TOPPAN FUTURISM

ON AIR DATE
2017.04.30

ゲストは、
ダイアログ・イン・ザ・ダークジャパン代表の
志村真介さん。

コミュニケーションの、ちょっと先の未来について
お話うかがいます。

SONG LIST

  • SCALE IT BACK feat.LITTELE DRAGON
    DJ Shadow
  • #9 Dream
    José González
  • Io
    Helen Stellar
  • Life's A Miracle
    Prefab Sprout
志村真介さんとの話を通じて見つけた、未来を創る鍵。
それは、
<半径3メートルの対話>

デートしているのにスマートフォンばかり眺めているカップル。
LINEがあるから会わなくても済んでしまう友人。
Facebookでいいね!を押し合うだけの関係。
テクノロジーは、人間同士が繋がれる頻度や距離を画期的に拡張しました。
そして、コミュニケーションのあり方を揺さぶっています。

暗闇のエンターテイメント『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』。
今から25年ほど前にドイツで始まり、世界42ヶ国で展開されています。
そこは、視覚障がい者によるアテンドのもとグループ単位で暗闇の中を過ごす施設。
純度100%の暗闇へと入った瞬間に身体が固り、足がすくみます。
「こっちにトンネルがあるよ!」「段差があるから気をつけて」
その足を動かすのは、仲間の声、コミュニケーションです。
いつも以上に人の声や息使いを求め、鋭敏になります。

志村さんは、ヨーロッパで行われている『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』の小さな記事を新聞で偶然見つけ、衝撃を受けました。
本来は何かを見せるものなのに、何も見せない展覧会。
何もないけど何かある展覧会。
目に見えない付加価値をメインテーマにしていることに驚きを覚えた志村さん。
その日のうちに新聞社に連絡をし、ドイツの発案者に手紙を書きました。
日本はちょうどバブル期。
主語は自分、自分が得すれば良いという価値観が蔓延している時代でした。
そんな中、志村さんは日本で『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』を始めたのです。

僕と相楽さんは、暗闇の中で鬼ごっこをしました。
いかんせん暗闇ですから、鬼が頼るのは人の気配だけです。
無謀のような暗闇の鬼ごっこ。
これが実に楽しいのです。
どんどん人の気配に敏感になります。
息を潜めながら鬼から逃げます。
鬼に気配が伝わることは禁物です。
鬼に捕まり手を繋いだ時に、いつも以上に人の体温を感じられるのが不思議です。
鬼に捕まったのに嬉しくなるなんて、鬼ごっこのルールに反するようですが。

ソーシャルメディア時代において、いつの間にか‘私‘という主語、‘我’というものがベースとなった投稿をしていることも増えている気がします。
暗闇の中では1人で行動することは難しい。
仲間と声を掛け合って前に進み、行動を共にする。
暗闇でコミュニケーションを行なっているうちに、主語は‘私たち’に変わっていました。
暗闇のカフェで相楽さんからお菓子をお裾分けしてもらった時にひときわ嬉しかったのも、暗闇効果。
暗闇は、哺乳類は寄り添いたい生き物であるということを思い出させてくれました。

「暗闇は固定概念を溶かす」と志村さんは言います。
‘◯◯だから’は語尾を下げます。
障がい者だから、子供だから、高齢者だから。
ところが、そこに‘こそ’の2文字を加えるだけで意味が変わります。
障がい者だからこそ、子供だからこそ、高齢者だからこそ。
語尾があがります。
障がい者だからこそ持ち得る能力があり、職業がある。
暗闇を機敏にリードしてくれた、視覚障害者であるアテンドの皆さんがそれを体現しています。

志村さんは、「暗闇を作らなくても暗闇の中で行われるような温かいコミュニケーションで溢れる社会を」を目指しています。
暗闇から出ると、あっという間にいつもの日常に戻ってしまいます。
日常の喧騒の中に沈みそうな時は、あの暗闇を思い出す自分がいます。
日常に戻っても、また暗闇に戻る。
そして暗闇の中の感覚を思い出します。

ハードウェアは意気揚々と進化を続けています。
しかし忘れてはならないのはソフト面の質の向上。
いや、むしろソフトがハードをリードすべきだと思うのです。
気配り、優しさ、ハートフルなコミュニケーション。
それらが豊かなハードを育みます。

テクノロジーは視覚で捉える情報を増やし、私たちは視覚偏重になりがちです。
目で見て理解したということが増え、感じること、五感を駆使することが減っています。

一方で、「視覚障がい者は無数の雨音を知っている」と志村さんは教えてくれました。
傘の上に吹き付けてくる雨音、地面から吹き上がってくる雨音、瓦屋根に叩きつける雨音。
暗闇という漢字は、日へんに音、門がまえに音で構成されています。
つまり、暗闇の中には音、多くの情報が存在しているとも解釈できます。
私たちはその感覚を忘れ、失ってはいないでしょうか。
コミュニケーションを豊かにするために、この感覚、感性は生かせるはずです。

世の中は、一足飛びに変えることができません。
でも諦めず、「半径3メートルの対話から」です。

丁寧な対話で、自分の経験と身近な相手の経験を交換しましょう。
きっと新しい価値が生まれるはずです。
その対話が積み重ねられるうちに、オセロのように社会は変わります。

最初の半径3メートルの対話の波状が社会を豊かにし、世界を平和にする。
そう信じています。

8人の参加者からスタートした日本の『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』。
それがいまや18万人が体験するまでになりました。
小さな単位の連鎖が大きな拡がりに。
半径3メートルの対話の見事な波状がここにあります。

小川 和也
TOPPAN