今回、ご紹介するのは高さ20センチほど、簡単に持ち運ぶこともできる分身ロボット『OriHime』。開発者の吉藤健太朗さんに、お話をうかがいました。

20170818hidden01.jpg

「我々は分身をつくろうというコンセプトを持っていて、その第一号といいますか。いきなりバイオテクノロジー的な自分と同じコピーをつくることはできないけど、いまのロボットテクノロジーを使うと、遠隔操作ができるような分身をつくるようなロボットはできるんじゃないかと。例えば、病気で会社のオフィスワークに参加できないという人が、ベッドの上とか自宅からスマホやPCを使って、オフィスに置いてあるこのロボットを通して様子を見たり、話を聞いたり、目の前にいる人に話しかけたり、そういうことができるロボットです。」

20170818hidden03.jpg

現在は、株式会社オリィ研究所の代表を務める吉藤健太朗さん。そもそも、小型分身ロボット『OriHime』を開発しようと思ったきっかけはどんなことだったのでしょうか?

「もともと私自身、体が強くなくてあまり学校に行けない子どもだったんです。小学校5年生くらいの時に検査入院で2週間くらい学校を休んでしまったことをきっかけに学校に戻りづらくなって、そのまま不登校になってしまって。中学2年くらいまで学校に行けない生活を送っていました。それが本当につらくて。最初は学校から宿題とかノートを友達が持ってきてくれましたが、それによって自分がクラスメートである実感が得られたかというと全然得られませんでしたし、遠足にも参加できませんし、みんな私のことは忘れてしまっているんじゃないかと思ったこともあると。我々は何かに参加しようと思ったら、そこに体を運ばなければいけなかったんです。でも、体を運ぶことができない人にとって、そこに自分がいる、という実感を得るのは、今までの電話とかテレビ電話では相当難しくて。実際、私も友人がお祭りに参加していて、その雰囲気を知りたくって電話しても、友人は私と電話をしながらお祭りを楽しむことができなくて、『いま友達と来ているから、すまない、切るよ。』と切ってしまったり。では、どうやって体が不自由な人とか、介護・育児などで距離が離れてしまっている、そうした理由でそこに体を運べない人が、その友人たちと同じ時間を過ごすことができるのか?」

さまざまな理由で離れた場所にいる人が、同じ時間を過ごすにはどうすればいいのか?吉藤さんは、こう考えました。「体を移動させなくても、心を運ぶようなモビリティ。心の乗り物のようなものを作ることができないか?」心を運び、そこにいる友人にも自分が一緒にいると感じてもらえる。そんな分身をつくることは、いまのロボットテクノロジーで可能なのではないか?2009年、大学生の吉藤さんは心を運ぶモビリティをつくろうと決意しました。 

「大学で研究するより、自分でやったほうがいいんじゃないかなと思って、勝手に研究室をつくることにしたんです。それがオリィ研究室。オリィというのは当時の私のニックネームで、趣味で折り紙の先生をやっていたのでオリィと呼ばれていたんです。そのオリィ研究室というものを2009年かな、6畳一間のアパートで勝手に始めたのがスタートでした。大学の研究室ではなく自分の研究室をつくるのは大学の制度にないわけで、そうすると指導教官もいなければスポンサーもいない、私にあるのは、時間と工業高校につちかったものづくりの知識、そのなかでどうやって作ろうかと。 ロボットを動かすということ自体は得意でしたが、見ている人が生き物のように感じてもらえる、それを実現するための曲線だったりとか、自分が目指すデザインをやっている人は多くなくて、ここが時間がかかりました。今みたいにファブラボだったりとか、大学のなかに工作室があったりというのはなかったんです。」

オリィこと吉藤健太朗さんは2012年、仲間と会社を設立。ロボットづくりのため、試行錯誤の日々を過ごします。その後、山も谷もありましたが、ここではエピソードをひとつだけ。学生たちが起業した会社は、すぐに資金難に直面します。救いの手は、意外なところから差し伸べられました。

「墨田区にある浜野製作所の浜野さん。町工場の社長さんなんですが、浜野さんが私のつくっているパーツをみて、大学生が家でつくるにはクオリティがすごすぎる。誰だこれをつくっているのは?となって、『私です』と。こんなのつくりたいんです、と説明したら『それ、やろうよ。』と言ってくれて、そのまま浜野製作所の機械、レーザー加工機、何億もするような機械も使わせてくれたり、職人さんも協力してくれて、私たちの起業を支援してくれたんです。さらに、墨田区が遠かったんですが、『俺の家余っているから住んだらいいよ。』って、カギをほいって渡してマンションの部屋を貸してくれて、1年以上ずっとそこにいましたね。」

2015年7月7日、『OriHime』リリース。吉藤健太朗さんの想いがついに結実したのです。最後に、この『OriHime』を 試作段階で使った方の感想を教えていただきました。

20170818hidden02.jpg

「ある入院している子どもにOriHimeを見せに行ったんです。その子は無菌室に3ヶ月入っていてほんとに体がしんどいと。ひとりぼっちで入院していて、お母さんも本とかテレビとか暇つぶしのものは用意しているんですけど、どんどん気力が落ちていっていると。そこでOriHimeをその子の家においてもらって、よかったら1週間試してほしい、とお願いをしました。そしたら、その子は退院するまで3回くらい延長して使ってくれたんです。退院したあとにアンケートを取りに、意見を聞きにいったら、すごく元気になっていて、『ありがとう』と言ってOriHimeを返してくれたんですけど、このOriHimeのどこがよかったかというと、『家族と一緒にテレビが見れた』と。つまり、OriHimeは自分の分身で、朝から夜までずっとつなぎっぱなしになっていて、好きな方向を見ることができるので、掃除をしているお母さんとか帰ってきた弟とかを眺めることもできた。『やっぱり一緒にというのが一番よかった。』って言ってくれて。家族側からすれば、ロボットがきょろきょろ動いているんですが、AIじゃないので、動いているということは息子が動かしているんです。ちょっと首をふってこっちを見ただけで『どうしたの?』とか『そういえばさ』みたいな、そういう会話が生まれたり。

結構、みんな家族で一緒に外行って、お正月の餅つきを見学したりとか、花見に行った家族もいました。思ったよりもこのOriHimeを本人という風に、本人の一部という感じで扱って、『どこどこ行こうね。』と連れていくんです。今までもスマートフォンをテレビ電話にして『ほら見えるかい?』ってできたと思うんだけど、ぶっちゃけやってない。でもずっと家にいるんだから、そのままひょいって持ってドライブしたりとか、そういうことができる。これはすごいなと思って。」

離れていても、ひとりじゃない。離れていても、同じ時間を共有できる。それを、技術とアイディア、そして あふれる情熱によって実現したのが、分身ロボット OriHimeです。小さなロボットが、人と人、心と心を つなぎます。