、だいたい僕は方向音痴で誰も運転を求めていなかったので、都合が良かったのだけれど。免許を取った者は、どんな時でも車を出してくれた。いや、出したがるものだったかもしれない。それが夜中だろうが、明け方だろうが。7月のこの暑さと湿気のある季節になると、そんな年頃だった頃のことをよく思い出す。例えば、六本木で飲んでいて、朝の3時くらいに酔っ払って『これから波乗りに行こうぜ!』なんて電話で無茶ぶりをすると、30分後には車でさっと現れる友達。あの頃はポケベルだったのか公衆電話から酔っ払って電話したかも覚えてないのだけれど。ただそこから助手席のシートを思いっきり倒し、千葉まで段々と色づき始める空を眺めていたことだけは記憶がある。グランジやロックが人気の頃で、夜明けに歪んだギターを聴きながら走る道は、どこか永遠を感じさせるものだった。酔ってただけなのかもしれないけれど、飛行機が夜明けの地平線と並行して飛ぶような、そんな気分だった。夏の夜明けの空と空気、今でもやろうと思えば仕事の前に高速を飛ばしてどこか遠くへ行けば良いのだけど、なかなかどうして、それができない。年をとればフットワークが重くなる。
フットワークといえば、なんとなく集まり『何食う?』『もうラーメンは飽きたな』『じゃあ何がいい?』『何でもいいよ』『誰かなんか言えよ』『じゃあ鍋焼きウドン?』そんな言葉に引っ込みがつかなくなり、名古屋に行ってウドンを食べ、名古屋城見て騒いで帰ってきたり、小田原城の下で缶コーヒーを飲んだりもしたものだった。それでも足りないと肝試しになったり。若い頃というのは元気ばかりが有り余ってる。何を見たか、何をしたかはよくもう覚えてないのだけれど、ただ夏の昼下がりや夜中に、窓を開け、時には大声で騒いだり、時には誰もが無言で窓の外を眺めていたことだけは、思い出す。



★★★★★★★★
テキサスの夜。高速の向こうは闇だった。ゆっくりと上下にうねる道。外灯が現れては視界から飛び去り、ようやく次の外灯が現れる。音はなく古いフォードのトラックのエンジンだけが唸り続ける。ポンコツラジオからは雑音混じりのオールディーズが小さくなっている。僕は窓を目一杯開け、胸いっぱいに夏の匂いを嗅ぐ。夜の湿気を肺の奥まで吸い込む。窓から吹き込む風が中途半端にのびた髪を四方に踊らせる。1つ、2つ、3つ、僕は外灯の数を数えてみる。『タバコをくれよ。』運転席のデイブが声をかけてくる。僕は片手を丸めてライターを覆うとタバコに火をつけ、まずそれをデイブに渡し、それからもう一本に火をつけると自分で吸った。ラジオを消し、デイブがカセットをデッキに突っ込む。僕らは窓から手を出し、ドアを叩きながら一緒に歌い出す。何も変わらない景色に思いっきり叫ぶように歌った。スミス、ポリス、AC/DCにブラックサバス、そしてデペッシュモード。デイブが車に積んでいるメチャクチャな並びのテープをとっかえひっかえと聴いた。やがて遠くに明るい光の点が現れる。まるでオアシスのように見えるのはガソリンスタンドの大きなサインだった。それが消えると再びあたりは真っ暗になる。窓から強烈な匂いが飛び込んできた。スカンクか何かが近くで轢かれたのだ。新しいタバコに火をつけて一本をデイブに、もう一本を自分に。道の標識が見える。パリ。“パリ・テキサス”のサントラを思い出す。自分がそんな町の近くにいることに改めて驚き、随分と遠くにいるんだなと思う。テキサスのドライブは5時間ならまだ近所だ。時計が0時になる前に、僕らは隣の町につかなきゃいけない。



★★★★★★★★
僕がバルセロナにいたとき。『バモスラプラーヤ、オッオウォウオー。ビーチへ行こうよ、オッオウォウオー。』キケの娘はいつもそう歌っていた。僕はスペイン語が話せなかった。娘は英語が話せなかった。お父さんのキケは少しだけ。僕はランブラス通りから少し奥まったキケの家に居候していた。どうやって彼の家へたどり着いたのかよく覚えてない。ただその部屋のことだけはよく覚えている。壁の高い、電気もない部屋だった。夜になればろうそくをつけた。キケは壁に大きな絵を描いていた。やることのない僕はギターで歌った。キケの娘は太鼓をメチャクチャに叩いた。『いいぞ、上手だ。お前は天才だ!』キケが娘を褒める。彼女は得意げにメチャクチャにさらに太鼓を叩いた。昼間のバルセロナは暑かった。僕らは夕方になるまで家にいて、それから街に出ると颯爽と歩いた。広場にあるタパスで時には飯を食い、安い酒場でビールを飲んだ。“サルベッサ、ポルファボール”。これが僕が最初に覚えたスペイン語。それと“ドンテエスタ?”=どこですか?。聞いても答えは早口で何を言ってるのかわからなくなったのでそのうち聞くのを諦めた。どうせ時間ばかりが余っていたし、迷ったって何したって困ることなど何もなかった。娘は海へ行きたがった。僕らは夜行性のような暮らしでなかなか海に行かなかった。ある日の朝、キケが言った。『バモスラプラーヤ、オッオウォウオー!』誰のかもわからない古いバンをキケは用意してた。僕らはそのバンに乗り込んで大きな声で『バモスラプラーヤ』と歌いながら海沿いの道を走っていた。道すがら蝉の声が大きく聞こえた。僕はスペインに蝉がいるとは知らず、その声を聞いて夏の日本を思い出した。僕らはやがてビーチへと着いた。ローカルの姿さえまばらな静かなビーチだった。オムツ一丁になったキケの娘は砂の上をはしゃぎ回った。僕らは流木のような木を集めてドラム代わりに叩いた。水平線の近くに大きな客船が見えた。あれに乗って今度は島を巡ろう。僕はそう思った。