2011/2/25 『MUSICMAN』制作秘話

今週は、2011年2月23日発売。 桑田佳祐さんのNew Album『MUSICMAN』制作秘話。
そのレコーディングはどんな風に進んだのか?
そして、病に倒れた桑田さんをチームはどう支えたのか?
レコーディング・エンジニア、中山佳敬さんに聞いたHidden Story。

桑田佳祐さんのNew Album『MUSICMAN』。
制作の始まりは、2009年に遡ります。

だいたい、いつものパターンでいくと、最初にプリプロというかそういう形で始まるんですけど、そのときに今回は「鎌倉合宿」っていうのがあって、その合宿でメンバーの方もみんな一緒に寝泊まりしながら、昼間はセッションして夜はごはん食べて飲んで、明日は何やろうかと話したり、っていうのを何日かやって、それを2〜3回やったんですね。
そのなかで曲がだんだんできてきて、ある程度形になったらビクターに来てリズム録ろうか、とか……そういう形で進んでいったんですね。

レコーディング・エンジニアの中山佳敬さんいわく、この鎌倉合宿で行われるのは、スケッチのようなレコーディング。
ここで生まれたアイディアのかけらを渋谷区神宮前のビクター・スタジオに持ち込んで、曲が作られるのです。

恋の大泥棒は、完全にどブルースみたいな曲だったんですよ。

そんなイメージでプリプロをやっていたんですけど、そこから島健さんとの話とのなかで、こんな壮大な。 たぶんAct Against Aidsとかで映画音楽をやったこととかが、すごく、そういうアレンジになっていったんじゃないかと思うんですけど。 跡形はなくはないんですが、最初のイメージとは変わった曲ですね。 これは。

ビクターの401スタジオ。
紅白歌合戦の中継も行われたスタジオです。
110平米の大きさのスタジオ。 ガラスの壁をはさんで隣りにコンソールルーム。 つまり、調整室があります。
桑田佳祐さんは意外な場所にマイクをセットしました。

桑田さんは、コンソールの前でやるんですよ(笑)。

僕がコンソールに座ってるスピーカーの前とガラスの前に座って、そこで歌を歌うんですよ。 リズム録るときとか。
コンソールの前です(D 外じゃなくて?)窓ガラスとの間です。 そこの前にみんなこうギターとかドラムとかが入っていて、ガラス越しにみんなが見えるところに座って指示出しながら歌いながら、ってことですね。

バンドのメンバーが入っているブースとコンソールルームを隔てるガラスの、すぐ手間。
普通は人が入らない、1メートル強のスペースが、桑田佳祐さんがイマジネーションを広げる場所でした。
そこで録音された音も、そのままアルバムに入っています。

だから、あれですよ、『現代人諸君!!(イマジン オール ザ ピープル)』、この曲のギターソロ、桑田さんのギターソロは、そのときに中で弾いたやつです。

ディレイもそのときにかけてくれって。 だから活きてます、そのときのプレイが。
そのときに思ったままに弾いたものがそのままオッケーになったというか。 割とその場を大事にする人なんで。 すごく「感覚的にイイものはイイ」っていうジャッジはありますね。

2010年の初頭に始まった本格的なレコーディング。
10数曲については、4月いっぱいでリズム録りがほぼ完了。
5月から歌入れが始まります。 夏には全てが完成するようなペースでした。
しかし……7月28日、桑田佳祐さんは、初期の食道がんを公表。
制作は一旦、ストップします。

とにかくびっくりしたんですよね。

何もそういう話がないまま歌入れが進んでいましたし、入院間際に「実は」という話を受けたので、びっくりして。

レコーディングが再開したのは、秋。

最初は不安だったと思うんですよね。

普通にしゃべってる声は出てるでしょうが「実際歌ったらどんな感じになるのかな?」「マイク通したらどんな声になるのかな」とか。 すごく心配されてたと思うんですよね。
それは僕らも同じで。 普通の風邪とかじゃなく、軽い病気じゃないんで。 できるかぎり、気をつかえるところは気をつかったり、すこしでもリラックスしてできる空気を、僕だけじゃなくて、まわりのスタッフはみんな考えてましたね。

『SO WHAT?』の歌入れから、再び録音が始まりました。

いやもう、本当に思いのほか声が出ていて、ちょっと出てきたらもう普通に歌っていたんですね。
だからもう、最初1本目歌ったときにはホっとして。 2本目3本目になったら桑田さん本気なので。 逆にあのペースに着いていく、という感じでしたね。
その日の帰りに、「ああ、今日、普通に出来たな」と後から来たんですけど。

冬が始まろうとするころ、最後の1曲の歌入れがビクター401スタジオで行われました。
アルバムのラストを飾る『月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)』。

すごい本数歌ってたんですよ、だいたい8本くらいテイク歌ってその中から選んだりするんですけど、この曲は26本、歌って。

全部フルで歌ってます。 細かい歌詞の変更とかありますし、あとニュアンスですよね。 「もうこのくらいで選ぼうかな」という感じじゃなくて、「もうちょっとやってみようかな」とやってるうちに26本歌っていたんですよね。

いろんなニュアンスを出して歌って、それをきっちり思ったテイクになるように選んだものが、本当にこういう曲になったっていうのは……
きましたね、本当にグッときました。

ニューアルバム『MUSICMAN』の制作について、桑田佳祐さんが強調するのは、「仲間とのつながり」です。
一時は病に倒れ 心が折れかけた男を支えた ミュージックマンたちの心。
その想いに答えた 優しく力強い歌。

歌声の先にはもちろん、あなたの心があります。

桑田佳祐 | MUSICMAN