2012/4/6 ミシマ社、三島邦弘さんのHidden Story

今週は、自由が丘からヒットを連発する出版社、ミシマ社の代表取締役、三島邦弘さんのHidden Story。

» 株式会社ミシマ社

内田樹さんの著書『街場の中国論』、『街場の教育論』。
平川克美さんの『小商いのすすめ』。
さらに、益田ミリさんと平澤一平さんによる絵本『はやくはやくっていわないで』。
増刷を繰り返すヒット作を連発しているのが、自由が丘にある出版社ミシマ社です。ミシマ社が 自由が丘を拠点とした理由は……

「これは、出版のメインの場所じゃない」というのが一番大きかったです。

というのも、どうしてもその場所の空気っていうものに引きずられがちだと思うんですね。僕がやりたいと思っていたのは、とにかく出版の新しい風というか、どんどん淀みがちになっている空気を、ポンと風穴をあけて風通しのいい状態。「おっ、なんか出版っておもしろいし、気持ちいいね」というような空気感のもと、もう1回、出版活動をするほうがいいなと思っていたので、そうすると、出版というものと、ほぼ縁がない自由が丘というのはすごく良かったんですよね。

三島邦弘さんがミシマ社を立ち上げたのは、2006年11月のことでした。
それまで2つの出版社で働いてきた三島さん。
会社を設立する前は、深く悩んでいました。

「他社に移るか」「フリーの編集者になるか」。
これが多くの選択肢というか、「これ以外にないのかな」と思っていたところ、「そうか自分で出版社を作ればいいんだ」と思えた途端、いろんなことがバーッと解明していって、このまま、まっすぐ道を歩んでいこうと思いました。

この決断から、わずか半年。
自由が丘のワンルームでミシマ社を創業。
三島さんは、「取り次ぎの会社」を通さず書店に本を直接卸す、「直販」というスタイルをとることを決めました。

なんとなく、みんな、この「取り次ぎ」というのを通さないとできないと思いがちだったんですね。

実際にそうじゃないと動かしにくい部分はあるんです。
「取り次ぎを通すと効率よく日本中の本屋さんに配本される」という状況が生まれると思うんですが、その最初の効率性よりも、本屋さんのほうがこっちの出す本を1冊1冊、理解していただいて、 「あ、この本を売りたいな」と思ってもらう。そこに、どれだけの意思があるかが大事だと思ったんですね。

そうでないと、いま、業界で返品率40%と言われているんですね。
そのモデルに小さな出版社、新しい出版社がのっかっても良くないな。とは思っていたので、直販モデルというのを、ミシマ社として選択することにしました。

最初は 三島邦弘さん たったひとり。
今も社員わずか6人という出版社。
合い言葉は、1冊入魂。

会社作った時点でプレッシャーしかないんですが、1冊の失敗も許されないという、試しというのがないんですね。
「まあまあ良かったね」というのが許されないという、「突き抜けていくしかない」という、常に背水という状況での出版活動なんです。

常々言っているのは甲子園野球だと言っていて、ここの試合勝たなければ次はないよ、という。まさに、一冊入魂という言葉を掲げてやっているんですが、ピッチャーだったらこの一冊で必ずアウトをとる。バッターだったらデッドボールでもいいから塁に出る。
「もう当たりに行こう」みたいな。

とは言え、もちろん、失敗はあります。

実際、うちは失敗やミスはめちゃめちゃ多いんです。で、そういうものは全然いいんです。

ぶちあたっていく以上、失敗はありますし、ただ、デッドボールを恐れて踏み込まないというのが良くない。やっぱりこうしっかり振り抜いた上で凡打、というのはそれはもうしょうがないよ、と思うんですが、自分自身に対して「ここまでやった」というのを積み重ねていくことでしか、先は広がっていかないと思いますし。そこで「まあまあな仕事」をしたということだと、実は悔いしか残らないと思うんですね。

三島邦弘さんに、最後にこんな質問。
これから、どんな本を作っていきますか?

「出版がどんな状況にあっても、多様な価値を提示し続けられるかどうか」
「こういう生き方もあれば、こういう考えもあるよ、でも、それはそれぞれの人が自分たちで選んでいけばいいんだよ」ということを示していかないといけないし、それは各国、古今東西見たらそういう本はいっぱいあるんですよね。

日本よりよほど苛烈な政治弾圧が続いていた国、ポーランドだったら『終わりとはじまり』というシンボルスカという詩人の詩集があって、それは本当に素晴らしくて、この詩人はこんなにユーモアを持ってたえがたい状況を表現していて、それを読んで、僕は涙が出そうになりましたし、そういうことを出版人というのは、自分たちの国で社会で形にしていく。現在はこういう価値が主流だということで、それにのれば売れる本は作れるんです。でも売れる売れないだけで本を作ると、多様性が担保されなくなってくるんで、単一の価値観で社会が色塗られようとしているので。
今、出版人の果たす役割というのは重いと思っていて。

豊かな社会とは、さまざまな考え方や想いがあふれる社会である。
そのためには、多様な価値観を提示し続けるべきだ。
若き出版社が自由が丘から新しい波を送り続けます。