今回 注目するのは『えがないえほん』。

もともとはアメリカの俳優・コメディアン・作家のB.J.ノヴァクさんが書いた本で、日本では大友剛さんの翻訳により、去年11月に発売されました。それ以来、およそ3ヶ月で18万部を突破!『えがないえほん』その人気の秘密を大友剛さんに伺いました。

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その絵本には、タイトルのとおり絵がありません。しかし、そこに書いてある言葉を読み上げると、子ども達が大爆笑。これはいったい、どういうことなのでしょうか?

「一番最初に出てくる擬音語が英語でBLOAKと言うんですが、これはなんでしょうね、すごい表現で直訳できないので、子ども達に伝わる、子ども達がくすっと笑う言葉を探しました。まずは英語のサウンドで、『バロバロン』とか、『バロン』とか破裂音を試してみたんですけど、『バフッ』というのが、なんかわかんないけど笑えるという。『バフッ』という何かの破裂音でくすくすと笑うんです。そして、次のページで『ブリブリブー』っていうちょっとお下品な言葉ですけど、そこで子ども達がどかんとくる。」

B.J.ノヴァクさん原作の『えがないえほん』の翻訳をつとめた大友剛さん。普段は、主に子ども達へマジック・音楽、そして読み聞かせの公演をおこなわれている方です。

「私は初めて翻訳したのが5年前で、アメリカで大人気の『ねこのピート』という絵本でした。そして、その作品の読み聞かせ動画をアップしているんですが、それを見て、この『えがないえほん』の出版社、早川書房さんが私に翻訳を打診してこられました。作者のB.J.ノヴァクさんが子供達にこの絵本を読み聞かせしている動画がYouTubeにあって、5分くらい子ども達が笑い転げているんです。ほぼ9割意味がない言葉なんですけど、それで子ども達が笑い転げている。すごく衝撃的でぜひ翻訳をやってみたい、ということで、引き受けました。」

翻訳の依頼を受けた大友さん。引き受けたものの、他には例のないスタイルの絵本。どうすればうまく翻訳できるのか?大友さんは、こう考えました。

「本をあけてみると分かるんですが、擬音語やオノマトペ、あとはおバカな言葉のオンパレードになっていまして、これはひとりで翻訳するのはとても大変だなと。私は普段、保育園・幼稚園・小学校での公演が多いので、そういう子ども達のいる現場に行って何回も何回も試して、およそ2000人の子ども達に読み聞かせをやるなかで翻訳をしていきました。まずは割と直訳に近い表現でやって、それから少しずつアレンジをしていったという形ですね。」

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B.J.ノヴァクさんの英語の原作を日本語に翻訳するうえで、工夫したのはどんなところだったのでしょうか?

この中にお猿さんが出てきて、『お猿さんの頭の中身はブルーベリーピザ』というのが出てくるんですが、これを日本で読んでみても、さっぱりウケなくて。すごく悩んで、今、日本の子どもの食生活で馴染みのあるもので考えて、私は『納豆の味噌汁』という風に翻訳させていただきました。まず子どもの朝食を考えてみて、そのなかで馴染みのある納豆と味噌汁で『納豆の味噌汁』というミスマッチ感を出してみました。翻訳はいかに味を出すというか、作者のノヴァクさんが読み聞かせをして子どもたちにどっかんどっかんウケているんですけど、その雰囲気を日本でも出したくて、子ども達の反応を見ながら翻訳をしました。」

読み聞かせの際、爆笑を続ける子ども達ですが、その表情に少し変化があらわれるページがあります。そこには、こんな言葉が記されています。

『ぼくが このほんを よみきかせているこどもたちはじんるいのれきしのなかで いちばんすばらしいこどもである』

「やはりこれは、作者のノヴァクさんの子ども達へのリスペクトがすごく感じられて、ノヴァクさんのYouTubeの動画を見ても、すごく子どもを大事にしている、その彼のスタンスというか思想に私は心を打たれたんです。たまにですけど、ここのフレーズを読むと、子ども達がみんなで『イエイ!』って言うんです。それはまた感動しますね。」

『えがないえほん』を翻訳された大友剛さんに最後にうかがいました。絵本の読み聞かせをしていて強く感じるのは、どんなことですか?

「これはノヴァクさんが、意味はないんだけど親子で爆笑できる、そんな5分間を保証してくれる、そういう本だと思うんです。私、一番嬉しいのは障がいを持つ子どもが普段絵本に興味を示さなかったのが、この『えがないえほん』ですごく笑って、何回も読んで、とせがんでいるという話も聞いています。絵本は、子どもと大人、子どもと親で一緒に楽しむ、そこが一番重要というか、その4~5分の時間を伝えたいという気持ちがあって。」

大いに笑える下品な言葉と、ちょっぴり勇気づけられる言葉。子ども達のたくさんの笑顔と、その笑顔をみて微笑む大人達。子どもと大人が一緒に楽しむ5分間を届けたい。『えがないえほん』には、『絵』は ありませんが、あたたかな想いが たっぷり詰まっています。