福永紙工は、東京の立川市で1963年に創業。町の印刷工場として、名刺・葉書・お菓子のパッケージなどを手がけてきました。そんな会社が10年ほど前から、さまざまなクリエイターとコラボレート。『かみの工作所』というプロジェクトで数々のヒット商品を生み出しています。福永紙工 株式会社、常務取締役の山田祥子さんにプロジェクトの始まりについて教えていただきました。

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その当時、ちょうどいいタイミングで、デザイナーのネットワークを持ってらっしゃるプロデューサーの方にお会いするきっかけがあって、その方とデザイナーの方と西側の多摩の地区で、何かデザインのものが作れるんじゃないか?という思いから少しずつ始めているんです。国立につくし文具店というお店があって、そこの店主というか、プロデューサーが萩原 修さんという方なんですけど、その方がデザイナーのネットワークをお持ちなんです。

萩原さんとの最初の出会いは、私たちが住んでいるところの数100メートルのところにつくし文具店という、なんでこんなところに文具店をつくったんだろう、と思うような文具店ができて。私たちが犬の散歩をしているときにそこで会って話をしたときに、化学反応的に、『デザイナーを直接ここに連れてきて何ができるかやったら、何かできそうだよね。』ということになったんです。」

20170707hidden05.jpg偶然の出会いから、紙を使った新しいものづくりが始まりました。なかには、建築家と一緒に作ったアイテムもあります。空気を包みこむように、形を自由に変えられる紙の器、名前は、「空気の器」。 

「世の中にあるものに挑戦しようとは、さらさら思ってなかったんですよ。ノートとかいわゆる紙の文具は、大手さんがもう何十年もやってらっしゃるので、そういう決まったことをやるよりは、紙でもっと面白いものができるんじゃないか、という想いが強くて。売れるものを作るというよりは、世の中にない新しいものを作って発表していくっていうことに重きを置いていて、空気の器を作ったトラフ建築設計事務所って、建築家なんです。通常だったら紙のプロダクトに建築家に声をかけるのはほんとに珍しい。これにはプロデューサーがいて、一枚の紙というものを見た時に発想が何になるかっていうのは、紙をいじってきた人にだけ頼むんじゃなくて、という発想だったと思います。もう、飛び込み的にメールして、『かみの工作所に参加してもらえませんか?』というような、常にそんなやり方をしていました。」

20170707hidden03.jpgその後2015年、かみの工作所はカードにまつわるコンペティションを開催します。

「カードとかノートとか、たくさんのものがあふれかえっていたのが紙だったんです。そこと違うものをやろうとしていたのが、うち。でも、紙の可能性をやりつつ、自分たちのモノをどう売るかを考えたときに、カードや書いて贈ることに興味のある人がこんなにもいるんだなと。あれ?避けてたよね、と思って。カードって二つ折りのファイルとかThank Youと書いてあったりとか、決まりきってるんですね。だから、ここが次に挑戦するところじゃないかなと、ちょっと思ったんです。もっとカードの新しい形が作れるんじゃないかということやったのが、コンペティションですね。誰でも参加できることをやってみたのが2015年で、そこで生まれたのが、星空の封筒。このときのテーマは『気持ちを伝える』というものでした。」

立川にある会社 『福永紙工』のプロジェクトかみの工作所がおこなったカードのデザインコンペ。そこで優秀賞を獲得したのが、『星空の封筒』です。黒い封筒の外側にトレーシングペーパー。手紙を入れる部分、つまり、封筒のなかをのぞくと 黒い紙に穴があいていて満天の星空が広がります。このアイディアをエントリーしたのは、塚田萌さん。

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「塚田さんはいま京都に住んでいるんですけど、生まれは新潟の方なんです。そのプレゼンはA3シートにあるんですけど、新潟で生まれ育つと東京の人がかわいそうということがつらつらと書かれていて。新潟の空を見上げると満天の星空が輝いてっていうところで、東京の疲れている人にこれを見てほしい、というのがテーマでした。このコンペって、箱で星空みたいなものをおくってきた方もいらっしゃったんですが、箱だと見る前に想像がついちゃうじゃないですか、箱っていう空間がもうあるので。でも、封筒で、なんで平面の封筒のなかに星空があるのかということで、そこに感動が生まれる。それで、これが選ばれました。実際の星座にもなっているんです。オリオン座があって、うさぎ座があってっていう。実はこれ、新潟の8時の空なんです。」

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この『星空の封筒』をつくるなかで、福永紙工の山田祥子さんはあることに気づきました。

「やっぱり人に喜んでもらえるものとか、人にもっともっと感動してもらえるものとか、そういうツールに紙のものがさらになってくれたら嬉しいな、というのがあります。伝えたくなる、という気持ちにみたいなものを大事にしたいなと思って、そこに入っていく、というのが次だと思います。はなから利益目的ではないって言っちゃうと経営者としてはどうかと思いますが・・・紙の製品って、ノートみたいに消費していく必要なものもあるじゃないですか。でも私たちがつくっていくものは、人を感動させるものだと思っているんですね。ほんとは世の中に必要ないものかもしれない。でもそうじゃなくて、それをもって気持ちがあったかくなってくれるもの、それが私たちのやるべきこと、そこをもっと考えてやっていきたいと思うんです。なので、星空の封筒というのは、この広がり方にハッとさせられたんですよね。封筒なのに人をこんなに感動させる。そこにすべてが含まれているという気にさせられた作品なんです。」

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『星空の封筒』を誰かに贈る人は、それを送られた人が中をのぞいたときの驚きを想像します。立川の印刷工場の職人さんたちも、その瞬間を思い描きながら封筒を作ります。いくつもの想いが重なって、封筒のなか、星が輝きます。お天気はどうあれ、見た人の心には満天の星空。

福永紙工、かみの工作所や星空の封筒については公式ウェブサイトをご確認ください。

福永紙工ウェブサイト

かみの工作所ウェブサイト

福永紙工ネットショップ「かみぐ」(星空の封筒はこちらで購入可能です)