今回は、タバブックスという出版社に注目します。植本一子さんの『かなわない』やリトルマガジン『仕事文脈』などを手がけてきたタバブックス。実は、代表の宮川真紀さんがたったひとりで立ち上げた出版社です。まずはなぜ、ひとりで出版社を始めることになったのか?宮川真紀さんに教えていただきました。

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「もともと出版社で雑誌編集と書籍の編集を15年ほどやっていたんですが、その後、フリーランスで書籍の編集を中心にしていたんです。フリーの書籍編集というのは、著者に書いてもらう企画をいろんな出版社に持ち込んで出していただく、というもので、それをしていたのが2000年代後半から2010年くらいまでの間なんですが、出版もあまりいい状態ではないというか、企画を通すのが難しい状況だったんです。

そんな中やっていたもののひとつをある出版社から出したんですけど、そのときは、著者の『こういう風にしたい』というものではなく、出版社側の『こうしたら売れるのではないか』という営業サイドの意向で、どうかな?と思いつつそのやり方でやってみたんです。

でも、あまりうまくいかず、わりと早いタイミングで重版未定、つまり絶版になってしまって。そこで、もう一度、そもそも著者がやりたかった形で出そうということになったんですが、そのタイミングで小さい出版社が少しずつ立ち上がっているのを知って、こういうやり方があるんだったらできるんじゃないかなと思ってとりあえず始めてみた、という形です。」

2012年の秋、宮川さんはタバブックスを立ち上げ、そもそものきっかけとなった本、ユーゴさん著、『布ナプキン こころ、からだ、軽くなる』を発売。同時に、リトルマガジン『仕事文脈』も出版されました。   

「『仕事文脈』を作ったきっかけですが、震災後はみんな新しい生き方を探し始めていたころだったと思うんです。その一方で、震災より前の2010年あたりの時期って、ライフスタイル系の雑誌とか、おしゃれな暮らしみたいなものが流行っていて、素敵な暮らし方の人をフィーチャーする雑誌も素敵ではあるんだけど、実際にその暮らしをするためにどんな仕事をしているのか、どういうお金の流れになっているかというのはあまり出てないなというところがあって。仕事の本というと、ビジネスのノウハウ的な本や投資、労働問題の本はあるけれど、もうちょっと普通の人の、どんな風に人は働いて、どういう暮らしを作っているのか、というのを取り上げてる雑誌とかメディアはないなと思って。」

具体的に、『仕事文脈』でどんな人を取り上げてきたのかと言うと、例えば創刊号では・・・

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「いわゆるスポットライトがあたるような、モデルケースになる働き方の人や、自己啓発的にこういうやり方ならうまくいく、という提言みたいな、そういうのではない人を、と思っていました。会社員で終身雇用の人だったら困っていないかもしれないけれど、そうじゃなくて、働くことに困っているとか、何か問題意識があるとか、そういう人の話を取り上げようと思って、仕事に関して面白いことを言っている人を探しました。【ダメ人間 vs ヤバい就活生】と見出しに書いているんですが、ダメ人間のほうはデザイナーさんです。朝起きられない、遅刻しちゃう、時間を守れないとかマイナスのことがたくさんあるんですけど、それを逆にいかして、夜中は起きていられるから、『海外時間』と言って夜中に一日で仕事を仕上げたり、欠点をプラスに変えるということを言っている人。もうひとりのヤバい就活生というのは、就活って普通は企業にエントリーをすると思いますが、『私を採用しませんか?』というサイトを作って、企業から逆にエントリーを募集した大学院生の女性がいて、彼女にやったことを書いてもらいました。」

2012年にスタートしたタバブックス。これまでで最大のヒットとなったのは、植本一子さんの『かなわない』。今は亡き夫、ラッパーのECDさんと子ども達との暮らしをつづった一冊です。

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「本当にありのまま、いやなことも、普通はかっこつけてしまうようなことや、反発を受けてしいそうなこともストレートに書いているんです。小さい子どもがふたりいるんですが、密室育児の閉塞感とかつらさ、いわゆるキラキラ育児とは真反対の、読んでいるほうがつらくなったり、ここまで書かなくてもと思ってしまうようなことが書かれていて。でも、嫌味ではなく共感もし、という文章だったんです。」

そのほか、タバブックスは、【シリーズ3/4】と題して、いくつかの本を出版してきました。

「【シリーズ 3/4】という企画名で、3/4くらいのサイズ、分量、重さの本。なので、ページ数は200ページ以下くらいで、小ぶりで、帯もつけていないです。3/4くらいの身軽さ、ゆとりのある生き方をしたい人におくる、ということで、考え方としてもぎちぎちに100%頑張るのではなく、もうちょっとゆとりを持って生きたいなと考える人が、読んで楽しめる本を出したいと思って作りました。」

タバブックスの代表、宮川真紀さんに最後にうかがいました。これから、どんな本を出していきますか?

『仕事文脈』はこれからも続けていこうと思います。仕事、生き方、働き方について考えている人がたくさんいると思うので、そういう方への本は出していきたいなと。あと、いま世の中にないものを出したい、というのが一番です。『仕事文脈』もそうですし、売れるだろうという考え方ではなくて、こういう形で届けたい、というのがはっきりしている、ということでしょうか。フリーで編集をやっていて企画を版元に持って行ったときによく言われたのが、『いまこういうのが売れているから、こういうのないの?』と。でもそれって、最初のものは売れますけど、それと同じようなものがあっても二番煎じ三番煎じになってしまう。もちろん数字的にも売れないだろうし、そういうことをやる必要はないとも思いますし、読んで驚くような本じゃないと。これ見たことある、という本があってもしょうがないと思うんですよね。」

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スポットライトが当たる場所ではないところで、働き、育て、暮らす人。 悩み、考え、生きる人。タバブックスの本からは、そんな人々の営みが見えてきます。いま世の中にない本を届けたい。売れそうだから、ではなく、想いをこめた本作りが続きます。