2012/12/28 東京音楽大学指揮科の教授、広上淳一さんの情熱物語

今月は、音楽のHidden Story月間。
ラストの今週は、東京音楽大学指揮科の教授、広上淳一さんの情熱物語。

東京、池袋。雑司ヶ谷の駅からすぐのところにある東京音楽大学。
この大学で、「他の音大にはないスタイルの授業が行われている」と聞きました。
授業のタイトルは『合同レッスン』。

大きな教室に入ると、手前の椅子に学生が10人ほど。
中央は、総勢およそ20人の学生オーケストラ。
その向こう側に、教員たちが座っています。
そして、指揮科、つまりオーケストラの指揮を学ぶ学科の学生が、オーケストラを相手に指揮を振る練習をするのです。

いろんな先生方がいらっしゃいまして、指揮の先生もいらっしゃるんですが、コメンテイターとしていろいろ言ってくださる先生、我々の指揮科のなかでも特別な名前で特別アドバイザーという名前をつけさせていただいて、だいたい月に平均して2〜3度なんですが、『合同レッスン』と言いまして、しかも、小オーケストラですけど、弾きにきてくれている器楽科の学生はボランティアで来てくれているんですよ。ああやってみんなで集まってクリニックをやろうというレッスンなんです。

実は、プロの指揮者を目指す学生が、オーケストラを指揮する機会はほとんどありません。
そんな状況を受けて始まったのが『合同レッスン』でした。
取材させていただいたのは、今年最後の『合同レッスン』。
冒頭はこんな様子でした。

ひとりの学生が指揮をしたあと、教師だけでなく、学生同士も意見交換をしながら、授業は進みます。
こうしたスタイルをとる理由を、広上教授に教えていただきました。

教授がそこで権威を振りかざして、一方的に「これはこうである」という、「今まで僕らが育って来た、当たり前のような常識を壊したい」というと過激になりますが、「そういう形態じゃない授業があって、いいんじゃないか」というのがひとつと、大学の先生って、偉くて間違わないんじゃないかと思っている人が多いけど、間違えだらけだし、ああやって生徒と意見交換しながら、先生のほうが学んでいるということのほうが多いんですよね。

で、あのクラスから指揮者に育って行った人がいっぱいいますし、そういう先輩達も遊びに来ては、今度は彼らにもしゃべってもらったり、意見を言ってもらったりするわけ。

だから自分の意見も言うんですけど、ああやって、進行係をやるわけですよ。

この日の課題曲は、ハイドンの『交響曲102番』。

最終目標は、みんなに可能性はあるよ。 でも、最後は自分の力で、自分で考えて、「ひとりひとりが自分の歩調でいいから、成長していくことを見つけた人がチャンスが来るかな」ということを、あの授業では暗示するようにしています。

それと、まず自分が生きられる力、それなりの金銭は確保する。でも、それで自分のことさえ良ければ後は関係ないんだ、というようなものの考え方をしないようなヒントというのは、音楽大学で指揮科に入って指揮者になれなくても、社会人になって違う仕事をしても何か役立つだろうし……そういう意味では、全員が全員指揮者にならなくていい、と教えています。

考えてみるとか、人を褒めてごらんとか、そうすると、「指揮者である前に、人間として、あるいはリーダーとして何が必要か」というのを知らないうちに学んでいくわけですよ。
同僚をけなすんじゃなく、褒め合おうとするわけですから。

東京音楽大学の指揮科、広上淳一教授。
教えるのは、指揮者としての技術だけでなく、リーダーとしてどうあるべきか、ということ。

最後に一番大事なのは、リーダーっていうのは温かい眼差しを持っていたほうがいい。

それと、厳しさも持っていたほうがいいんだけれど、どこかで許せる気持ちを持っておくのと、できない人間を人間としてダメだと思わない感覚。
それから「できる人間を、できない人間より優れていると思ってはいけない」ということですよ。

基本的な人間としてのスタンスは、心が優れている人を尊敬できる心を持っているリーダーがいいと思うんですよ。
「邪悪でも能力がある奴を採る」というリーダーが増えたけど、そういうことをやっていると自分に返ってきますよ。

マエストロの教えは、おそらく、この言葉に集約されます。
「心に耳を持て」。

広上教授が主宰する『合同レッスン』。
今年、最後の授業は、教室が使える時間ギリギリの、夜8時半まで続きました。