2010/4/2 松本暁子さんのHidden Story

今週は、まもなくスペースシャトルで宇宙へ旅立ちます、宇宙飛行士 山崎直子さんを地上で支える医師。
フライト・サージャン、松本暁子さんのHidden Story。

 

フライト・サージャン。 
聞き慣れない言葉です。
それはいったいどんな仕事なのか?
宇宙航空研究開発機構 JAXAに所属するフライト・サージャン、松本暁子さんに伺いました。

フライト・サージャンというのは「ミッションのときに、宇宙飛行士について全般的な医学管理をする」というのがひとつの仕事なんですけど、宇宙に行ってない場合もありますよね。
私は今、山崎の担当をしていますが、他にも宇宙飛行士や宇宙飛行士候補がおりますので、彼らの日常の健康管理も担当しています。

もうひとつ大きな仕事は、国際宇宙機関が集まる医学の会合がありまして、そこで例えば、宇宙飛行士の医学基準とか、いろんな会議があるんですが、それにJAXAの代表として参加してますね。

フライト・サージャンとなる前、松本暁子さんは、内科の臨床医師でした。

およそ10年 働いたのち、偶然、航空宇宙医師の募集告知を目にします。
「宇宙医学って、何だろう?」
好奇心が松本さんを新しい世界へと導きました。
当時の宇宙開発事業団(NASDAナスダ)に採用。
そして、あのライト兄弟にちなんで名付けられた、アメリカ ライト大学で宇宙医学を学びます。

宇宙っていうのは、環境が、宇宙なわけですよね。 今ここは地上ですよね。
それが宇宙になると、重力がないとか、放射線を特にあびるとか、私たちの体を取り巻く環境が変わるわけですよね。 宇宙環境という。
そうすると、影響が全身に及びます。
例えば地上では、おなかが痛いとか臓器別にお医者さんを受診しますが、宇宙に行くと影響が全身のいろんな臓器に出てくるんですよね。
そういう意味では、全身に関わる医学でもあるし、環境医学でもあるし。

その後、野口聡一さん、若田光一さんのミッションで 医学サポートを担当。
そして今回は、山崎直子宇宙飛行士のフライト・サージャンとしてスペースシャトルのミッションにのぞみます。
取材をさせていただいた3月中旬、すでにプロジェクトは進んでいました。

シャトルの場合はですね、ミッションが決まって、クルーがグループとしていろんな訓練をし始めますよね。
で、1ヶ月前くらいから、シミュレーションとして、フライトデイが14日間あるとすると、今日はそのフライトデイ後の練習とか、リハーサルみたいのをやるんですよね。
そのときにミッション・コントロールとつないで、クルーはシミュレーションルームという、ジョンソン宇宙センターの中の部屋にいて、宇宙にいる“ふり”をするんですけど、ミッション・コントロールとつないでリハーサルをやる、という、それに行っていました。

もうひとつ、先月くらいに行っていたのは、ターミナルカウントダウンといって、打ち上げそのもののリハーサルですね。
最後のほうは宇宙飛行士が隔離されるんですけど、私たちも一緒に入って合宿みたいになるんですね、そこに入って、打ち上げ当日の全部のステップを全部やってみる、ということをやりました。
そのときはクルーはオレンジの服を着て、実際にシャトルに乗り込むという。

スペースシャトル「ディスカバリー」。 打ち上げの日が近づいています。

スペースシャトル「ディスカバリー」で宇宙へ飛び立つ、山崎直子宇宙飛行士を 地上で支えるフライト・サージャン、松本暁子さん。
打ち上げ2日前に医学検査、そして...

無事に打ち上がったら、ジョンソン宇宙センターに戻って、ヒューストンのミッション・コントロール・センターのフライト・サージャンの席があるんですけど、そこに毎日つめてクルーの様子を見ると。 シャトルの場合には毎日クルーと交信します。
私の場合は、山崎さんと直接お話をするという予定です。

フライト中、よく起こる問題は、宇宙酔いや、睡眠時間の調整。
それ以外に緊急事態が起これば、シャトルから地上に連絡が入ります。
宇宙飛行士が起きている時間は、フライト・サージャンも常にミッション・コントロール・センターでシャトルを見つめます。

クルーが起きてる時間は、地上で見てますから。ヒューストンタイムで言うと夜中ですね、今回は。
NASAのほうはフライト・サージャンが2人いて2交代でやるんですが、JAXAのほうは、私ともうひとりしかフライト・サージャンがいないので、で、もうひとりは、野口の医学管理をしていますから、バックアップがいないんですよね(笑)

山崎直子さんとは、女性同士ならではの会話も交わされています。
テーマは、お肌。

乾燥してますね、宇宙船の中が。 だから、それはかなり気をつける(笑)
ということで、それも女性同士なので、あまり男性の飛行士とか男性のフライト・サージャンだとあまりそういう話も進まないと思いますが、それは2人でよく話しました。
ただ、水が宇宙では、化粧水、ありますよね、粘性が低い、さらさらだと、水は飛び散ってしまうとよくないんですね。
顔を水で洗うというのは出来ないですし、化粧水をペタペタというのはできないんですよね。
そういう水分が飛び散らないような工夫を考えてまして、それがうまくいくといいなと思ってるんですけど(笑)

フライト・サージャン、松本暁子さん。
彼女が これまでのキャリアのなかで 最も印象的だった仕事として挙げてくれたのはフライト・サージャンとしてのものではなく、種子島で行われた H2Aロケットの打ち上げでした。
このとき、松本さんは、打ち上げに関わる全てのスタッフの診察を提案したのです。

種子島宇宙センターのなかに、仮設の診療所を作ってもらって、打ち上げ2日前までにそこに入る人全員を診察したんです。

そこで、おなかが痛いとか何か症状があれば、そこで治してしまう。
それによってその本人たちが当日のプレッシャーがかかるなかで、みなさんそれぞれ何か優れた能力を持って選ばれて作業されるわけですので、彼らのそれぞれの力を最大限に発揮できるように、健康面では私がサポートしたいと思いまして、みなさんが体のコンディションがベストでいけるようにしたいな、と思ったんですね。

全員が 力を最大限に発揮するために、自分ができることは何なのか?
チームプレーに徹する想いが、大きなミッションを支えているのです。

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