J-me Chinema Circle

ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ(Weiner)

2017年2月17日

ニューヨークはやはり面白い。
個人的には仕事でそれなりの緊張感をキープしているにもかかわらず、行くたびにガッチャンオジサン(80年代後期、90年代前期に出没したスーッと寄ってきて、紙袋に入れたウィスキーのボトルを落とし、肩を落として割れたボトルのかけらを覗き込み「あ~~~」と情けない声を上げ、金をせびっていくという、非暴力的騙しをやる輩。必ずしもオジサンではないが、やり口から私たちの間ではそう呼ばれていた。その前はケチャップオジサン全盛期だった)に何度も狙われたせいか、どうしても訪れたいところではなかった。
その後、ジュリアーニが市長になってから「割れた窓理論」でもって、ニューヨークの治安を大幅に改善した。街中が警官だらけになり、ホームレスは路上から排除され、保護施設に強制収容送られて、労働を強制される、ということもやっていたので、うんざりするとこもあるんだけど、あの80年代の荒れ方では、街を歩くこともためらわれることもあったからなあ。

今回紹介する映画もドキュメンタリー。
何が起きるかわからないのを追うのがドキュメンタリーなんだけど、これは撮っている方も撮られている方もまさかこんなことになるとはかけらも思っていなかったはずで、途中で一切の取材お断りでもおかしくないが、それをせず最後まで撮影を許していたというのがすごいんだかバカなんだか。

「ホームレス」でマーク・レイは世界中で「ダンディで、イカしている」という思わぬご褒美をもらい、日本でも一部では大変な人気者になっているが、この作品で追いかけられているアンソニー・ウィーナーはまずそんなことにならない。私個人的には、「いや、俺はお前みたいなことやんないけど、なんとなくわかるよ、一緒に飲もうぜ」と逆に親近感を覚えたけど、女性からは嫌われるんだろうな。
でも、こんなに面白いドキュメンタリーは滅多にないから、是非どうぞ。

ちなみにドナルド・トランプはこの映画を本当に観たのかどうかわからないけど、いただいた資料にはレビューとして「ヘンタイに用はない!」と言ったそうだ。ヘンタイかい。あんたが言って大丈夫かい。
ヒラリー・クリントンはこのウィーナーのせいで大統領選に負けたとも言われたが、そこまでどうかねえ。

アンソニー・ウィーナーは1998年に民主党から立候補し、下院議員となり、リベラルの旗手としてメディアの露出も多く、その爽やかでキリッとしたいでたちと舌鋒鋭く討論相手をやり込める頭の良さで、順調に行けば大統領も夢じゃないというところまで駒を進めていた。
おまけに奥さんはヒラリー・クリントンの側近で、弱点が見当たらない。

と、こ、ろ、が、だ、やらかしてしまった。
なんでそんなことをやるかねえ。
ツイッターに自分のブリーフ一枚の下半身写真を上げてしまったのよ。間違って。
日本の裁判官でも同じようなことした人がいるけど、割とみんな鷹揚に対応してましたね。あの人は確信を持って投稿してたんだけど。
そのブリーフ姿の写真自体は、何考えてんだか、くらいにしか私には思えなかったんだけど、アメリカという国は宗教国家であり、本音と建前が日本以上かもと疑うくらい、おかしなひねくれ方をしているところがあります。
写真はすぐに削除され本人は一度否定したけど、あっという間に拡散されてしまい、その上、SNSで知り合った女性に半裸写真を送りつけるという「セクスティング」と呼ばれる行為まで暴露され、アメリカ人全員が眉をしかめる事態に陥り、本人が記者会見を開き謝罪。2011年に議員辞職。
メディアの寵児がメディアで晒し者にされます。これはどこでもあることね。

しかし、ウィーナーは野心の塊であるから、あきらめない。大した根性である。
2013年、彼はニューヨーク市長に立候補する。
このあたりからドキュメンタリーのカメラが密着で回り始める。
奥さんの全面的なバックアップもあり、彼の「もう一度チャンスを」の訴えに意外にもニューヨーカーは心を打たれ、なんと世論調査ではトップに躍り出る。

ここからがこのドキュメンタリーの肝になる。
内容は書かないよ。
おめーよー、どういうつもりだった?
というとこまでカメラは回っている。
そういう意味ではウィーナーはかつてないドキュメンタリーの見せ方を心得ているのかと勘違いするほどである。

ウィーナーの実録物語ではあるんだけど、これは選挙という、ある種摩訶不思議なお祭りについての物語でもある。
どの国でも選挙は興味がない人間にとってはどうでもいいことなんだけど、熱烈な支持者にとっては胸がときめく、人生の一大事なのである。
メディアはみんなが知りたいことを報道する。それは必ずしも選挙民が知るべきである政策の話ではないかもしれない。でも、それはそれで構わないのである。視聴率が取れるんだから。

日本人である私にも理解できない摩訶不思議な日本のどぶ板選挙については想田監督が「選挙」「選挙2」で描ききっているが、アメリカの選挙が素晴らしいというものでもない。
私はたまたま長期に海外にいる時以外は必ず投票するが、現在選ばれた政治家が投票権を持つ人の意志が結実したものとは思わない。
どうすりゃいいんでしょうねえ、と思ったりするこの頃である。
「TOMORROW パーマネントライフを探して」に、なるほど、こういう手もあるね、という問いかけがありました。考えましょ。

この作品、「ホームレス」に続く私の2017年ニューヨーク・ドキュメンタリー3部作の2作目となります。3作目が何になるのかまだわからない。

明日、2月18日公開。


ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ

2月18日(土)よりシアター・イメージフォーラム他にて全国順次ロードショー

© 2016 AWD FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

監督:ジョシュ・クリーグマン、エリース・スタインバーク 出演:アンソニー・ウィーナー、フーマ・アベディン
登場する有名人:ヒラリー・クリントン、ドナルド・トランプ、ビル・クリントン、バラク・オバマ

<DATA>
2016年/アメリカ/英語/96分/カラー/ビスタ/DCP/原題:Weiner

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