2013/3/29 桜の名所「夜ノ森」にまつわるHidden Story

今週は、ある桜の物語。
福島県双葉郡富岡町の桜の名所「夜ノ森」。
原発事故によって立ち入りが難しくなった場所の桜にまつわるHidden Story。

取材にお応えくださったのは、福島県いわき市で「MUSUBU」と題して、地域活性プロジェクトを展開している宮本英実さん。以前は、レコード会社など、東京で働いていた宮本さんですが、震災後すぐ、いわき市に戻りました。

物資配布とか、小学校が避難所になっていたので、そういうところで炊き出しをしていたんですけど、そんな合間の空き時間に、みんな、よく「ひなたぼっこ」をしていたんですけど。「これからどうしようね」みたいな、まだ原発事故の全容も分かっていなくて、みんなあっけらかんと、どうしようね、みたいな話をしていて。

その時に「津波をバシャバシャかきわけて逃げた」みたいな子もいて、本当に明日死ぬかもしれないというようなことが起こるというのをみんな思った時だったと思うんですけど、「今、好きなことをやらないと意味がないじゃん」という話になって。「音楽イベントやりたいね」とか、すごくポジティブな会話が「ひなたぼっこ」で繰り広げられてて。

宮本さんは、仲間とともに、「MUSUBU」というプロジェクトを立ち上げました。
最初は、災害ボランティアセンターの運営に関わります。
そして……

自分たちの地元のいわき市の小名浜地区の沿岸が、もうずっと動きが止まっているような状況で、施設も、もちろん止まってましたし、電気も止まっている、信号もついていない、という状況が続いていたんですけど、そこにイベントホールがあって、なんか、そこを使ってやれないかな?と思っていたときに、私がもともとレコード会社で働いていたときにお世話になっていた、くるりさんっていうロックバンドの方からも「何か自分たちができることないですかね?」という相談も受けていて、「だったらいわきの小名浜でライヴをやってもらえないですか?」と話をしたところ、「ぜひやりたいです」というお話をいただいて、くるりさんに小名浜に来ていただいて、ライヴをやってもらったのが、自分たちの想いが初めて反映されたプロジェクトで。

震災から3カ月後、津波にのまれてしまったイベントホールでくるりがライヴを行いました。

福島県いわき市で、地域活性プロジェクト「MUSUBU」を展開する宮本英実さん。
彼女は、去年の春、あることを決意します。

福島県の双葉郡の富岡町にある桜の名所の名前が「夜ノ森」っていう場所、夜ノ森っていう地名なんですけど。

福島県の人なら絶対知っているような桜の名所で、いわきからもすごく近いので、私も馴染みがあって、富岡町っていうところが、すぐ近くに第一原発があって、第一と第二が。そこがもともと私の母親の実家が富岡町にあって、みんな避難して離れているんですけど、やっぱり春の時期になると、夜ノ森の桜が見たいねと言いだして、自分の母親とおばも、夜ノ森の桜が見たいねってポロっと口に出していて、何かその想いをかなえてあげられないかなと思って、じゃあ、撮りにいこうかなと、私の個人的な想いで撮りに行こうと決めたんですけど。

原発事故によって、立ち入りが難しい状態となった桜の名所「夜ノ森」。
2012年の春、宮本さんは、許可を得て、フォトグラファーの白井亮さんとともに撮影に向かいました。

国道6号線という道路があるんですけど、当時はJビレッジが……ご存じですか? そこに検問があって、そこで申請書を見せると入れるんですけど。

車で入って、もちろん防護服を来て、ガイガーカウンターも持って行ったんですけど、ほんとに過ぎた瞬間にガイガーカウンターの数値がドンドン上がっていって、「ああ、本当にこんなに上がるんだな」というくらい、ドンドン、ドンドン上がっていって、でも見た目全然分からないので、それも怖くて、私は言葉少なだったと思います、ずっと。

今も夜ノ森駅の周辺、夜ノ森が数値が高いままで、今も高いんですけど、5とか6マイクロシーベルトくらいになる。通常は、0.00いくつ位なんですけど、怖いというか、これは何なんだろうとか。そもそもなんでこんなことになったんだろうとか。現実なんですけど、見える景色が現実離れしてて。

いつもの春ならば、桜だけを撮影するのが難しいほど人が集まる「夜ノ森」。
でも、そのとき、桜を愛でる人は誰もいませんでした。
「どうしてこんなことになったのか?」その問いを胸に、「MUSUBU」の活動は続きます。

2013年。
今年も、東京から少し遅れて、福島に桜の季節が訪れます。

「夜ノ森」の桜を撮影した写真の展覧会が東京で開催されます。

会場は、豪徳寺にあるパン屋カフェ「uneclef」。
2013年4月1日(月)から4月7日(日)までの開催。
※火曜日はお休みです。
» uneclef