先ごろ、東京・銀座にある区立小学校が生徒の制服に、イタリアのファッションブランド「アルマーニ」の制服を導入する方針を発表し、その是非を問う社会的な関心ごとになっています。今朝も、2つ国、都市の通信員と電話をつなぎ、現地の「制服事情」について、お話を伺います。

「公立の小学校に制服はあるのでしょうか?」という質問です

インドネシア ジャカルタ 神成美智子さん

「曜日ごとに違う 」

アメリカ ニューヨーク 中村英雄さん

「あることになっているが、誰も着ていない」

●インドネシア ジャカルタ 神成美智子さん

曜日ごとに制服が異なるんですか?

息子は私立のインターナショナルスクールですが、小学校1年の時の学校は、曜日によって制服が色々変わるのがなかなか覚えられず、毎朝制服表をチェックしてから着させていました(笑)

小学生 赤(えんじ)X白、 

中学生 紺X白、  

高校生 グレーX白 

小学生の曜日ごとの話をしますと

月曜日: 赤(えんじ)スカートor ズボン X 白半袖シャツ
毎週月曜日はUpacara(ウパチャラ) というセレモニーがあるので正装です。インドネシア国家(インドネシアラヤ)を歌います。

火曜日: 赤(えんじ)スカート or ズボン X 白半袖シャツ。学校によっては、これにベスト着用があったりします。
水曜日: プラムカ (ボーイスカウトみたいな活動)の制服
木曜日: バティックシャツ着用(これは学校オリジナルが多い)
金曜日: 赤(えんじ)スカートor ズボン X 白長袖シャツ 
この日は宗教の日なので、ムスリムの子は上下白(長いもの)だったりもします。

土曜日:学校にもよりますが、プラムカの恰好

●アメリカ ニューヨーク 中村英雄さん

公立小学校に制服はあるのだけれど、誰も着ていないとはどういうことですか?

A 僕も毎日の生活の中で大勢の小学生に出会うのですが、制服を着ている子は見かけません。実は1998年(今から20年前です)ニューヨーク市教育委員会は156年ぶりに小学校に制服を導入したのです。

156年ぶり!つまり19世紀の半ばからずっと制服はなかったのですね?

アメリカはヨーロッパや日本と違い、制服や校則で生徒を縛って公徳心や集団忠誠を指導する習慣がありません。制服や規則は軍隊や警察などに適したものであって学びの場では必須とないと考えるのがアメリカ式です。

そんなリベラルな伝統がありながら1998年にNY市はどうして制服を取り入れたのですか?

60年代の後半から90年代初めにかけてNYは、衆知のごとく、大変治安が悪く、(映画などでお馴染みのように)人種間の対立も激しいものでした。特に、市内の黒人地区の社会荒廃は甚だしく、拳銃と麻薬の氾濫は今では考えられないほどでした。

そんな状況を抜本的に改善したのが当時のジュリアーニ市長(在任:19942001年)です。彼は、市内を警備する制服警察官の数を飛躍的に増やし、街に安全を取り戻しました。その余勢をかって、ジュリアーニ市長は校内の治安(当時、公立中高校は、入り口に拳銃探知用のメタルデテクターを備えるなどかなり荒れていました)も奪還すべく、制服導入を強く推したのです。

当時アメリカの他の州でも制服導入が復活していたのですよね。

子供に制服さえ着せておけば悪さはしないし、同級生からのいじめ(ピア・プレッシャー)からも免れる、とみんな本気で信じていました。

Q 実際、導入後に効果はあったのですか?

それは疑わしいですね。まず、制服着用は全生徒に課せられたものの、opt out(拒否)する権利はあったため、多くの裕福な白人家庭の子供達は、親の嘆願書一枚で私服通学に切り替えていました。一方、真面目な黒人家庭、移民家庭では、ジュリアーニの言う「制服による治安改善」を信じて、学校指定の制服を購入(量販店で売っている安価なものが多いのですが、値段は結構します)。規則に従って子供たちに着用させていましたが、子供の方が嫌がりました。ジェイZのふるさとみたいなブルックリンのゲットーの子達は、小学生でも抜群のファッションセンスを身につけています。お仕着せの制服を喜ぶはずがありません。しかも、制服を着ているのが黒人やヒスパニックばかりですから、制服=貧困層、みたいなみられ方もされ、いつしか、制服で差別ラインが浮き彫りにされてしまいました。

Q それで、現在は、制服を着ている小学生はいないのですね。

いません。制服着用ルールがあるおかげで教師の側にも指導項目が一つ増えて負担が大きくなったと言う弊害もあります。そして、あれから20年で、いわゆるゲットーも様変わりしました。先ほどのジェイ・Zみたいなローカルヒーローが全米のヒーローとなりスタンフォード大学で公演する時代です。2008年には史上初の黒人大統領も誕生。その大統領のおかげで、経済面では、サブプライム危機から救われたばかりから今では失業率4.1%まで下がりました。ゲットーと言われる地区の住民も皆、仕事につけるようになり、定収入も入り、治安はさらに改善。かつては未成年ギャングの戦場だった学校も、今や、受験戦争の戦場と化しています。よって、制服は不要となりました。制服着用の規則は残っていますが、白人だけでなく黒人もopt outの権利を行使して、誰も子供に制服を着せようとはしません。