2011/10/7 ネクスタイド・エヴォリューションのHidden Story

今週は、視覚が不自由な方のために映画に音声ガイダンスをつける仕事。
そこに込めた想いとは? プロジェクトチームに取材させていただきました。

明日から開催される『第2回東京ごはん映画祭』。
野村友里さん監督の映画『eatrip』は、視覚が不自由な方にシーンを説明する音声ガイダンスを楽しんでいただける形で上映されます。
これを手がけたネクスタイド・エヴォリューションの須藤シンジさんにお話をうかがいました。

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音声ガイダンス自体はかなり前からすでにあったんですね。
ほとんどの場合、バリアフリー上映会という名前で、映画そのものに音声で状況を説明したガイダンスを焼き付けて上映するという形のバリアフリー上映会はあったんですよね。

我々が特に意識して取り組んだ方法は、映画の映像と音声ガイダンスというソフトを分けて劇場内に展開する。すなわち、映画は映画として見ていると。音声ガイダンスはFM電波で飛ばして、その音声ガイダンスが必要な方だけが、ご持参されたFMラジオで受信して、まさにガイダンスのサポートを受けるという、そういう空間を実現したかったんですよね。

須藤さんがこうしたスタイルを考え出したのには理由がありました。

私、息子が3人いるんですけど、真ん中の今年16歳になる息子が当時、重度の脳性麻痺で生まれてきまして、それをきっかけに福祉の当事者として自分が身を置いたときにですね、この福祉にまつわる環境というのが、いわゆる健常者と言われる人と障害者という人を分けて扱う、という価値観というか習慣に直面したんですよね。で、これに対して、欧米というのは常に混ざっていて、みんな違っていてみんないい、という価値観があるじゃないですか。

障害を持った息子が成長していくときには、仕事を得たり、親の財産で生きていくというよりも、そんな世の中になっていさえすれば、彼自身が人の助けを借りて生きて行ける、本当の意味での自立が実現するんじゃないかなと思ったんですよね。

ハンディキャップのあるなしに関わらず、人が自然に混ざりあって暮らしていく。そうした価値観を広めたい!
須藤さんはネクスタイド・エヴォリューションというソーシャル・プロジェクトを立ち上げました。

その一環として取り組んだのが、映画の音声ガイダンスです。

今回の映画の音声ガイダンスをあえて一般の映画館で、あるいは一般の映画を視聴できる空間で、おしゃれな人と、ハンディを持っている人が同じ空間のなかで共存できる状況。これを作るために、あえて電波で、いわゆる一般の人の鑑賞の邪魔にならないように電波でガイダンスを飛ばし、その情報を欲しているひとが同じ空間で情報を享受することができる。そんな空間の実現の第一歩であり、今回は第三弾くらいの企画なんですけどね。

ネクスタイド・エヴォリューションが手がけた最初の作品は、2010年公開の『時をかける少女』でした。

須藤さん:『時をかける少女』の音声ガイダンスの企画をやったときに、見に来てくれていた視覚障害を持つ女の子がいたんですね。
鳥越玲那さんという方なんですけど……

鳥越さん:私は中途失明で16歳のときに失明したんですけど、それまでは映画館に行くことが普通のエンターテイメントのひとつとして使っていたんですけど、でも見えなくなって映画館に行くことが億劫になってしまって、それはなんでかというと、映画って台詞が少ない場合が多いと思うんですよね。映像が流れていくなかで、みんな感動したりとかするものが多くて、そういうのをDVDだったら巻き戻すことができて、音楽とかで、いまこういうことをしているのかなと想像したり、家族を呼んで「いま何してるの」とかできるんですけど、映画館ではできないし、ほとんど行かなくなってしまって。
ガイダンスがある映画も知っていたんですけど、ある映画を見た時に、ガイダンスが入ることで涙が出るところで涙が引っ込んじゃうという経験があって、感動するところで淡々と説明されすぎてしまって、音楽が盛り上げているのにも関わらず、そこで冷めた声でガイダンスが入ると「がっかり」ということがあって。

「しかし、『時をかける少女』では、久しぶりに泣いた」。そう語る鳥越礼那さん。
今度は『eatrip』という作品で、音声ガイダンスの制作に協力しました。

鳥越さん:見える人も見えない人も映画のあとで、「私はこういう風に感じたな」とか、話題として、同じ空間、時間を共有して欲しいなという、そういう先の楽しみみたいなことを想像しながら参加させてもらったというのが、私個人としてはあるんですけど。

須藤さん:こういうことって、これまではバリアフリーな活動とか、モノよりにふれていくと、ユニバーサルデザインと呼ばれていた活動なんですけど、僕らが展開する活動ではピープル・デザインという概念を標榜しまして。人が混ざっていく。
ハンディのある人も分かれてないで入ってこいよと。入って来た時に僕ら健常者も、もじもじしてないで手なり声を貸せよと。そういう人の動きそのものをデザインしていくということを 直近のミッションとして活動をしています。

いろんな人が混ざり合う社会は、いろんな想いが受け入れられる社会。
それはきっと、誰もが暮らしやすい社会である。

音声ガイダンスも楽しめる映画『eatrip』は、明日(2011年10月8日)から開催される東京ごはん映画祭で上映されます。

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