2010/12/17 小惑星探査機「はやぶさ」のHidden Story

今週は、今年のHotな瞬間でした! すごいぞ、Nippon!
小惑星探査機「はやぶさ」の地球帰還。
その鍵を握ったエンジンを開発した、JAXA宇宙航空研究開発機構の國中均さんに お話をうかがいました。

2003年5月9日に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」。
使命のひとつは、はるか3億キロも彼方にある小惑星「いとかわ」のサンプルを採取して、地球に持って帰ることでした。
これまで人類がサンプルを持ち帰ったことがある天体は、月のみ。
つまり、それは、世界初、人類初のチャレンジだったのです。

2005年11月、「はやぶさ」は、「いとかわ」への着陸を試みました。

2回着陸を実行しています。 1回目は制御がうまく働かなくて小惑星の表面に落ちてしまったようですね。

30分くらい落ちたまんまになっていて、地上から命令を送って強制離陸をさせました。 究極的な目的としてはサンプルを採取するということでしたので、2度目の着陸を試みました。 ただなかなか難しくてですね、どんな方法で着陸してサンプル採取するのかというと、探査機の裏側、背面に筒がついておりまして、その筒の先端を小惑星の表面に触らせるんですね、その触った瞬間に火薬でですね弾丸を撃ち込んで、表面を破砕、壊してですね、砂粒とか岩盤とかを舞い上がらせて、その舞い上がった砂を筒で集めて採取するということを計画しておりました。
ところが、「首尾よく筒の先端を小惑星の表面に触らせて離陸する」ということは出来たんですが、触った瞬間に弾丸を撃ち込まなければいけなかったんですが「この弾丸が発射されなかった」ということが、ほぼ分かっております。

弾丸を打ち込んで小惑星の表面を砕き、その砂粒を採取する。
想定した方法はうまくいきませんでした。
チームは落胆しました。

落ち込むムードに追い打ちをかけるように、もうひとつの問題が突きつけられます。

もうひとつ表面にぶつかったときにですね、多分かなり激しくぶつかっておりまして、これで探査機自体もかなり影響を受けております。 燃料の配管に亀裂が入ったものと思われます。 配管から燃料がもれ始めまして、探査機は姿勢制御を失ってしまいまして、ついには地球からのコンタクト、連絡が取れない状況になってしまいました。 行方不明になってしまったんです。

はやぶさは「太陽電池が太陽のほうを向かなくなって、電気がなくなって全機能を停止した」と考えています。
通常ですと、「宇宙で機能を失った探査機がよみがえる」ということは、まずないです。

宇宙空間で行方不明。 しかも全機能が停止した状態。
でも、チームはあきらめませんでした。

我々は粘りました。

太陽電池を太陽のほうに向けない状態で回転していると想像しておりまして、ただ公転運動と言いまして、太陽の回りを回る運動をしている関係で、いつかは太陽電池に太陽の光が当たるはずだと考えまして、そうすれば探査機がよみがえるので、正しい順番で各機器のスイッチが入るようにコマンドを送り続けておりました。

小惑星探査機「はやぶさ」は、2005年の終わりに宇宙空間で全機能を停止。 行方不明になりました。
地上から願いをこめて信号が送り続けられます。
1ヶ月半後、「はやぶさ」からの応答がありました。

1年くらいはこの作業を続けるのかな、とは思っていました。 だからそういう意味では1ヶ月半ではやぶさが復活したというのは、奇跡ですね。

JAXA宇宙航空研究開発機構の國中均さんいわく、「奇跡」が起こりました。
2007年、地球へ戻るためにイオン・エンジン点火。
「はやぶさ」の地球帰還が現実味を帯びてきました。

しかし、さらに 壁がありました。
「はやぶさ」には、スラスターAからスラスターB、C、Dという4機のイオン・エンジンが搭載されていたのですが、2009年、Dのエンジンが故障。

このときは、スラスターのCとDを使って地球に帰ってこようと思っていたのですが、とうとうスラスターDが故障して動かなくなりました。
「これでいよいよミッションは終了かな」という危機的な状況だったんですけども……

エンジンの開発を担当した國中さんには秘策がありました。
2台のエンジンの機能を組み合わせて、1台のエンジンとしての能力を引き出す「クロス回路」。
万が一のことを考えて組み込まれたこの機能を使うときが来たのです。

エンジン屋としては、技術者としては、このクロス回路が動くかどうか試してみたいんですね。

でも、クロス回路を使う瞬間というのはプロジェクト全体の大変な危機なんですね。
ただクロス回路が動くと思ってましたけど、ただいろんな経緯があって極低温にさらされたり、僕たちが考えた機能が動くかどうか心配なところはありまして、でも、これにかけるしかないというところですね。

ドキドキです。 もう、ほんと、ドキドキですよ。

クロス回路、作動。

ふたつのエンジンの機能が組み合わされて、一つのエンジンとして動き始めました。

2010年、今年の6月13日、はやぶさ帰還。
その姿は、夜空に、一筋の流れ星のように現れました。
多くの技術者たちの願いを乗せて旅をした、はやぶさが帰ってきたのです。