今回注目するのは、髪の毛で『音』を感じる装置【Ontenna】。 音を感じるアンテナで【Ontenna】です。

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「こちらは音の大きさを、振動と光の強さにリアルタイムで変換することで、リズムとかパターンを聴覚障害者、ろう者の方に伝える装置になっています。髪の毛にヘアピンのようにつけて、髪の毛を揺らして感じることができる装置になっています。」

お話をうかがったのは富士通株式会社 Ontennaプロジェクトのリーダー、開発者の本多達也さん。5センチほどで、白く丸みをおびた形。ヘアピンのように髪の毛につける【Ontenna】。本多さんが【Ontenna】の開発を目指すきっかけは、ある出会いでした。

「大学1年生のころに、聴覚障害者・ろう者と言われている、まったく耳が聞こえない人と出会ったことがきっかけで、手話の勉強を始めるようになりました。手話通訳のボランティアをやったり、手話のサークルを大学内に立ち上げたり、ろう者の方とNPOを立ち上げたり、そういうさまざまな活動をろう者の方とやってきたんです。そして、大学の卒業研究で、私はデザインとかテクノロジーの勉強をしていたので、そうしたデザインやテクノロジーでろう者の方に音を伝えられないかという想いで、この研究を始めました。一緒に生活していて、例えば、歩いていて犬がワンとほえると僕はびっくりするけどその人は全然びっくりしない。実は僕の出会った方は補聴器も使えない、骨伝導も使えないという方で、でもよくよく聞くと、音を感じたい、という想いがあるというのを知ったんです。」

耳の聞こえない方が音を感じるためにはどうすればいいのか?本多さんは、はこだて未来大学在学中に研究を始めました。

「最初は音を見える化しようと思って、イコライザーみたいなものを作ったんです。音が大きくなると、光がトゥルルルルと欽ちゃんの仮装大賞みたいに大きくなっていくみたいなものだったんですけど、ろう者の方にそれを持って行くと『あんまり使いたくない』と言われてしまって。普段、ろう者の方は耳が聞こえない分、視覚に頼って暮らしているので、それ以上、視覚情報を足してしまうとすごくノイズになると言われてしまったんです。それで、触覚を用いて何か音を伝えられないかと思って。」

視覚ではなく『触覚』を使おう。では、髪につける装置という発想はどうやって生まれたのでしょうか?

「一番最初は振動紙を肌に直接つけてみたりとか、服につけてみたりしたんですけど、直接肌につけると『気持ち悪い・むれる・麻痺する』という風に言われて、服につけると『ちょっと分かりにくいね。』と。いろんな部位を試していたときにたまたま髪の毛につけたら『髪の毛ってちょうどいいんじゃないの。』とおっしゃっていただいたんです。確かに髪の毛ってすごくセンシティブで、振動を知覚しやすい。あと手話をするときも家事をするときも腕に負担がかからない。風が吹くとさーっと髪がなびいて方向がわかるように、実は人間の髪の毛って生えているだけじゃなくて、新しいユーザーインターフェイスとして使えるんじゃないかというのが発想の原点で、こういったものをデザインしました。」

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2016年、本多達也さんは富士通株式会社に入社。プロのエンジニアやデザイナーとともに、【Ontenna】に磨きをかけていきました。現在は発売へ向けマーケティングを続ける日々。そんな中、去年の秋に開催された『2020年、渋谷。 超福祉の日常を体験しよう展』に出品。渋谷のハチ公前広場で、タップダンサーのHIDEBOHさんがパフォーマンス。観客は、髪に【Ontenna】をつけ、タップの音を感じました。HIDEBOHさんがタップを踏むと、【Ontenna】が振動し光ります。

「【Ontenna】をほしいと思っているろう者の人に一日も早く届けたいという想いと、聴覚障害者だけじゃなくて、外国人とか高齢者とかいろんな方が楽しめるプロダクトになれるといいなという思いがあります。補聴器って10万とか20万、高いものだと100万くらいするんですが、開発者の想いとしてはアクセサリーを買えるくらいの価格を目指しています。かわいいというか、原宿の女の子がつけてても違和感がないというか、そういうものになってくれれば、障害と健常の差みたいなものもなくなると思うし、少しでもバリアみたいなものがなくなればいいなと思っています。」

アクセサリーのように髪につけ、例えば、エンターテイメントとコラボレート。風を感じるように、髪が音を感じます。かろやかにバリアをなくすプロダクト。音を感じるアンテナ。名付けて、【Ontenna】。