今回は、クリエイティブディレクター戸村亜紀さんが進めるプロジェクト『Made with Japan』。『Made in Japan』ではなく、『Made with Japan』。これはいったいどんなプロジェクトなのか?そもそもの始まりを 戸村亜紀さんに教えていただきました。 

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「もともと私は日本の伝統的なものをリニューアルする仕事や、新しい日本の表現をしてほしい、というお客様に答えるようなお仕事をしてきていて、日本のMade in Japanを世界へ、というような課題を預かってきていました。その中で、素材から人まですべてMade in Japanだととても高額になってしまうとか、そう言ってしまうには嘘が出てしまう。実際は、塗りの部分だけを日本でやるとか、ネームだけ日本でつけてMade in Japanとしてしまうとか、それを否定するわけではないですが、よりよい形がないかどうかをずっと探していたんです。そのときに、単語を【in】から【with】に代えることで、より世界が広がるんじゃないかと思いまして。」

2016年、戸村さんはバルト3国のひとつ、ラトビアを訪れます。

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「もともとお隣りのエストニアに興味がわいて遊びに行ったんです。その途中でラトビアを通ったときに、木工の商品や上質なリネンとかを見て、手仕事がとても盛んな場所だなというのが分かったんです。そこで私は、長年、漆をどう売っていくかというのを漆の職人さんやメーカーさんから相談を受けていたので、これに漆を塗ったらいいんじゃないかと思って木地をたくさん持ち帰りまして、まずは1年間、私の自宅で手荒に使ってみたんです。そうすると、日本の風土だとかびてしまって、黒い筋が入っていくというか、あとはカサカサっとしてしまう。そういう風土にあわないという状況をみたときに、やっぱりアジア特有の漆のコーティングをすることでうまくいくというのが見えました。」

ラトビアの木工品に、日本で漆を塗る。では、どこの職人さんに塗ってもらうのか?戸村さんが選んだのは、福井県鯖江市の職人さんでした。

「リトアニア、ラトビア、エストニアと旅をしたんですけど、最初に入ったリトアニアにもご縁を感じていまして、絶対行ったほうがいいと案内されたのが、杉原千畝さんの記念館だったんです。日本では【命のビザ】と言われている、彼が戦争中にユダヤの方にパスポートを発行して何千人もの命を救った、ということを彼らは今でも語り継いでいて、彼が発行したパスポートで最初に入国したのが福井だったんです。そういうストーリーを少しですけど次世代に伝える時に入れられたら記憶の上書きができるかなと思いまして。本当にこれが商品として独立して輸出されるときに、またひとつのプロダクトで共感できたり、感動できるお話が一緒についていってくれるので。」

例えば、木でできた大きなスプーンの内側をきれいに漆で塗ったもの。ヘラの先の部分を漆で塗ったもの。ラトビアの木工品と鯖江の漆のコラボレーションが始まりました。

クリエイティブディレクター戸村亜紀さんがラトビアの木工と 日本の漆をつなぐプロジェクトを始めた背景には、もうひとつ理由がありました。 いま、ラトビアでは木の器やカトラリーはほとんど使われていません。しかし、そこには確かな木工の技術がある。一方、日本の漆も使う人が減っている。そして、日本では、木工の職人さんも数が少なく、新しいデザインの木のアイテムを生み出すのは難しい。似た状況にある、ふたつの国の仕事を組み合わせること。これが大きなポイントでした。

「私が目指しているのは時間とか労働価値のフェアトレードですが、これまでのフェアトレードとかエコは、選択して買うとか、お金でしか解決できてないんです。そうではない形にしないと本質的な解決はできないと思っていて、なのでMade with Japanのコンセプトの柱は、労働や時間のフェアトレードを国を越えてやってみたい、というのことなんです。ひとりの人間の時間は限りがありますので、そのなかでどのくらい時間をさくか。フランスのジャック・アタリが言っていたんですけど、今は商業の時間で暮らしています。もともとは日が昇って沈んで1日、その次にコミュニティができてお寺とか教会ができてそこの鐘が鳴ったら6時、みたいなコミュニティの時間ができて、さらにコミュ二ティとコミュニティを鉄道がつないでいくと商業が関わってくるので、商業の時間ができて現在に至ります。でも、もともとは稲を植えて収穫するまでを1とするとか、そういう時間も忘れがちですけどありますので、その商業の時間と自然の時間が乖離してしまうと精神的に不安定な状態になる。そこを私たちの世代は埋めようとしているんだと思います。」

さらに、戸村さんはこんな未来像を描いています。

「どうしても消費で解決できるんじゃないかと思いがちですが、環境問題も環境の問題じゃなくて人間の世界観の問題だと思うんです。なので、それをまず知ること。あとは自分の仕事を通して選択肢を増やしていくこと、というところからつながっていって、労働と時間のフェアトレードができれば、もっとゆるやかな未来像が描けるんじゃないかなというのが、夢を見ているところです。」

未来のヒントは、バルト三国、ラトビアにありました。ラトビアの手仕事による木工品と、福井・鯖江の漆の技。ふたつの場所の ふたつの仕事が、ふたつの時間が、木のうえで重なります。

クリエイティブディレクター・戸村亜紀さんの挑戦はこれからも続いていきます。

合い言葉は、『Made with Japan』。