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numa
サンバ発祥の地、ブラジル・バイーア州サルバドールへ再び舞い戻った。「黒いローマ」といわれる旧市街を彷徨い、治安の悪い下町を足早にすり抜ける。筋肉質な男達と美しいボディ・ラインを曝け出す女たちの波を掻分け、パーカッションの放つグルーヴに身を委ねる。海の向こうはアフリカ。まだ見ぬ偉大な大 陸を思いつつ、ギャルを眺めながら、ビールを呑む。アフロ系が8割を超えるサルバドールの、どこか乱雑で混沌とした空気は、奴隷と同じようにかつてアフリカから持ち込まれたのだろうか。
時々ふと、インドのどこかを旅しているような感覚に陥るのは単なる錯覚か・・・色々な疑問が現れては消え、僕はまた、ビールを注文する。けれど太鼓の爆音が向こうからやってきたら、それでゲーム・オーバー。スイッチが切り替わって全身の毛穴が開く。さあ、お楽しみの時間だ。
世界文化遺産登録もされているペウリーニョ広場は、カラフルでコロニアルな建物が並んでいる。アフロ系が8割を占めるサルバドール、人々はこの旧市街 を、「黒いローマ」と呼ぶ。
夜のジェズス広場は薄暗くライトアップされ、昼とはまるで違う表情を見せる。しかし一歩路地を外れれば、すべてを奪われる危険性も孕んでいる。
火曜日の夜、パーカションの音につられて表通りに繰り出すと、‘SWING DO?PELO’が練習がてら、ペウリーニョを行進していた。20人ほどのバテリアとそれに続く群集。パーカッションの持つ原始的な力に皆、無条件に引き寄せられている。
バイーアっ子も大人同様、夜遅くまで路地で遊びに熱中している。街の醸し出す雰囲気が子供たちに、夜遊びとは何か、教えているように思えた。
ガイドブックの中に、サルバドールは「黒いローマ」と呼ばれている、と書かれていた。的確な表現だな、と感心した。ペウリーニョと呼ばれる旧市街に立ち並ぶコロニアル調の建築物は、ヨーロッパではほとんど見られない、パステルカラーや派手な原色に塗られている。貧困層が多いのか献金が少ないのか、重厚 なバロック建築の教会のほとんどは、今にも剥がれ落ちそうだ。
アフリカから来た黒人奴隷が最初に降り立ったのが、ここサルバドールで、現在アフロ系の人口比率は8割近くにのぼる。宗教、音楽、衣装、舞踏など、様々なアフリカ文化がここに持ち込まれ、独自のアフロ・ブラジリアン文化として根を張った。ブラジルのほかのどの街にもない、ルーツを感じさせる色濃いバイブレーションがサルバドールにはあると、強く感じる。
サント・アントニオ通りのバールにて。灼熱に近い日中から一転、海岸から吹く風が肌を心地よくすり抜ける夜の風景。地元の人たちがビール片手におしゃべ りに興じ、夜は更けてゆく。
アフリカから連れてこられた奴隷が最初に降り立ったのが、ここサルバドール。独自のアフロ・ブラジリアンが開花した古い街並を歩くと、ルーツを感じさせ る瞬間に多く出逢う。
バイーア州サルバドールはブラジル北東部の海岸沿いにある街。16世紀、ポルトガルによって総統府が置かれて以来200年のあいだ、ブラジル最初の首都だったという。16世紀の植民地の首都の景観、といっても、それがどのような世界だったのか、アジアの果てで生まれた僕には想像ができないけれど、かつ ての朽ち果てかけた要塞や奴隷収容所が市場やカポエイラ道場として利用されているのを見る度に、心の底で何かが蠢くよう感覚に陥る。そのことについて 考えていくうちに、それは一種の磁力ではないかと思うようになった。
昼下がりのペウリーニョにて。強烈な陽射しがでこぼこの石畳の道に照りつける。急な坂の多いペウリーニョは、サンダルで歩くのが難しいほど、石畳が磨り 減っている。雨が降ると滑りやすくなり、下り坂が怖い。
サルバドールはカポイエラの中心地でもある。多くの外国人が長期滞在しながらカポイエラを学んでいる。街角やお土産屋で、いいモノから粗悪品まで、たく さんのビリンバウが売られていた。
地球上の幾つかの場所には強力な磁力があって、パワースポット、などと呼ばれる。サルバドールは、屋久島やセドナのような大自然の産み出したパワース ポットではなく、エルサレムやバラナシのような、人間が地球に介在して作り出されたパワースポットなのではないか、と考えた。そういった場所には強力な 磁力があって、人々は惹きつけられ、他の何かと衝突しながら摩擦のようなものを繰り返す。その集合体がパワーとなり、街の空気となり、そこを訪れた者は 磁力のような、言葉ではいい表わせない不可思議な感覚を得る。
エルサレムには聖者の行進が、バラナシには死者の行進が、そしてサルバドールには音楽の行 進がある。サルバドールの磁力を生み出したのはかつての黒人奴隷たちであり、彼らの持ち込んだ誇り高い文化であり、それを消化吸収したブラジルという乾いた大地なのだ。
サンバは日本の民謡に近い、お祭りの音楽。楽器があれば子供が笑顔で駆け寄ってくる。ブラジリアン・グルーヴのルーツ、ここに発見。
人気の少ないピトゥアス海岸。空が抜けるように青く、容赦ない陽射しが照りつける。冷えたビールが世界一美味しいのはブラジルのビーチ、と断言しよう。
かつてのインドがそうだったように、サルバドールは「呼ばれてくる場所」に感じられる。前回ここを訪れた5年前に比べ、旧市街の外観は随分きれいになり観光化が進んだ。治安も改善されているように思える。旅人にとってタフな場所、という印象は、薄れつつある。この先、サルバドールがどのようなに観光化されるのか、一抹の不安も覚えるが、それでもまだ、この街は強力な磁力で人々を呼び寄せている。
僕もまた、その不可思議な磁力に「呼ばれた」ひとりだ。5年ぶりのサルバドールで、パーカッションを叩いてカルナバルに参加するなんて、考えてもみなかった。幾つかの重要な出逢いを経て、いま僕は再びサルバドールにいる。中でも5年前から親交を深め、現在、旧市街・ペウリーニョの一角でゲストハウス 「なお宿」を営むNAOYAさんに、感謝を捧げたい。