「アフロ・キューバン」「GALAXY SESSION」等、毎年様々なテーマで開催され、多くの音楽ファンを楽しませて来た「J-WAVE GILLES PETERSON'S WORLDWIDE SHOWCASE」が、今年も開催された。今年のテーマは “Love Supreme”。「至上の愛」という邦題でも語られるこの言葉は、ジャズの巨匠ジョン・コルトレーンによって1965年に発表された彼の代表作のタイトルであり、かつ、ジャズの長い歴史の中においても、大きな意味を持つ作品。そして、今年で5回目の開催となるWORLDWIDE SHOWCASEの今年の開催日は、9月23日。ジャズに詳しいリスナーであればピンと来るかもしれない。この日は、ジョン・コルトレーンの生誕の日なのである。さらに2011年は、「Love Supreme〜至上の愛〜」を発表した名門ジャズ・レーベル「impulse!」が誕生して50周年という記念すべき年。コルトレーンの生誕85周年、impulse!の50周年と、様々な出来事が、2011年の9月23日という一日に集約された。まさにこの日は、音楽を愛する全ての人達にとっての特別な日なのである。

オープンの17:00の時点で、会場のリキッドルーム内には既に入場を待つ長蛇の列。エントランスでは「響 & ペリエ」のスペシャルドリンクのブースも設けられ、いやが上にも期待は高まってくる。

フロアでは、石井亮によるDJタイムがオープニングを飾る。緩やかなビートからスタートしフロアを徐々に暖めていくプレイは流石の一言。ビートダウンをベースにアフロキューバン、ワールドミュージック等までも折込みつつ、様々な世界観を楽しませてくれた1時間。Mark De Clive-Loweの”Get Started feat. Omar & Sheila E”が流れた数分間、このイベントに対するオーディエンスの期待感は、既に最高潮になりつつあるように感じた。

そして18:00に、いよいよジャイルス・ピーターソンが登場。ジョン・コルトレーンのバースデイをセレブレイトするスピーチと共に、まず紹介されたのは、SLEEP WALKER のリーダーでもある中村雅人。彼が率いるニュープロジェクト「MASA SEXTET」の登場だ。中村 雅人(Sax)と廣瀬 貴雄(Trombone)がトップに立ち、ソロを廻していくスタイルがとにかく印象的で、演奏される内容は、まさにスピリチュアルという言葉そのもの。このメンバーによってカヴァーされる、Yusef Lateef “Before Dawn”、Shamek Farrah “Waiting For Marvin”、John Coltrane “Mr. P.C.” 等を聴けることは、どれだけ贅沢なことか。バックを固めるメンバー達、池田 潔(Bass)、藤井 伸昭(Drums)、菱山 正太(Rhodes)、西岡ヒデロー(Percussion)も、言わずもがなの実力派ミュージシャンのみ。メンバー全員のインプロビゼーションが、フロントに立つ中村雅人へと集約されてゆくステージは圧巻とさえ言えるものであった。

45分に渡る素晴らしいライブの後に続いたのは、YAMA a.k.a SAHIB (AUDIO SUTRA SOUND / J.B.P.)によるDJ。生音ジャズやブレイクビーツを織り交ぜつつのダブステップ・セットで、オーディエンスの体温はどんどんと高まっていく。UFO “LOUD MINORITY”がプレイされた瞬間には、フロアの熱気も最高潮に。また、とても印象的だったのは、SO IN THE HOUSEによるVJ。トランペットの音色、シンバルを叩く音…それらに合わせて背景のスクリーンには、それぞれの楽器の映像が実にスタイリッシュな感覚でシンクロされてゆく。

次に登場したのは、タップダンサー熊谷和徳、そしてセネガル出身のパーカッショニスト、ラティール・シー。僕は、この日の2人のパフォーマンスに、大きな衝撃を受けた。以前に、ピアニスト上原ひろみさんとの共演は何度か目にしたことはあり、その時も彼のパフォーマンスは印象的ではあったが、この日のラティール・シーとの絡みを見て、タップダンスとパーカッションだけで、あれだけのグルーヴが生み出されるのかということに、正直、驚きを感じてしまった。後半には、Rhodes、Drums、Bass、そしてタブゾンビ(Trumpet)までもが加わり、ハービー・ハンコックの代表作“Maiden Voyage”を。このメンバーによる“Maiden Voyage”のカヴァーと、そこに熊谷によるタップダンスが加わったパフォーマンスは、まさに2011年の現在進行形のジャズと言えよう。

そしてここからは、この日のシークレット・プログラム「Special John Coltrane Session」。SOIL&"PIMP"SESSIONSの社長、元晴(Sax)、そして、中村雅人(sax)らも加わり演奏されたのは、ジョン・コルトレーンの1961年に発表された代表作 “My Favorite Things”。中村雅人と元晴の2人がソプラノサックスを向かい合って吹き鳴らし、その上に熊谷のタップの音が乗った瞬間は、間違いなく前半のハイライトであった。

オーデェンスの興奮冷めやらぬ中、次に登場したのは、SBTRKT(サブトラクト)。UKを拠点に活躍する彼は、世界的にも今最も注目を集めているアーティスト。覆面をかぶったその出で立ちだけでもミステリアスであるが、彼が創り出すサウンド、DJプレイ共に、以前からジャイルスも絶賛していた。この日のDJセットは、前半、機材トラブルがあったものの、そんなことは全く忘れてしまうかのような流れを一瞬のうちに作り出し、最新作『SBTRKT』からの“Pharaohs”や“Wildfire”等のヴォーカルトラックで、フロアのボルテージは最高潮に。ダブステップやUKファンキーをベースとしながらも、そこだけに納まらないスケールの大きさを感じるプレイ。例えて言うならば、現在の、細分化されたサウンドや音楽ファンの嗜好を全てカバーし、幅広いリスナー層にアピール出来る、とても大きな可能性を秘めたアーティストだと言えよう。

そしていよいよ、SOIL&"PIMP"SESSIONS の登場。今回の彼らのセットは、この日だけのエクスクルーシヴなもの。何と、全ての曲が、ジョン・コルトレーンのカヴァーだったのである。タブゾンビ(Trumpet)、元晴(sax)、丈青(key)、秋田ゴールドマン(Bass)、みどりん(Drums)、そして、拡声器を手にしてフロントに立つ社長、全てのメンバーが大きな存在感を持って、ジョン・コルトレーンへのリスペクトの念を、全身で表現していたのではないだろうか。さらに後半には、社長の呼びかけによりロバート・グラスパーが飛び入りという、信じられないようなサプライズ。SOILのセッションに、新世代ジャズピアニストの筆頭でもあるロバート・グラスパーが加わるということは、驚くべきこと。SOILのグルーヴと、ロバート•グラスパーのアグレッシヴで且つ繊細なピアノプレイが完全に融合した、鳥肌のたつような瞬間を目にすることが出来たこの日のオーディエンスは、本当に幸せだと感じる。

そしてイベントのトリを飾るのは、やはりジャイルス以外にはいない。“A Love Supreme”のイントロからスタートした今年のジャイルスのセットは、2011年の新しい感覚もプラスされ、今年も素晴らしいセレクトを存分に発揮。ダブステップから、アフロキューバン、ラテンへと、ジャイルスのセレクトは世界を自由に旅をし、また、2011年のジャズからコルトレーンの時代へと遡ってゆく時間の旅でもある。ジョン・コルトレーンという1人の偉大な人物に畏敬の念を持ち、古き良きジャズ、そして2011年のジャズを、一つの信念によって自由に組み合わせていく感覚は、やはりジャイルスでなければ出来ないことではないだろうか。そこには、まさに「至上の愛」があった。最後は、2011年のクラブシーンを代表するアンセム、Adele “Rolling In The Deep (Jamie XX remix)” 、そして、昨年のWWSでも聴く事が出来た、Bill Withers “Lovely Day” で、最高のエンディングを迎えることとなった。

3月11日に日本を襲った大震災のニュースの僅か1週間後に、ジャイルスは“Pray For Japan”と題してロンドンでチャリティイベントを行った。また「Ganbare Nippon Mix」をWeb上で公開する等、今、深刻な状況に置かれている日本へ、彼は常にエールを送り続けている。彼がエンディングで発した言葉「Pray for Japan」「Stay Strong」…これは、この会場に集まったオーディエンスばかりでは無く、今大変な状況に置かれている全ての人達への深いメッセージ。また来年も、「WORLDWIDE SHOWCASE」で、元気いっぱいのジャイルスと再会出来ることを、心から願う。そして、このレポートを読んでくれている皆も、来年の「WORLEWIDE SHOWCASE」を、自分の目と耳で、どうか実際に感じてみて欲しい。彼がセレクトする素晴らしい音楽を通して、世界が少しでも良い方向へ向かうために僕らが何を出来るのか。それを知るきっかけが、ひょっとしたら掴めるかもしれない。


Text : Yasumasa Okada (DESTINATION / DESTINATION MAGAZINE)
All Photo : Asaki Koshikawa http://asakikoshikawa.tumblr.com/