2011/4/15 松浦美奈さんのHidden Story

今週は、映画の字幕をつくるプロフェッショナル、松浦美奈さんのHidden Story。

『英国王のスピーチ』『ソーシャル・ネットワーク』『スラムドッグ・ミリオネア』『イングロリアス・バスターズ』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『第9地区』……
これらの映画の字幕を手がけたのは、全て、松浦美奈さんです。

そもそもは、映画の字幕翻訳を目指したわけじゃなくて、映画の宣伝会社に勤めていたんです。
で、会社が倒産しまして、どうしようかなと思っていた時に、宣伝を担当していた配給会社の方から翻訳をやれと言われたんですね。
宣伝用のプレス資料のために翻訳をしたいたので、この子は翻訳ができると思ってくださっていたようなんです。
でも翻訳者になれと言われたときは1年くらい逃げ回ったんです。嫌で。
いきなりですもん。しかもポルノ映画だったので。

松浦さんいわく、ほとんど だまされたような形で字幕翻訳の仕事が始まりました。

ある日だまされたんです。ちょっと資料を作りたいんで本編見てもらえる?と言われて……

「じゃあ、まあ分かった、資料の翻訳のためなら行きましょう」と思って試写室行ったら、いきなりポーンと台本渡されて「作業して」って言われて。え?作業ってどうすればいいんですか?って聞いたら、「台詞書いてあるだろ?英語でしゃべっている台詞にあわせてブレスのところで斜めに線を引きなさい」と言われて。
「ああ、そうですか分かりました」って線を引いて。

で、とっても感謝するのは、例えば今の時代だったら、いきなりど素人に翻訳なんて任せてもらえないと思うし、まだ時代に余裕があったのか、徹底的に若い子を育てようという雰囲気があったんですね。ひとつひとつ、ここはこうしたほうがいいよとか、ここはいらないよとか、教えてくださったんですね。

若い才能を育てる余裕があった時代。
松浦さんは、多くの作品を手がけるなかで、翻訳の技術を磨いていきます。
そして、映画の世界には大きな変化が訪れようとしていました。

ビデオの時代が本格的に到来して、どうでもいい映画は売れなくなって来たんですね、ビデオでも。

いい作品がそろわないとお客さんが買ってくれないということで、割とビデオ作品の「公開はしないけれど、ビデオ作品でいい作品」というのが出るようになって、そういうものに声をかけてもらって、で、普通のドラマに何となく気がついたらシフトしていって。そうしているうちに『いまを生きる』という作品があったんですけど、『いまを生きる』が、「一番大きな転機」かなと思います。あれは難しかったです。

引用がいっぱいあるんですけど、引用を探すのにインターネットもないので、図書館に毎日通って……

アカデミー賞で脚本賞にも輝いた、1989年の映画『いまを生きる』。
ロビン・ウィリアムズ主演のこの作品が、松浦美奈さんの転機となりました。

今年のアカデミー賞で作品賞を争った『英国王のスピーチ』と『ソーシャル・ネットワーク』。
どちらの作品も、松浦さんが 字幕を担当されました。
饒舌な主人公が登場する『ソーシャル・ネットワーク』の字幕制作は、通常の映画よりもやはり時間がかかりました。

台詞が多いとそれだけ時間がかかるので、ソーシャル・ネットワークは3週間くらいかかりました。

それと、しゃべっているスピードに負けない字幕の流れを作らないといけないので。
あれだけのスピードでしゃべっているのに、目で追う字幕がのんびりしていると、やっぱり違和感が出るんですよね。 目で読むときにも同じスピードで読めるような、読みやすい歯切れのいい字幕にしないといけないので。ダラダラした字幕だと耳から入る音と合わなくなってしまうので。

音にあわせて目で情報をキャッチできる字幕にしないといけなかったので、ものすごく大変でした。ポンポンポンと音が聞こえてきたら、字幕もポンポンポンとこないといけないんです。

これまで書いた台詞の枚数は、まさに数知れず。
映画の字幕翻訳のプロフェッショナル、松浦美奈さん。
今だからこそ見てほしい映画は『英国王のスピーチ』。
吃音症に苦しむ国王が、その困難を乗り越えていく物語です。

みなさん、今とても落ち込んでしまうし、そういうときに、やっぱり現実は現実だけど、フィクションの力ってすごいと思うんですよ。
英国王のスピーチは実話だけど、映画はフィクションだし。そのフィクションからもらえる力とか希望とかってものすごく大きいと思うんですよ。
こういう障害を克服していく、しかも、みんなが協力して克服していくっていう作品で。

悩み、努力し。 しかし壁は高く心が折れそうになる。
でも、トモダチ、家族、さまざまな人が力をあわせて苦難を克服していくのが『英国王のスピーチ』。

松浦美奈さんがポイントとして挙げたのは、シリアスな状況のなかユーモアも忘れずに織り込まれていること。

ジェフリー・ラッシュ扮する言語聴覚士が決してシリアスになりすぎない。 ある程度のユーモアを持って、それで指導力もあって、どんどん引っ張って行くでしょ。
こういう映画を見ると、自分たちも、『「今日。そして明日を生きていこうかな」と思えるんじゃないかな』と思う気がするので、みなさんにもそういうことも含めて見てもらえるといいなと思うんですけどね。

今こそ、上質なエンターテイメントを。

平均すると1ヶ月に3本。
松浦美奈さんの映画字幕制作は、今日も続きます。