今回は、障害のある人とともにチョコレートを作る久遠チョコレート。

その一号店となった、【NEW STANDARD CHOCOLATE kyoto by 久遠】。代表の板倉信太郎さんにお話をうかがいました。板倉さんは2007年、吉野智和さんなどと『エクスクラメーション・スタイル』という名前で活動をスタート。 NPO法人を立ち上げました。

「僕たちがエクスクラメーション・スタイルを立ち上げて、障害者の就労訓練をしようと思ったのはもう11年前になります。その頃は、まだ障害者の作業所とか授産施設と呼ばれていたんですが、なかなか社会のなかで認知もなかったし、そういうところに行っている障害者の方も社会的弱者と見られていたと思うんです。そういう意識を変えたいと思いましたし、障害のある方もこれだけ仕事ができるし、働けるし、社会に貢献できる、というのを新しい形で見せたい。こんなこともできるんだぞ、というのを発信したいと思って立ち上げました。」

当初は、陶器の製造販売を手がけていたエクスクラメーション・スタイル。チョコレートづくりに関わるきっかけは・・・

「これはもう運命的な出会いだと思うんですけど、もともと久遠チョコレートという事業を思いついたのは、先代の吉野と仲が良かったラ・バルカ・グループの夏目さんという方なんです。お互い障害のある方のいろんな就労訓練の事業をやっていて、たまたま僕たちが今の店舗がある堀川商店街のなかで、すごく歴史的価値のある堀川団地の1階をリノベーションしてお店をつくるというときに、そこでやるんだったら、チョコレートというコンテンツを持っているから一緒にやろうよ、ということで始まったんです。」

60年以上の歴史を持つ、京都の堀川団地。その1階の空き店舗をリノベーションする。ならば、このタイミングをとらえて障害のある方も働く魅力的な場所をつくりたい。 チームの考えがまとまっていきます。

「堀川商店街のなかに【NEW STANDARD CHOCOLATE kyoto by 久遠】というチョコレートショップと、一軒あいだをおいて【京極ダイニング】という飲食店があるんですが、実はなかでつながっていて同じお店なんです。【京極ダイニング】は街の定食屋さんで、地域の方がこぞって来て団らんしていただく場所という意味合いがある一方、【NEW STANDARD CHOCOLATE】は、全国的にも、できれば世界的にもこの堀川商店街が注目を浴びてもらえるような、フラッグシップ的なお店にしたいと思いまいした。」

まさに、ニュー・スタンダード、となるべく2014年12月、【NEW STANDARD CHOCOLATE kyoto by 久遠】がオープンしました。京都の堀川商店街にあるお店で販売されるチョコレート。実際、どのように作られているのでしょうか?

「野口さんという、日本でも指折りのショコラティエの方に、久遠チョコレート全体の監修をしていただいて、そこから直接指導を受けています。もうひとつは、我々の事業所のなかにはショコラティエやパティシエ、料理人も配置しておりまして、障害のある方が実際に、プロの料理人・ショコラティエ・パティシエから本物の技術を学んでもらえる場所にもなっています。飲食店をやるからにはプロの料理人がいて、そこで障害のある方が実際にプロの技術やプロの意識を間近に感じながら訓練をすることで、仕事の意識であるとか、働くってかっこいいとか面白いとか、働くって嬉しいねと感じられる場所を作りたいと思って始めました。」

人気の商品は、お店の立ちあげのときに考案された、『京テリーヌ』。 

チョコレートのなかにそれぞれ具材を入れてかためてスライスしたものがあって、『京テリーヌ』といいます。チョコレートは抹茶やほうじ茶というものに、丹羽産の黒豆などが入っています。『京テリーヌ』はもともと6種類あって、ゆず・抹茶・ほうじ茶・スイート・ミルク・ホワイトのチョコレート。この6種類が定番です。これに加えて、久遠チョコレートは全国にお店があるんですけど、もう100種類以上、各地域の具材を使ったテリーヌを販売しています。」

エクスクラメーション・スタイルという名前で障害のある方の就労支援を始めてから、10年以上。代表の板倉信太郎さんは、ここまでの活動をこう振り返ります。

「2007年、障害のある方の事業所を初めてオープンしたときは、すごく福祉の閉鎖的な空気が漂っていて、新しいところが何をやるんだ、という警戒心もありました。逆に今は、どんどん新しいことを試していこうという福祉の事業所も多くなっていますし、障害のある方の仕事の選択肢もとても増えてきているので、何らかのきっかけを社会に投げられたという自負はあります。障害のある方への社会の認知もすごくよくなってきたと思います。」

団地の『コンクリート』と、あたたかい『木』を使ったお店のデザインも商店街の明るい光となっています。

「『ここで働きたいんだ。』と、そう障害のある方に思って働いてもらわないといけないと思いますし、僕たちもそういう場づくりをするのがまず第一の仕事だと思っています。みんなに、ここで働いているんだ、商品を作って販売しているんだ、全国で売れているんだ、というように、お店に対して、商品に対して、自分の仕事に対して、障害のある方ひとりひとりが誇りを持てるような場所を提供したいと思っています。」

仕事への誇りを胸に、きょうもチョコレートづくりが続きます。