今回はメキシコのサッカークラブ・パチューカで本田圭佑選手の専属分析官を務める白石尚久さんのHidden Story。

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分析官に至るまでの道のり、そして、いまどんな仕事をされているのか、じっくりお話をうかがいました。

「ヨーロッパの各クラブには、日本でもそうだと思いますが、アナリストという人がいます。自分たちのチームや対戦チームの分析したりするのはもちろん、選手個人のパフォーマンスの分析とか、フィジカルコーチの分析をしています。例えば、相手チームの場合は、相手がどういうプレーをするか?選手個人だと、自分のチームとマッチアップする選手がどういうプレーをするかとか、いろんな角度から分析していって答えを導き出していきます。」

白石尚久さんは、現在42歳。アルゼンチンやフランスの下部リーグで選手としてプレーし、27歳で現役を引退。その後、日本の広告代理店での勤務を経て、サッカーの指導者を志します。2008年、あのバルセロナで、スクールコーチとして採用され、その後、スペインのサンガブリエルというクラブのユースチームや女子チームの監督、さらに、いくつかのクラブで指導したあと、昨シーズンは、スペイン4部のエウロパというチームの監督も務めました。

「スペインでは4部リーグや3部リーグの監督とかコーチになるのが非常に難しいんです。あれだけのサッカー大国なので、大人のサッカーリーグは8部、9部、10部とかまである。それに、元プロサッカー選手が監督になる第一関門が4部リーグとか3部リーグなんですけど、そこでさえあふれかえっていて監督になれない人がたくさんいる。だから、僕は日本人でそこをやっているので、そのポジションをとりたい人なんてたくさんいるんです。」

スペインで指導者として経験を積んだ白石尚久さんに、ACミランに所属していた本田圭佑選手から声がかかりました。

「シーズン途中で、1月の終わりくらいに本田選手から『どうですか?』って言われて、『やります』と。そのチームの後任の監督の人を見つけて、辞任してミラノに移りました。見たことあるバレージとかが横でご飯食べたりしていて、すごいなこのクラブ、と思いましたね。ほんとにミランに来たんだなって。ミランの練習場でミランの服を着て、トレーニングしているところに行って、スタッフとして働いているわけです。なんか感覚がわからなかったです。」

イタリアの名門、ACミランで始まった分析官の仕事。例えば、試合中、どんなことをされているのかというと...

「コーチングスタッフのデスクの上にテレビ局のカメラがずらーっとあって、そこに自分の個人のカメラを置きます。普通の試合の映像って選手にフォーカスしたりしますが、そうすると戦術の40%は見れないんです。だから、全体が見えるようにカメラの引きで撮って、試合中、オンタイムで分析していきます。分析のソフトがあるんですが、オフェンスとディフェンスのフェーズ、攻守の切り替えのフェーズとセットプレーとでそれぞれカットしていって、そのなかで本田選手のプレーがある。ボールを持っているときの攻撃だったりディフェンスだったり、ボールを持っていないときの攻撃やディフェンスを、全部試合見ながら映像で録画して、その映像をPCに通しているので"トラッキング"という作業ですよね、これをやってます。」

去年の夏、白石さんは、本田圭佑選手の移籍にともない、メキシコ・パチューカへ。 

「監督がウルグアイ人で、コーチングスタッフもウルグアイ人やアルゼンチン人で、彼らの南米スタイルのトレーニングをやっています。彼らは練習で選手にプレッシャーをかけていて、ピッチの横から『走れー!』とか『行けー!』とか言ってましたね。根性論ですよね、気合い入れていけっていう(笑)あと、メキシコは高地なので酸素が薄いんです。パチューカは標高2300メートルで、そういった高地でインテンシティの高いトレーニングをやっているので、それはパチューカの強みになります。」

12月、パチューカはFIFAクラブワールドカップに出場。本田選手のプレーを見て、白石さんはこんなことを感じていました。

ああいうプレッシャーやアウェイのなかでプレーできる日本人選手って少ないと思いました。この緊張感と、ピッチのなかで選手が自分たちで解決してソリューション出してチームを引っ張っていく、そして、それを引っ張っていける。僕の個人的な意見ですが、これができるのは本田選手くらいなんじゃないかなと思います。プレッシャーとか関係ないですよね。あれは外国人選手でもなかなかできないし、こんな選手っていないんじゃないかなと思いました。」

本田圭佑選手の専属分析官をつとめる白石尚久さん。最後に、ご自身の夢について語っていただきました。

「まずはヨーロッパの1部リーグの監督をやって実績を残して、まだ日本人がやっていない夢というか目標ですが、チャンピオンズリーグというヨーロッパのクラブチームのNo1を決める大会で、日本人監督として優勝したいです。ヨーロッパのクラブって選手はいろんな国の選手がプレーしているので、選手はインターナショナルでも、指導者はヨーロッパが中心なんです。そのなかで、トップに到達したいですよね。僕はサッカーの世界で、日本人だって世界で通用する人間がいるんだぞっていうのは見せたいです。やればできるんだぞっていう。」

目指すのは、ヨーロッパのクラブチームの頂点。日本人監督として、チャンピオンズリーグ優勝!白石尚久さんの挑戦は続きます。