中央区日本橋 蛎殻町。

東京メトロ・日比谷線の人形町駅。あるいは、半蔵門線の水天宮前駅から少し歩いたオフィス街。お昼どき、多くの女性が入っていくお店があります。そこは、遠忠食品株式会社が運営するオーガニックショップ"遠忠商店"。野菜、お米、調味料、ワインにチョコレート、さらにお弁当。さまざまなオーガニック食品とともに遠忠食品が作り続ける『佃煮』が並んでいました。

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「この『江戸前でぃ!』というのが、東京湾でとれた素材で作った佃煮です。例えば、生海苔は木更津の生海苔を佃煮にしていて、昆布も"横須賀"と、産地までちゃんと入れて販売させていただいています。いま、アサリが少なくなっているんですけど、ハマグリの佃煮とかもあります。素材をいかすために調味料も、たとえば醤油は国産の丸大豆醤油で、大豆、小麦、食塩、それだけしか使っていない醤油です。それも当然、大手さんと違って、木樽みたいなところで1年とか2年、発酵させて作った醤油を使ったり、砂糖も国産の原料で作ったものや、水飴も国産のサツマイモから作った水飴を使っていたり、調味料ひとつひとつも国産のもので作っています。」

取材にお答えいただいたのは宮島一晃さん。遠忠食品の三代目です。

「いま遠忠商店があるビルの1階に工場があって、私が高校生のときに工場を越谷に移して、それと同時にビルを建てたような感じでした。昔は1階が工場で2階が住まいだったんです。当時は住み込みの方がたくさんいて、大家族のなかで私は育ちました。すぐそこが隅田川なんですけど、隅田川の向こうの深川とか、そういうところには漁師さんもいたころで、もちろん東京も昔は漁師さんがいっぱいました。浦安にも私どものアサリをむく工場もあったので、私は子どものころ、そういうアサリをむいた殻の山っていうのかな、そういうところで遊んだのを今でも覚えてます。足の裏の感触っていうんですか、つぶして遊んでいたのも覚えているし。」

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東京湾の漁師のみなさんを見て育った宮島さん。しかし、高度成長期、海の汚染は広がりさらに、干潟は埋め立てられました。

実際に明治時代から比べると、東京湾って、90%くらいの干潟を埋め立ててしまったんです。本来は干潟があることによって、アサリがいる。それによって二枚貝が水を浄化したりという、そういう自然の作用があったんです。それが、高度成長のなかで、全部、直立護岸になっちゃって。直立護岸になって、干潟がなくなるということは、そういう生き物が圧倒的に少なくなってきます。だから、自然の力で海を浄化するということが、昔から比べたらすごく難しくなってきました。」

ただ、汚染については、技術の力により、海の透明度が回復。そして、東京湾には干潟で漁をする人も残っていました。ほとんど使われなくなった江戸前の原料で佃煮をつくる。宮島さんの挑戦が始まりました。東京湾でとれた素材。江戸前の佃煮をつくるには、何と言っても、これが必要でした。

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「最初にやったのは海苔の佃煮、私どものメイン商品です。木更津のほうでお願いして、ある漁師さんと知り合って、その方から生海苔を分けてもらうんです。最初は、測りと容器と現金を持って買いに行きました。生海苔が海から上がってくるのを待って、それを自分で詰めて現金を払って帰る、っていう仕入れの仕方。アクアラインを渡るとすぐ木更津なんですけど、あの辺一帯ね、海苔の産地なんです。あそこの干潟は盤州干潟っていうんですけど、東京湾で一番大きな干潟です。大潮になると2キロ先まで干潟が出る感じで。」

宮島さんは、さまざまな漁師さんと関係を築き、東京湾の食材を集めています。そして、そこにはこんな想いも込められていました。

「漁師さんがいらっしゃいますよね。ただやっぱり、農業もそうなんですけど、高年齢化になっているんです。僕らは本当に微力ですけど、そういう人たちと一緒になって原料をいただいて買い支えるというのも非常に大事なのかなと思ってます。そういう原料を毎年、漁師さんから全量いただく。向こうの思った量で、これだけ出せますよっていう原料を全て買うような形でやっています。」

取材のなかで、宮島一晃さんが強調したのは"自然のサイクル"。

いまアマモもいろんなところで増やしてるんです。アマモが増えることで魚が卵を産む場所になる。魚がそこで卵を産むことで魚が増えていったり、アマモが酸素を発生させたりというような、本来のそういう自然の循環のなかで自然のものが増えていくのがいいのかなと思います。そういうなかで、いま、いろんな方が東京湾をよくしよう、ということで行動していて、横浜でワカメつくっていたりとか、最近お会いした方は、東京湾で昆布をつくってね。昆布でCO2をよくするとか、いろんな方がいらっしゃいます。直立護岸になっちゃって海と人が遠ざかっていたんですけど、ちょっとずつ近づいていくような形ができればいいなと私は思いますね。」

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海と人が 少しずつ 近づいて、、、その先に実現したいのは、自然のサイクルが戻った海。100年以上続く佃煮屋さんの三代目は、佃煮の向こうに、そんな未来を見つめています。

東京産の海産物でつくった佃煮、ぜひご賞味ください!

遠忠商店

  • 住所:東京都中央区日本橋蛎殻町1-30-10 宮島ビル1階
  • 電話番号:03-6661-6021
  • 営業時間:午前11時~午後7時
  • 定休日:日曜・祝日
  • アクセス:東京メトロ 半蔵門線・水天宮前駅 6番出口から徒歩2分
  •      東京メトロ 日比谷線・人形町駅 A2出口から徒歩5分