2013/4/26 サッカー・ジャーナリスト、東本貢司さんのHidden Story

マンU 世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ

今週は、サッカーの名門、マンチェスター・ユナイテッドにまつわる本『マンU 世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』を発表したサッカー・ジャーナリスト、東本貢司さんのHidden Story。

イングランド、プレミア・リーグの試合。テレビの中継では、この方の名前をしばしば耳にします。
東本貢司さん。
サッカーの解説者には珍しく、プロの選手としての経験はありません。
しかし、イングランドについての豊富な知識に基づくコメントは視聴者に人気となっているのです。

東本さんが最初にイングランドを訪れたのは、今から40年以上前のこと。

17の時に父の仕事の関係でイングランドに住むことになって、それが1970年のワールドカップの直前だったわけです、66年のチャンピオンはイングランドだったわけですよ。
イングランドはもう、ワールドカップ2連覇だ!という熱気があふれていたころでしたから、そういう洗礼を浴びたんですよね、知らず知らず。

90年代前半、東本さんは、翻訳の仕事をしていた関係で、海外サッカーの専門誌『ワールドサッカーグラフィック』の編集に加わります。その雑誌で、サッカーの母国を特集することになり、およそ25年ぶりにイングランドへ。

ロンドン中心と北のほうと回りましたが、マンチェスターで、ベテラン・ジャーナリストに事前にある筋から紹介を受けてまして、その人に案内をしてもらって、そのときにファーガソン監督に会ったんですよね。だからと言って、ユナイテッドの内実をいろいろ知ったとかそういうことはないですよ。このクラブは、そういった面には厳しいんですよ。サービス精神には欠けていると思います。「クラブのなかで消化できるものは、他には与える必要ない」という考え方があると思いますね。

マンチェスター・ユナイテッドのホームスタジアム、オールド・トラフォードについて、東本さんは、興味深い話をしてくれました。
今や、世界のビッグクラブとして君臨するマンチェスター・ユナイテッドですが、かつては、イングランドのフットボール協会 FAと対立した歴史がありました。

歴史を振り返ると、18世紀の終わり頃は、第一次産業革命の中心地だったんですよね。
だったら繁栄していたのかというと、経済としては繁栄してても、そこで働いている人はとんでもなく過酷な暮らしをやってきたわけですよね。で、案の定、英国という国のなかで、労働組合が最初にできたのはマンチェスターだったんですよ。
で、今は全国紙になっている『ガーディアン』という新聞は、もともとは『マンチェスター・ガーディアン』という名前の、マンチェスターのローカル紙だったんですよ。

すべて、反体制、リベラル、っていう肩書きがつく組織やムーブメント、運動はイングランドにおいてはほとんどマンチェスターから生まれている。 なるほどと。

東本さんいわく、
「そんなマンチェスターには、引き寄せられる種類の選手がいる」。

不思議なことに、歴代、ユナイテッドのスタープレーヤーは、どうも一筋縄ではいかない人ばかりなんですよね。

ファンペルシーだって、年をとって丸くなって見えるけど、アーセナルにいたころは結構ね、鎖につないどかないといけないような感じの男だったんだけど、それがユナイテッドに来たかったというのは、なるほどと思いますね。

香川真司選手をアレックス・ファーガソン監督がどう見ているかについては、こんなコメント。

自分の目で見て、ドイツに足を運んで、ほぼ直感的に「こいつは使える」と思ったのがいいんですよ。

そうやって入ったのは何人かいるんですよ。香川とほぼ同じ、近い状況で、ヨーロッパでは無名で……「イングランドでは」と言っておこう。 無名で入って成功したのは、スールシャール。だから、スールシャール級の活躍は多分ね、約束されていると思う。少なくともファーガソン監督の腹のなかでは。

Jリーグ J1では、ほぼプレーせずヨーロッパへ。
ワールドカップに出場していない選手なのに、ドイツでリーグ戦優勝。
明らかに、異端の才能、香川真司。
「彼もまたマンチェスターに引き寄せられたひとりである」
プロ選手経験のない異端のジャーナリストは、そう分析しました。