2014/10/3 電動車いす「WHILL」の開発秘話

今週は、デザイン性の高い電動車いす「WHILL」の開発秘話。
若き技術者を中心に立ち上げられた、あるベンチャー企業の Hidden Story。

その会社のウェブサイトには、こう書いてあります。
「WHILLは、あなたのためにデザインされた パーソナル・モビリティです」。
WHILL

高い性能と美しいデザインによって、ひとつの乗り物として、電動車いすの新しい価値観を提案しているのが、東京、町田市にあるWHILL株式会社。出迎えてくれた、吉岡伸浩さんが、その開発のきっかけを教えてくれました。

最初に、ある車いすユーザーの方の声から始まったんですけども、
「たった100メートル先のコンビニに行くのもあきらめる」
と。

これはどういうことかと言いますと、車いすに乗ってらっしゃる方は、自分が車いすに乗っていることで、自分にハンディキャップがある、障がいがある、疾患がある、高齢である、ということを回りから思われることに心理的なバリアを感じることがあります。2つ目に、車いすで外に行くと危ないんですね。僅かな窪みや小さな段差もなかなか走ることができなくて、物理的なバリアもあって、たった100メートル先のコンビに行くのもあきらめて家にいると。

こういうのって、変えられないかと。
何か新しい車いすを提供することで、そういう人たちが外に行けるようにならないのか?というのが開発のきっかけで。

今から3年前。
現在、WHILL株式会社の代表取締役を務める杉江理さんを中心とするグループは、WHILLの原形となるプロトタイプを、東京モーターショーに出品しました。
そこで、厳しい声をかけられたのです。

東京モーターショーの会場で、当時、OXエンジニアリングという車いすの会社の社長に「今すぐやめろ」と言われまして。

というのは、本気でやらないのであれば、こんなものを作っても、車いすを使う人たちを失望させるだけだと。

こういうプロトタイプというのは、やろうと思えば作れるんですね。
だけど、他のメーカーさんもそうなですけど、プロトで出しても事業化しないんです。結局、その都度、失望するお客さまがいて、「お前らも中途半端な気持ちでやってるんだったらやめろ」と。

そこで、「そうだな」と真摯に受け止めまして、やはり、その、これをやる事の社会の貢献だとか技術的なチャレンジも含めて「これは本気でやろうぜ」ということでWHILLという会社に集まった次第ですね。

2012年。
さまざまなメーカーの技術者たちが集まって、WHILL株式会社を設立。
デザイン性が高く、機能もすぐれた電動車いすの開発が本格的に始まりました。

WHILL株式会社の吉岡伸浩さんに、その特徴を教えていただきました。

まず1つ目はデザイン。
これは見た目だけではなくて、誰もが乗れる、誰もが操作できるユニバーサルデザインも含めたデザインなんですが、指先ひとつで操作をしていただくことが可能なので、そうしたユニバーサルデザインにも気をつかっています。

2つ目は走破性なんですが、オムニホイールと我々は呼んでいるんですが、ひとつのタイヤが24個の小さなタイヤから構成されているんですね。最大7.5センチの段差を乗り越えることができます。

小さな段差っていっぱいあるんですね。
普通の車いすって登れなくて、わざわざ迂回する必要があるんですが、なので段差を乗り越えられるとか、地面の状況が色々なものでもちゃんと走れるとか、そういうことを組み込んでいったというのがあります。

で、かつ、小回り。
家の中とかレストランとか百貨店とか人が混み合うところでも、小回りききながら操作するためには、こうしたタイヤの構造が必要だったんですけど。

タイヤを手がけたベテラン技術者、大手自動車メーカーから、WHILL株式会社に加わった坂東一夫さんにも お話を伺いました。

「ご自宅の部屋に機械を入れて開発を進めた」という坂東さん。
完成した電動車いすについて、どう思ってらっしゃるのでしょうか?

開発者としては、満足はしていないんです、ずっと。もっと良くしたいだけです。

まわりから見て良くても、やった人間は満足は永久にしないんです。
「もっと、もっと、もっと良くしたい」というのが常にあります。乗り心地良く、長持ちするように、生産性も良く……と、色々あるんですね。チェック項目が。

もっと、もっと、もっと乗り心地良く、長持ちして、生産性も高く。
技術者の純粋な想いが生んだ最初の一歩「WHILL Model A」。
9月に発売した50台は あっという間に完売しました。

「乗りたいな」って思わせるところって、大きな違いだと思っているので。

それは障がいをお持ちの方も、高齢の方も一緒なので、やはり、乗りたいと思っていただける印象というのは大事だと思っています。なので、我々ものとして走行能力とかデザインとかソフトウェアとか作り込んでいるんですけど、これに乗っていただいたお客さまが、今まで行けなかったところへ行けるとか、これに乗っていることで他の人とのコミュニケーションが生まれるとか、その人の人生をちょっとでも豊かにできるお手伝いができたら良いなと日々思っているところなんですけども。

楽しく乗ってもらえることを意識して作られた
電動車いす「WHILL Model A」。

いただいた名刺には、こんなフレーズがありました。
「Design your own road」。

現在、さらなる量産を目指して、作業が続いています。


タイヤの話。興味深かったですね。
24個の小さなタイヤを組み合わせてひとつのタイヤを作っている。
これを前輪に使っているので、最高7.5センチの段差を乗り越えられる!

お値段が95万円と、普通の電動車いすに比べると、かなりお高くなっているんですが、9月発売分は売り切れ、ということで人気となっています。次回は、来年、発売の予定ということ。

WHILL