FUTURISM

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2019.08.11

今週は、スタジオを飛び出して、
港区で酒造りを営む『東京港酒造』へ!

今週は、東京都港区で酒造りを営む『東京港酒造』を取材した模様をお届けしました。

「都会の真ん中で酒造り、その未来」をテーマに
杜氏の寺澤善実さんにお話伺いました。

東京港醸造|大都会に蘇った酒蔵

SONG LIST

  • Jabula
    Abdullah Ibrahim
  • Night And Day
    Diana Krall
  • Tokyo Blues
    Benny Green Trio
  • Let's Get Lost
    Chet Baker
東京都港区芝。
JR田町駅からほど近い山手線の内側、4階建ての住居を改装した酒蔵があります。

東京港醸造(とうきょうみなとじょうぞう)。
ルーツは幕末、1812年から酒造りを始めた「若松屋」。
当時の若松屋には奥座敷があり、
西郷隆盛や勝海舟などの幕末の英雄たちが密談のために訪れていたそうです。

1909年、日露戦争の影響などにより酒造業を廃業。
それからおよそ1世紀。
現在の社長、斎藤俊一さんが酒造りを再開させ、2016年に清酒製造免許を取得。
日本酒「江戸開城」を発売しました。

東京港醸造のお酒はなんと水道水。

「東京都の水道水を使っています。平成25年に東京23区は高度浄水処理による
 美味しい水道水が飲めるようになりました。名水があれば良いお酒ができるといいますが、
 私たちの技術者は、水というキャンバスの中にお米を利用して作品を描くわけです。
 水がある程度変化をしても、
 その中に自分の描きたいものさえ描ければ美味しいお酒はつくれるという考えです」。

杜氏の寺澤善実さんは、東京23区にある酒蔵という立地の特徴を活かし、
水道水でも技術力で美味しいお酒をつくれることを証明しています。

「すべてのことが自由でないことを逆に楽しんでいます。
 自由でないことをどのように攻略していくか、4階建ての中で効率的につくるか」。

都会の真ん中で酒造りをすることの不自由さを工夫と技術で乗り越え、
地方の酒蔵であれば排水処理に苦労するところを、
下水が完備されている東京ならではのメリットとして活かしています。

「かつて勤務していた伏見の大手メーカーでは、蔵人(くらびと)が少なくなっていく中で、
 効率良く大量の酒をつくるために、伝統の中で受け継いできた技術をデータに変えて、
 コンピュータで全自動でつくろうと。“小さくつくる”と目線を変えると、
 必要な部分だけにすれば、都会の中でもこんな形で再現できます。
 大量につくって安くて良いものをというのはこの規模では無理ですが、
 良いものを少量にというコンセプトであれば可能です。都会の中でつくって
 すぐに飲んでいただく。夏の間でもそれほど電気を使わなくても冬と同じような条件にもできます」。

将来はロボット杜氏、AIで自動化した無人酒蔵なんてものも可能になるのでしょうか。

「芸術のようなところがあるんですよ。機械で管理して麹ができたりもするんですけど、
 しっかりとした人間の技術力による、機械化ではなく人の手でつくることがいいと思うんです」。

たしかに、東京港醸造の職人さんの酒づくり現場を拝見した後、
そのお酒を口にしてみるとひときわ美味しい。
人間が介在しない全自動だったとしたら、味覚も違ったかもしれません。

「携帯のように、酒蔵も小さくすると持ち運びが便利」。

寺澤さんが考える都会の真ん中での酒造り、その未来の鍵はモビリティ感覚の酒蔵。

都会の真ん中だからこそ、コンパクトで効率的に。
まるで持ち運びすらできそうな酒蔵。
大量生産はできないけれど、美味しいものを少しずつつくっておすそ分け。

自動化による大量生産では味わえないお酒の味が、そこにはありました。

小川 和也