J-me Chinema Circle

知らない楽しみを知るために

2017年6月30日

ソクラテスは「自分が何も知らないことを知っていた」が、実は私もそこはよく心得ている。何も私がソクラテスくらい偉い、という妄想を抱いているわけではないが、歳をとるに従って、ますます知らないと感じることが増えてきてしまい、もはや両手では受け止められず、何を知らなかったかを忘れてしまうほどである。

死ぬことは怖くなくなったが、こういう落とし穴があるとは思わなんだ。
つきましては、毎日、あれが観たい、これが読みたい、こんな曲が聴きたい、あそこに行きたい、カメラを構えたい、人と話したい、で、その上、全く知らないことを知りたいと思うようになってしまったから、還暦まぢかで七転八倒の苦しみのような、楽しみのような複雑な感情の波に揺られてしまい、ますます何から手をつけていいのかわからない。

そうはいっても働かなきゃならないのでできるだけ、知らないことを知って、重荷を楽しみに変えられるように慎重にやることを選びつつ、ここにきて毎日忙しい。

映画のお仕事をいただいた時は、そりゃもうお断りする理由がないんで、ホイホイ引き受け、幸せな2年3ヶ月を過ごさせてもらった。
何が楽しいって、これまでは年間200本が限度だったのが、仕事のお墨付きがあるので、自分にやましいところなく試写に足を運べるのよ。
一昨年が320本、昨年が450本くらいかな。
これまでは「これは行かんだろう」と苦手意識を持っていたタイプの作品にも足を運び、新しい発見があって、知らないことを知る楽しみを実感し、皆さんの書き込みで、あらそんな作品が、と驚くことも多くございました。
ああ、知らないということは不幸ではあるが、それを知った時の喜びはひとしおだわ、とこっそり喜んでいたのであるよ。

映画は毎年日本で千数百本公開されていて、それを全部見るとなると本格的に他のことを全て辞めて試写室巡りの毎日になるし、そんなに案内は来なかったので、なんとかこなせてはいたんだけど、観ることができなかった作品で凄いのもあったろうなと少しでも思うと、布団をかじりたくなる。

私が部長であったシネマサークルは幕を閉じることになり、このコラムにももう本日30日23時59分をもって、みなさん書き込むことができなくなるので、好き放題書いちゃうんだけど、失敗したなあ、という作品を観ても、それだけで「あの手のものはちょっと」と決めつけないでいただけると嬉しいなあ。
あっらー、びっくりしたわー、というのが出てきたりしますよ。

よく、こんな作品がお好きなら、こういうのもいいですよ、てな案内がきたり、紹介されたりするでしょ。それはそれでありがたいんだけど、そうじゃなくてさ、こういうのを観ていらっしゃらないようだけど、これはいかがかしら、無理にとは言いませんけど、というのもいいんじゃないかしら。
実はこのシネマサークルではそれをかなり意識して、番組で、コラムで紹介していたのでございます。
スタッフの方からは「映画評じゃなくて、大倉さんのブログになってますよね。もう少し映画に触れてもらったほうが」とまことにごもっともなご意見を頂戴したこともあるんだけど、それはね、確信犯的にやっていたので、諦めてもらったの。
できるだけ映画の内容に触れないようにしつつ、それでも「観に行ってみようかな」と思ってもらえればいいと割り切っておりました。

さらに言えば、「BOOK BAR」も書評番組をやっているつもりは最初からなくて、「面白いよ」が届けばいいと思っております。
お聴きになったことがない方は、一度是非お立ち寄りください。

よーし、もっと言うぞ。
音楽もそうです。
スポティファイを私も利用していて、こりゃとんでもないものが現れちゃったよ、音楽局であるJ-WAVEはどうすりゃいいのかね、と頭抱えるじゃない。
ところがね、あのシステムの弱点は知らないジャンル、興味があるかどうかもわからないジャンルの曲は知らないわけだからピックアップできないの。
評判にならなかった曲やあまりにもマイナーな地域のとびきりの曲は聴けないんですのよ。
ラジオ、特にJ-WAVEが本来素晴らしいのは、リスナーの皆さんがこれまで触れてこなかった曲をそろりだったり、どかんと選曲に入れ込んでみたりすることです。
こことても重要。
私が長い旅に出ると、帰りはおそらく地元でしか買えないCDを大量に持ち帰るのはそういうわけでございます。
まだ、行っていない所だけど、音楽だけでグイグイ惹かれているのはクルド民族の音楽だったり、ルーマニアの民族ダンス音楽だったり、モンゴルのホーメイだったり、雲南省の少数民族の求愛の歌だったりします。

安宿とローカルバスの長期の旅に出るのは、私の最大のライフ・エンジョイメントで、そこで写真も整理にどえらく時間がかかるくらいシャッターを切ってまいります。
何にも予定を決めないゆる~い旅なんで、なんでもない風景にジーンと感じたりすることもよくありますよ。あれ見なきゃ、ここには行かなゃ、と決めていると本当に面白いものを見逃したりすることもありますわね。

そんな訳の分からん人生を送ってきたんで、どこかで身体に入れてしまったものを出さなきゃいかん、ということが起こります。入れたら出す。基本です。
ラジオのお仕事というのはそんな私にはこれ以上ないというほどありがたいもので、「大倉さん、そろそろ」と引導渡されないよう、これからも精進してまいります。
これからも、そこはかとない応援をいただければうれしゅうございます。

さて、当面映画を紹介することもないと思うので、これから公開されるもので、これは、と思ったものを挙げておきますから、気にしていてください。まだ観ていない直近のものも多いのでスーパーランダムですから、ご承知ください。
公開日も変更になることがあります。

「ウィッチ」 7月22日公開
「海辺の生と死」 7月29日公開
「ローサは密告された」 7月29日公開
「静かなる情熱 エミリ・ディキンスン」 7月29日公開
「ブランカとギター弾き」7月公開
「夜明けの祈り」 8月5日公開
「ハイドリヒを撃て!『ナチの野獣』暗殺作戦」 8月12日公開
「ギフト 僕がきみに残せるもの」 8月19日公開
「きっと、いい日が待っている」 8月公開
「三里塚のイカロス」 9月公開

では、また「BOOK BAR」で。
でなきゃ、そのうちどこかで。
皆様、お元気で。

大倉眞一郎


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