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「スメル・ハラスメント」


最近、耳にする言葉、「スメル・ハラスメント」
通称「スメハラ」。
体臭や口臭、キツイ香水など臭いによって周囲に不快感を与えることを言います。
やっかいなのは、当の本人が気づいていないところ。
特に夏は匂いが気になる季節です。


そこで、今回は匂いのメカニズムについて
比較ゲノム・分子進化の視点から、匂いの遺伝子について研究されている
東京大学大学院農学生命研究科 特任准教授、新村芳人さんに伺いました!

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・人が匂いをクサいと感じるのはどんなメカニズム?

 まず、空気中に存在する匂いの分子が鼻に到達しなければなりません。
 鼻の中の嗅上皮というところに「嗅覚受容体」という匂いの
 センサー(タンパク質)があります。
 このセンサーはヒトの場合約400種類ほどあって、鍵と鍵穴の関係のように、
 特定の匂い分子に特定のセンサーが反応するようになっています。
 嗅覚受容体の数は、イヌでは約800種類、アフリカゾウではなんと2000種類も!
 あるセンサーに匂い分子が結合すると、その情報は脳の嗅球という
 領域に伝えられます。それから脳内で複雑な処理を経て、
 最終的に匂いの知覚がもたらされます。


 匂いの「質」や快・不快がどのようにしてもたらされるのか?
 なぜ、ある匂い分子はバラの香りと感じ、別の匂い分子は悪臭と感じるのか?
 については、よく分かっていません。

・匂いに強い人、弱い人の個人差はありますか?

 あります。匂いの感度や感じ方には、かなりの個人差があります。
 嗅覚自体は正常なのに、ある特定の匂いだけを嗅ぐことができない
 「特異的嗅盲」という現象が知られています。
 例えば、スカンクの悪臭成分であり、都市ガスに人工的に添付されている
 ブチルメルカプタンは、普通の人はごく微量でも検出できますが、
 約千人に一人はこの匂いを知覚できません。
 
 あるいは、「アンドロステノン」というブタの性フェロモンは、
 人によっておしっこのような悪臭がしたり、花のような甘い香りがしたり、
 まったく匂いがなかったりします。
 このように、匂いの感度が人によって異なることの第一の要因は、
 人によって持っている嗅覚受容体の遺伝子のレパートリーが違っているからです。
 例えば、アンドロステノンに対する知覚の個人差は、
 アンドロステノンに結合する嗅覚受容体の遺伝子の個人差によって説明できます。


・人によって、いい香りと感じたり、嫌な匂いに感じたりするのはなぜですか?

 ある匂いが好きか嫌いかという「嗜好性」については、
 遺伝的な要因よりも、生まれたあとで学習によって獲得する部分が
 大きいと考えられています。例えば、ウンチの匂いは悪臭ですが、
 赤ちゃんはウンチの匂いを嫌いません。ウンチの匂いを悪臭と感じるのは、
 それがトイレという汚くて忌避すべき状況といつも一緒に出現するからです。

 赤ちゃんは成長するにつれ、忌避すべき状況と一緒に現れる匂いは
 嫌な匂いであるということを学習していきます。これを「連合学習」と呼びます。
 従って、その人の経験によって、匂いの嗜好性は異なります。
 文化的な影響もあります。例えば、西洋人に対する納豆のにおいなど、
 馴染みのない匂いは不快に感じられる傾向があります。

・そもそもフェロモンってあるんですか? 匂いとの関係性は? 

 フェロモンの定義は、
 「,△觚賃里ら分泌・放出されて、同種の他個体が受容し、
 F丹枦な行動や生理的変化を引き起こす化学物質」です。
 つまり、「仲間とのコミュニケーションに使われる化学物質」のことです。


 一番よく知られているのは、異性との交信に使われる「性フェロモン」です。
 これは「ファーブル昆虫記」にも書いてありますが、
 暗闇の中にメスの蛾を入れた虫かごを置いておくと、オスの蛾が群がってきます。
 蛾(カイコガ)のフェロモンの正体は「ボンビコール」という物質で、
 それは触覚で受容されることが分かっています。


 フェロモンには、性フェロモンの他に、危険を知らせる警報フェロモン、
 餌のありかを知らせるアリの道しるべフェロモン、ゴキブリの集合フェロモン、
 なわばりを知らせるためのフェロモンなどがあります。

 非常におおざっぱに言えば、フェロモンは匂いの一種であると言えます。
 ただし、フェロモンとして知られている物質のすべてに匂いが
 あるわけではありません。フェロモンの中には、揮発せず、
 尿や涙の中に分泌されるものもあります。

・モテる匂いってあるの? 人が興奮する匂いとは?

 これは、「ヒトには異性を惹きつける性フェロモンがあるか」
 という質問に言い換えられると思います。
 基本的に、ヒトを含む霊長類は視覚に頼っており、
 他の哺乳類に比べるとあまり嗅覚は発達していません。
 例えばマウスなどではフェロモンを受容するための
 鋤鼻器(じょびき)という器官がありますが、ヒトでは退化してしまっています。


 しかし、ヒトも哺乳類の一種なので、化学物質を使った
 コミュニケーションを行っています。

 一番有名な例は「寄宿舎効果」あるいは「女子寮効果」と呼ばれるものです。
 俗に「生理が移る」と言われますが、複数の女性が一緒に生活していると
 性周期が同調してくるという現象です。
 脇の下からの分泌物を嗅がせても同じ効果があるという論文があります。
 ただし、寄宿舎効果を引き起こす物質はまだ同定されていません。


・匂いの研究はどんなコトに活用できるんですか?

 匂いの研究は、我々の生活を豊かにすることに応用できます。
 例えば、食べ物をより美味しくするためのフレーバーの開発があります。
 我々が「味」と思っているものは、実は匂いが非常に大きな役割を果たしています。
 シャンプーなどの香粧品や、消臭剤、香水の開発にも使われます。

 また、医学的な応用も重要です。
 嗅覚が失われると日常生活に深刻な問題を引き起こしますが、
 その治療にはまず嗅覚のメカニズムを理解することが必須です。

 あるいは、「アロマテラピー」と呼ばれる、香りを用いた医療も進んでいます。
 例えば、ローズマリー、レモンオイル、ラベンダー、オレンジオイルの精油は
 認知症を改善することが分かっています。

 最近では、線虫というちっぽけな生物が、
 癌のにおいを嗅ぎ分けるということが話題になりました。
 また、フェロモンは害虫の駆除にも使われています。


そしてもっと、匂いについて知りたい方!新村先生の本が出ています!
「興奮する匂い 食欲をそそる匂い 〜遺伝子が解き明かす匂いの最前線」(技術評論社)
Kindle版も出ていますので是非チェックしてください!


J-WAVE GOLD RUSH 【CURIOUSCOPE】のコーナー
東京大学の新村芳人 特任准教授に匂いのメカニズムについて伺いました。


ありがとうございました!

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