2013/1/11 特殊メイクアップ・アーティスト 辻一弘さんのHidden Story

今週は、ハリウッドで活躍する映画の特殊メイクアップ・アーティスト。
辻一弘さんのHidden Story。

2013年1月12日、日本で公開になる映画『ルーパー』で特殊メイクを担当した辻一弘さん。
これまで、『メン・イン・ブラック』『PLANET OF THE APES 猿の惑星』『グリンチ』など、数々の作品を手がけてこられました。
そんな辻さん、最初に 特殊メイクに興味をもったのは、10代のころ。

最初、『スターウォーズ』を見て、子どものときに。特殊効果に興味を持ったんですね。

特殊効果でも、カメラとかミニチュアとかマットペインティングとかいろいろありますよね。特殊効果のなかに、特殊メイクもあったんですけど、特殊メイクはやりたくなかったんです。というのは、ホラー映画が嫌いだったんで、避けてたんですね。

で、そのうちに、特殊メイクでもリックベイカーさんとかディックスミスさんとかもっと深いところをやってる人を見つけて「あ、こういうのもあるんだ」と。
ちょうどそのときに、特殊効果を調べるために、京都の丸善という本屋さんの洋書のコーナーに毎週行って読み漁って、そのなかに、『ファンゴリラ』っていう向こうのホラー関係の雑誌があるんですけど、そこにディック・スミスさんがハル・ホルブルックという役者さんにリンカーンのメイクをするという工程が紹介されていて、それを見た時に、「これしかないな」と思って、特殊メイクを始めたんです。

当時、辻さんは高校3年生。
まずは、雑誌で勉強をして、自分の顔に特殊メイクを施してみることから始めました。
そして、ひとつのアクションを起こします。

ディック・スミスさんの私書箱を雑誌のなかで見つけて、そのディックさんに手紙を送って、「特殊メイクをしたいけれども、どうやって勉強すればいいのか」とか、「どうやってプロになればいいか」という相談を送ったんですね。

そしたら返事がすぐに来て、アメリカにいい特殊メイクの学校が今現在ないのと、アメリカで仕事をするのはビザのことがあるので難しいだろうと。とりあえず、今いちばんいいのは、「自分でもっと練習して、もっと作品を作って、写真を送ってきたら評価をしてあげるから」と返事があって……で、それを始めてずっと続けていたんです。

辻一弘さんが手紙を書いた相手は、映画『ゴッドファーザー』、『タクシードライバー』、『エクソシスト』『アマデウス』などを手がけたメイクアップ・アーティスト、ディック・スミスさんでした。
まもなく、ディックさんが関わった黒沢清監督の映画『スウィートホーム』に辻さんも参加。さらに、黒澤明監督『八月の狂詩曲(ラプソディー)』に出演したリチャード・ギアとも 仕事をしました。

そして、メイクアップ・アーティスト、辻一弘さんがアメリカで仕事を始めるきっかけは、映画『メン・イン・ブラック』でした。
チャンスは、かつて黒澤清監督の映画で知り合った、エディ・ヤンさんによってもたらされました。

リック・ベイカーさんが最初の『メン・イン・ブラック』を始めるところだったんですよ。

エディが参加し始めて、リックさんが、最初から最後までメイクをできる人を捜しているから言ってみると。リック・ベイカーさん自身は、ディック・スミスさんとかエディ・ヤンとか有名なアーティストから聞いてたんで、でリックさんが「じゃあ、雇ってみようか」と。1週間くらいでリックさんのアシスタントから電話があって、ビザも用意するから来いと。

1996年、渡米。
最初の仕事が、いきなり、『メン・イン・ブラック』だったのです。

大変でしたね。
特に、アメリカのトップの人が全部集まっていた工房なので、すごく緊張したわけです。

で、任されたのがエドガーっていうキャラクターがいるんですけど、そのメイクの仕事で、リックさんがPhotoshopでデザインして、そこからメイクを作り上げていくという仕事で、最初は不安があって自分で出来るのかと。で、結局、行き着いたのが、「理由があって雇われたんだから、自分のベストでやるしかない」と。「とにかく一生懸命やっていれば何とかなる」と思って、もうすごく一生懸命働きました。

1週間7日間3カ月くらい休みなしで仕事をして、作っていったんですけど、その結果、すごいキャラクターが出来て、認められて、それから13年ですか、仕事をしました。

辻さんの最新作は、明日公開になる『ルーパ―』。
ジョセフ・ゴードン= レヴィットとブルース・ウィリスが同じ人物を演じる、という作品です。

ジョセフとGIジョーという映画の仕事で一緒になって、それでいい友達になって、それでルーパーが始まるので一緒にやってくれないかと話が来たんです。

最初、メールが届いて、こういう仕事があると、でレストランに行ったんですね、ミーティングしに。で、話を聞いたら、ブルース・ウィリスが出て、ジョセフと同じ人物で30年間離れているということで、そのメイクをしてくれと。
そのブルース・ウィリスは最終決定かと聞いたんですよ。それは無理だと思ったんです。

かなり顔が違うんで。で、いろんな人の話を聞くと、ブルース・ウィリスは椅子に長いこと座ってメイクをされるのを嫌がると。するとジョセフにメイクをするしかない。

で、結局最終的に落ち着いたのが、鼻のピースと上唇と下唇と、コンタクトレンズで色をかえて目の、それとジョーの耳がちょっと出てるんで、それをプラスチックでおさえて、あと眉毛のピースですね、ヘアピース。それでデザインが落ち着いたんですね。

苦難を乗り越えてできた作品は、辻さんいわく「俳優、ストーリー、監督をはじめとするスタッフ、そしてメイク。すべてがまとまった素晴らしい映画」。

辻一弘さんは、キャリアのなかで、この「『ルーパー』こそが最も自信のある作品だ」と言い切りました。