JR田町駅から徒歩5分、桜田通り沿い、慶応義塾大学のすぐそばに、去年3月、一軒のコーヒーショップがオープンしました。名前は【Passage Coffee】。オーナーの佐々木修一さんは、エアロプレスの世界大会、2014年のチャンピオン!まずは、この『エアロプレス』について教えていただきました。

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「エアロプレスというのは一言でいうと空気圧でコーヒーを抽出する器具のことです。ハンドドリップとかはよくご覧になるかもしれませんが、エアロプレスは手動で加圧によってコーヒー液を抽出していくタイプです。もともとはコーヒー屋で扱う器具ではなくて、アメリカのエアロビーというフリスビーの会社が、アウトドアで美味しいコーヒーをいれるために開発したのがこれなので、持ち運びがすごく便利だったり、割れないんです。これと熱湯だけあればコーヒーができる、というものなんですが、やっぱり美味しいので、今やもう世界中のコーヒー屋さんが使っています。味に特徴があって、ハンドドリップやエスプレッソ、フレンチプレスに出ない味があるんです。すごくクリアで紅茶みたいにきれいな液体で、風味がしっかり抽出できるんです。」

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おおまかに言えば、太い注射器のような透明の筒に、ひいたコーヒー豆をいれてお湯をそそぎ、そのあと、もうひとつの筒で空気を押してコーヒーを抽出していく。今や毎年、世界大会がひらかれるほど注目されている、コーヒーのいれ方です。佐々木さんが優勝した『ワールド・エアロプレス・チャンピオンシップ』どんな大会なのかというと・・・

「8分間という時間があって、そこで1杯だけコーヒーを抽出します。ブラインドテイスティングといって、コーヒーをいれる人=競技者と審査員は別々のところにいて、誰がいれたかわからなくなっているんです。カップだけが審査員のところにきて、美味しいコーヒーを決めて勝ち上がっていくトーナメント制。豆も、みんな同じで、大会当日に『これがきょう使う豆です』って配布されるんです。ひとグループ3人で争って勝ち上がっていくんですけど、決勝も3人で、もうどの人も美味しい。審査員も3人いて、それぞれが美味しいカップをさしていくんですけど、決勝の、これで世界チャンピオンが決まるというときに、3人とも違うカップをさしてしまったんです。ヘッドジャッジという最終権限者というか、そういう人がいるんですが、その人が飲んで、その人が美味しいって言ったカップが勝ち上がり、状況になりました。その人が出てきたのはそれが最初で最後。もう冷や汗たらたらですよね。(笑)」

3人で争う決勝戦、3人の審査員がそれぞれ違うカップを指したため、ヘッドジャッジが登場してテイスティング。その結果、佐々木修一さんのいれたコーヒーが選ばれました。それが 2014年6月のこと。当時、佐々木さんは、渋谷や新宿にある バリスタ世界チャンピオンのお店【Paul Bassett】で働いていました。こちらに入店したころのお話もうかがいました。

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本当に職人のコーヒー屋さんみたいな感じだったんです。コーヒーをいれるようになるまで1年、何ヶ月もマシンも触れない、みたいな。コーヒー以外の業務が全部できるようになって、じゃあ、コーヒーちょっとやっていくか、というステップアップがあって。しかも社内試験があって、それが全部通らないとお客さんにコーヒーを出せないんです。なので、深夜に練習したりしました。お店終わってから泊まり込みで、一緒に入った同期と『よしコーヒーやるか』って。朝までずっとやって1時間くらい寝て、そのまままた働いたりしてました。」

【Paul Bassett】に6年半在籍。その後、去年3月に開店したのが、田町の【Passage Coffee】です。

「美味しいスペシャルティコーヒーをそんなに特別なコーヒーだとは思ってほしくないなというのがあります。スペシャルティコーヒーって名前がすごいじゃないですか、"特別なコーヒー"。でも、コーヒーというアイテムは日常にあってほしいなと思うんです。コーヒーって味も美味しいですが、気持ちを落ち着けたり、リラックスさせたり、人の暮らしを豊かにしてくれるアイテムだと思っていて、それは土日だけしか飲めないわけじゃなくて、毎日あってほしいなと思っていたんです。なので、それが達成できるのはオフィス街かなと思い、月金で出勤されている方がいっぱいいる街にオープンしました。」

スペシャルティコーヒーを日常に。そんな想いから、平日の朝10時までは、本日のコーヒーを一杯200円で提供中。     

コーヒーってフルーティとか果実っぽいとか、そいういことをよく聞きますが、その通りなんです。本当にフルーツみたいな味がするんですよね。コーヒーチェリーというのは木になるんですが、美味しくなる年もあれば、ちょっと天候がよくないと今年はあんまり美味しくないとか、いろいろあって、でもやっぱりフルーツの味がするんです。その豆の持つフルーツの味を表現したいと思っていますし、それをもっと知ってほしい。やっぱりコーヒーの印象って、"苦くて目が覚める"とか"目を覚ましたいときに飲みたいよね"って大半の人がそういう答えで、僕らの出しているコーヒーはそれとは真逆のものなんです。苦みがなくてコーヒーが持つ果実感をしっかり表現できる。」

ときにフルーツのように、また、ときには花のように。香り高いコーヒーが味わえるのが【Passage Coffee】。最後に、お店の名前に込めた意味を教えていただきました。

「パッセージって道という意味があるんです。僕はこの場が感動的な場所だと思っていて、コーヒー豆は世界中の原産国から大切に届けられているんです。いろんな工程を経ていて、そこに手を抜くことがあれば絶対に美味しくなくなるんですよ。ここにあるコーヒーはそれがすべて達成されて美味しいコーヒーがそろっている。でも、ただ美味しい素材があっても美味しくいれる人がいないとその魅力はきちんと表現できないので、ここにはしっかり経験を積んだスタッフがいて、コーヒーをいれています。あとはそれを飲みに来てくれるお客さんもそれぞれのライフラインというか、そういう道を歩いていて、その3つが交わるのがここだと思うんです。そういう感動的な場所。道がつながるところです。」

さまざまな人に大切に扱われ 旅をしてきたコーヒー豆と、努力を重ね、美味しくコーヒーをいれる技を習得したスタッフのみなさん。そして、人生の道のりの途中で、コーヒーショップに立ち寄るお客さん。その3つの道が重なる場所。【Passage Coffee】は、きょうも田町で営業中です。

Passage Coffee