2013/11/8 フェスティバル・トーキョーのHidden Story


今週は、明日からスタートする 舞台芸術の祭典『フェスティバル・トーキョー』の Hidden Story。
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今回が6度目の開催となるフェスティバル・トーキョー。
まずは、どんな経緯で始まったのか、プログラム・ディレクターの相馬千秋さんに伺いました。

2009年に立ち上げたんですけど、実際に準備を始めたのは2007年ですね。

もともと、このフェスティバルを運営しているのは、アートネットワークジャパンというNPOなんですけど、このNPOは2000年からずっと東京国際芸術祭という演劇祭を運営してきたんですね。 その演劇祭を母体にして、2009年から東京都と豊島区も主催に入りまして、「都をあげてのフェスティバルにしよう」ということになりまして。
で、私たち企画運営の立場としては、やはり、東京というこれだけ大きな街に世界のハブとなるような演劇祭を作りたいと。

日本にも劇場はたくさんありますけれど、日本を代表する、あるいは東京を象徴するようなフェスティバルがなかったので、「これが今の演劇の新しい流れだよ」と示せるような、そういうフェスティバルを志しました。

世界のハブとなるような演劇祭をつくりたい。
そんな想いを胸に、2009年、第一回のフェスティバル・トーキョー F/Tが開催されました。

日本における演劇もいろんな流れがあって、ただ、その流れを集約するとか、繰りかえす形ではなくて「新しい流れを作りたい」というのがあったんですね。

それは、今の世界で起こっている演劇の潮流とも同期するものにしたかったんですけど、社会と演劇の関係の取り方が、私たちの感覚にフィットしたものを志したいと。

例えば、劇場を使わずに街に出て行く形の演劇ですとか、演劇が今の社会にできることとか、問いかけたいこと、独自の形で可視化されるような演劇をつくりたいと思ったんです。

やっぱりゼロから立ち上げていたので、最初はそういったものを浸透させるのに苦労したんですが、6年間やってくる中で「そういった試みは定着したんじゃないか」という実感は持っています。

「演劇が今の社会にできること」を常に考えるフェスティバル・トーキョー。
2011年、震災が起きた年には、こんなテーマを掲げました。

テーマは「震災に応答するものにしよう」という事になりまして、「私たちは何を語ることができるのか」というテーマにしました。

あまりに目の前の現実が自分の想像力を越えてしまったと。 もう言葉もない。
そこから、でも、もう一度、その言葉を発していくために、芸術が力を発揮することができるんだろう。
ということが問われるだろうと。

震災の直後だったので、まだ言葉を失って途方にくれているような状態だったんですけど、その状態そのものをテーマにして、現実に応答していきたいと考えました。

舞台芸術の祭典『フェスティバル・トーキョー』。
今年のテーマは、「物語を旅する」。

この言葉だけ聞くと、旅行代理店のキャッチコピーかと受け取られてしまうかもしれないんですけど、この物語というのも、私たちの今。 つまり、震災後の日本という文脈を考えると、非常に別の意味を帯びてくると思うんですね。

私たちの物語というのは、あの震災で一旦、かなり暴力的に分断されて、そこから言葉をもう一度掴み直して、次は私たち自身の物語を作り直していく段階に入ったと思うんです。 そのときに、単純に共感しやすいとかカタルシスを得て、すっきりする物語ではなくて、もっと自分たちの状況を批評的に捉えて、それを未来に接続していくような、そういうフィクションが必要じゃないかと考えて。

私たちに必要なのは、どんな物語なのか?
それを問いかけるような演劇が、世界から東京に集まります。

ひとつはバック・トゥ・バック・シアタ―というオーストラリアの劇団の作品なんですが……これは奇想天外なファンタジーがベースにありまして、インドのガネーシャという象の頭をした神話の神様がいますが、その神様が、まんじの紋様、サンスクリットで幸せを意味する紋様らしいんですが、あれを奪われた。 第三帝国、ヒトラーに奪われたと。 それを時空を超えて取り返しにいくという物語なんですね。

で、また、それを上演しているのが、知的障害を持つ劇団員さんもいらっしゃいまして、彼らの独特なパフォーマンスがこの作品にとてもうまく作用しているということで、この作品は世界のいろんな演劇祭でも高く評価されていますので、これなんかは今年のテーマを考える上で、ぜひ見に来ていただければと思います。

ドイツのリミニ・プロトコルが作る作品で、東京に暮らす一般市民100人がステージに上がる「100%トーキョー」。
日本の高山明さんが構成、演出を手がける「東京ヘテロトピア」は観客が、携帯ラジオとガイドブックを持って 指定された場所をめぐり、そこで耳から体験する、という作品。
さまざまな物語が東京に溢れます。

「これは演劇か?」と思われがちなものこそ、「今の東京とか日本を掴む何か」を言い当てられるんじゃないかな?というのがあって、東京っていう街も、オリンピックとか、いろんなポジティブな流れのなかで存在を変えていくと思うんですけど、そういった大文字の流れというか、大きな物語に対して、もっと個人とか個別の小さな物語を演劇ではすくい上げていきたいというのはありますね。

そういう物語が、さまざまな形で私たちの周りにはあるんですけど、それを通じて、今、私たちが生きている時代の逆らいがたい流れに対して、自分が自分でありつづける態度を示していけるんじゃないかなと。
そういうアプローチは演劇、芸術でやっていくべきことなんじゃないかなと思っています。

時代の大きな流れのなか、自分が自分であり続ける態度を示すこと。
それこそが演劇の、芸術の やるべきことである。

今年のフェスティバル・トーキョーは、明日開幕します。


先ほど少し触れました、ドイツのリミニ・プロトコルによる「100%トーキョー」という作品は、東京に暮らす一般市民100人がステージに上がるんですが、実は、まだ、出演者を募集中です!!

出演する人は、「年齢、性別、住んでいる場所」を東京の人口統計から導かれた人です。 今、求められているのは、「すべて男性」で、10代がおひとり、35歳から54歳がおふたり、65歳以上が4人。 住んでいる地域は、江戸川区、北区、練馬区、大田区のいずれかです。 演出の都合上、プロの俳優、シンガー、舞台関係者などは参加できません。

世界的な舞台に出演するチャンス。 これは、なかなかないですよ。
興味をお持ちになった方、フェスティバル・トーキョーのウェブサイトで「100%トーキョー」をチェックしてください。