2012/9/7 「にぎやかな風」のHidden Story

今週は、全国の福祉施設が作る素晴らしい商品を集めたショップ「にぎやかな風」のHidden Story。
» にぎやかな風

JR中央線の阿佐ヶ谷駅。南口を出て、線路沿いを西へ少し。
高架下にそのお店はあります。
「にぎやかな風」。
店主は、茶谷恒治さんです。
まずは、福祉施設の商品を扱うお店を開いた理由を伺いました。

私9年間、福祉施設で仕事をしていまして、障害のある方と一緒に仕事をしていたんですね。
そこのみなさんのお給料がとっても少なかったんです。

障害のある方のお給料が月に3,000円だったんです。

それでは何もできないじゃないですか。で、私のいた福祉施設だけではなく、他の施設にも聞きました。そしたら他のところも少なかったんです。で、どこの福祉施設でも商品を作っていました。
パンだったり、クッキーだったり、でも、なかなかどこも売る場所がないと言うんですね。

福祉施設の商品って、どれも手間ひまがかかっていて、素材にも気をかけていいものがいっぱいある。これをみんなが知らないのはすごくもったいない、買ってくれる人が少ないのはすごくもったいないと思ったんですよ。

「この商品をもっと販売できれば、みんなのお給料も上がるんじゃないかな」と思って、このお店を作ったんですよ。

オープン当初、売れ行きが思わしくなかった「にぎやかな風」。
茶谷さんは、ある作戦を考えました。

「みんなに、まずは知ってもらおう」と思ったんですね。
それで、このお店でライヴをやろうと思ったんですよ。

で、ライヴをしたら、そのライヴを目当てに若い人が来るじゃないですか。その人たちに商品を食べてもらう、飲んでもらう、見てもらう。
一番最初にやってもらったのは、たまというバンドの知久寿焼さんでしたね。
あとは、ソウルフラワーユニオンの人とか、ベルリンから前衛舞踏家が来て踊ってくれたこともありました。

あとは、写真を撮っている人に写真展をやってもらう。絵を描いている人がいたら、ここで個展をやってもらう。そういった感じで、どんどんどんどん若い人に知ってもらおうと思ったんです。

これからの社会を作るのは若い人です。政治を作るのは若い人だし、そうだとしたら、そういう人に障害のある人が、この商品を作っていると知ってもらったら、その人が今度は社会を変えてくれるかもしれない。僕はそう思ったんです。

ライヴ目当てにおとずれた人が、商品について、インターネットを通じて発信。
お店は徐々に賑やかになっていきました。

どんな商品を販売されているのか、店主の茶谷恒治さんにひとつの例を挙げていただきました。

カレーがあるんです。

長野県の松本の山のふもとのすごくいいところで作っているんですけど、レトルトのカレーです。
最初にたまねぎを刻んで、たまねぎのペーストをするところから始めるんですけど、たまねぎを手仕事で鍋にたまねぎを入れて1時間40分、へらで炒めるんですよ。そうするとどうなるか、たまねぎがものすごく甘くなるんですよ。さつまいもより甘いくらいになるんです。
それを使って今度調合したスパイス。で、これ2週間寝かせるんですけど、すごいですよね!それをペーストにしてレトルトカレーにしてるんですよ。

大量生産はできません。でも、美味しいモノができるんです。
これを知ってほしい。

そんな手間ひまのかかった商品。
どんな風に作られているのかというと……

障害のある方がそれぞれ得意な部分を、自分ができる得意な部分を持ち寄って作っていることが多いです。

例えば、このカレー。僕だったら、1時間やっていたら、割合が違うかもしれない。7対3なのが6対4になってしまうかもしれないけど、それは、このスパイスのブレンドをしている人は嫌なんですよ。
常に同じことをしたい。これが接客だったらこの人はすごくストレスを感じてしまうだろうけど、スパイスを調合することだったら、何時間でもやりたいと思ってくれる。
また、たまねぎを炒めるのは別の人がいる。それが得意な人がいる。

それぞれの得意なものを仕事にしたら、みんなが思っている、障害があるからこんなことができないよね、って思いますよね。でも、障害があるからこそできるよねと考え方が変わってきますよね。
僕は少なくともそう思ったんです。

「にぎやかな風」の茶谷恒治さん。
その視線の先にあるものとは?

この人とこの人は違うんだな、ここを手助けすればうまくいく、そうひとりひとりが思うことで社会がものすごく変わるんじゃないかなと思っています。

で、福祉施設は効率よくやることが苦手です。でもひとりひとり違いを尊重することが得意です。その結果すごくいい商品ができています。一般の企業は効率よく生み出すことができます。これを組み合わせることができればものすごい社会ができるんじゃないかなと思っています。
でも正直、1店舗だけじゃ変わらないんですよね。でもそこを無理してでも1店舗が2店舗になって、これが100店舗になれば、何かが変わるんじゃないかなと思っているんです。

目指すのは、それぞれの違いを分かり合い、それぞれが得意なことを尊重する社会。
阿佐ヶ谷から気持ちのいい風が吹き始めています。