2013/4/5 歌舞伎座のライトアップにまつわるHidden Story

今週は、新開場した歌舞伎座。
そのライトアップにまつわるHidden Story。

お話を伺ったのは、照明デザイナーの石井幹子さんと石井リーサ明理さん。
東京にベースを置く、母幹子さん。
そして、フランス、パリと東京で活躍する娘、明理さん。
まずは、ふたりが共同で歌舞伎座のライトアップを担当することになったきっかけを教えていただきました。

石井幹子さん(以下、幹):これはですね、明理が小さい頃から歌舞伎がとても好きだったんですね。ですので、ベースはパリにあるんですが、東京も戻った時に「この歌舞伎座をやりたい、やりたい」と申しまして「それじゃあ、やらせていただくように働きかけましょうか」ということから始まったんですね。

それで、東京でやるんだったら、私どもの事務所とコラボレーションでやらないと建築の現場というのは、待ったなしというか、すぐ来てくださいとか、すぐ決めてくださいとか、すぐ見てくださいとか、そういう要請が結構あるんで、パリから来るんであれば、なかなか時間がかかる。これはコラボレーションしましょう、ジョイントしてやりましょうということで始まりました。

どんな照明を当てるのか?
建築を担当した隈研吾さん、そして、松竹株式会社との間で、意見交換が行われました。

石井リーサ明理さん(以下、明):一番最初、実はもっといろんな案を考えて、最終的にはみなさんご覧になるような真っ白いライトアップ……そのなかにもいろんなニュアンスはあるんですが、白が基調になってますが、最初はせっかくだから華やかに「わっ」と、カラーで照明しようという案もあったんですが、そのときは隈さんが「日本の建築の白壁というのはすごく大事なので、中に入れば華やかなシーンがたくさんあるけれど、外は白のままが良いかな」というお話はいただきました。

幹:結果的に、松竹さんも「表には色は使わないようにしたい」というご希望がありましたね。

明:なので、白一本に絞って、「いかに綺麗な白を探すか」ということで、プロジェクトがその方向に集中していきました。

では、歌舞伎座に似合う「白」とは、どんな「白」なのか?
新しい歌舞伎座のライトアップ。
もうひとつ、秘密を明かしていただきました。

幹:後ろに歌舞伎座タワーという大きな高層ビルがありますでしょ。
あの上部、屋上に近い部分、地上から130メートルのところから、屋根瓦に向けて「月明かり照明」というのをやっているんですけど、これもですね、そんな距離をLEDを使って、これは本当に「光を束ねて、細い光にして、屋根瓦を照らす」という、そういう演出を取ったんですが、日本の建築はとても屋根に特徴がある。でも、ほとんどの建物って屋根は暗くなっちゃう。でも、今回の歌舞伎座は、屋根瓦も月明かりのような明かりで照らされている。これも大きなポイントだと思っています。

明:上から「バーッ」と当てると、まわりも眩しくなってしまいがちなんですが、特殊な配光制御といいますか、光が必要なところにだけ当たるような、それ以外にはもれないような設計にすることで、屋根だけに光を当てるということに成功しています。

石井リーサ明理さんに、最後にもうひとつ質問。
東京の照明について、提言はありますか?

明:フランスの夜景がきれい、パリの夜景がきれいな理由のひとつは「ベースの部分が暗い」というのがあると思うんですね。
で、まわりが暗ければ、ちょっとライトアップすると、すごく映えるわけですよね。

それが、東京みたいに全部が明るかったりすると、その上にさらに明るくするとなると、エネルギーもかかりますし、あまり効果も出にくいので、全体の消費が下がっていけば、ちょっとしたライトアップがもっと映えてみえて、都市全体の夜景の構築ができていく。ヨーロッパはそういう意味では、都市照明を、マスタープランを作って、道路照明はどうしましょう、オペラ座はどうしましょう、ネオンサインはどうしましょう、というのが決まってるんですね。そういうビジョンがもう少しあると系統だった夜景が作られて、結果的に省エネにもつながるんじゃないかと思います。(明理さん)

幹:だから、もっとそういう意味では、調和のとれた夜景を作るために「やらなきゃいけない事があるな」という気がしますね。

東京の夜に、日本の夜に、もっと調和のとれた光を。
明かりのNew Standardを築くべく、照明のプロの仕事は続きます。