2010/1/29「オーシャンズ」の撮影秘話

今週は、海に暮らす生物の知られざる生態に迫る海洋ドキュメンタリー 「オーシャンズ」の撮影秘話。
実は、この映画には、日本人の水中カメラマンが 参加されています。
その人の名前は、奥村康さん。
海を見つめるプロが明かす、Hidden Story。


新宿区中落合の住宅街に、その会社はありました。
日本水中映像株式会社。

そこで取材チームを出迎えてくれたのが、奥村康さん。
映画『WATARIDORI』で知られる監督、ジャック・ペランと、ジャック・クルーゾーが手がけた新作『オーシャンズ』に参加した日本人のカメラマンです。

オーシャンズは、もともと日本の撮影予定というのはなかったんですよ。

オーシャンズの撮影チームがオーストラリアにロケに行ったときに、オーストラリアの学者が、「日本に行くとこんな変わったタコがいるよ」ということでムラサキダコを紹介してくれたんですね。
それで、そのムラサキダコを撮影するなら、こういった会社があるからここに頼んだほうがいいぞ、と日本水中映像を紹介してくれたんですよ。

島根県に撮影に入って来たときに、日本水中映像がサポートしまして、僕はメイキングオフを撮影していたんですね。
そしたら監督がその映像を気に入ってくれて、本編もまわしてくれという話になって。

島根に入って来たオーシャンズのスタッフから任された「メイキングオフ=記録用の映像」。
それを監督が気に入って本編のカメラマンに抜擢されます。

奥村さんは、オーシャンズで使う特殊な撮影機材のトレーニングのため、フランス パリに飛びます。
2008年3月下旬、撮影に合流。
カリブ海のグアドループでマッコウクジラを狙いました。

しかし、ただひとりの日本人。
チームの信頼を勝ち取るためには、何かが 必要でした。

マッコウクジラを狙うタイミングとしては、シーズンが後ろのほうに外しているんですね。

もう、ほとんど北の方の海域にオスが移動していたタイミングで、なかなか撮影するいいタイミングに出くわさなくて、10日間くらい1秒もカメラが回らない状況でした。
で、そのフランスを中心とした撮影クルーのなかに僕ひとりでポンと入って行ったんですが、「こんな名前も知らない日本人で大丈夫なのか?」というのをひしひしと感じながら、でも、こちらのミスで撮影できていないわけではないので、毎日海に出てチャンスを待っていたんですが。。。

そしたらある日、若いクジラが近寄ってきてくれて、カメラに鼻先を押し当てるくらいまで近づいてくれたんですね。
そのままだと鼻先しかうつらないので、バックしながらフレームにおさめたんですが、それでボートにあがったら、もうみんな大喜びで。

宿に戻るとすぐに 映像をインターネット経由でパリへ送信。
それを見た監督から祝福のメールが届きました。

その後、メキシコのソコロでは「マンタ」、日本の佐渡島では「コブダイ」、アメリカ テキサス沖のフラーワーガーデンバンクスでは「サンゴの産卵」を撮影。
さらに、マダガスカルとモザンビークの間にある、マヨット島でザトウクジラの親子をカメラにおさめます。
なかでも強く印象に残るのは、佐渡島でのコブダイの撮影。

コブダイはこれまでも何度か撮影したことがあったんですが、あのときは水クラゲが大量に発生していて。。。

最初はコブダイが隠れてしまうくらいの量だったり、本当に多くクラゲが流れて来たときには、コブダイが嫌がって、赤岩という撮影ポイントから離れて行くような状態だったんですね。
でも、撮影を繰り返していくうちに、なんて言うんですかね。。。「海の中に雪が漂う中をコブダイが泳いでいくという」シーンが撮れたんで。
そのときは潮の流れなのか、水クラゲがちょうどいい量で流れてきて、ここから潜航していけばいい絵が撮れるんじゃないかなと思って、潜航していったんですけど、それが実際使われてますね。

構想10年、撮影期間4年、総制作費70億円。
ウミイグアナ、オニイトマキエイ、ジュゴン、ガラパゴスアザラシ、アカシュモクザメにシロナガスクジラ。
世界の50カ所で およそ100種類の生物を撮影したという映画『オーシャンズ』。

撮影に参加した日本人カメラマン、奥村康さんが語る海の生物を撮影する魅力とは?

根本には自分が見たい、というのがあると思うんですよ。 魚のそういう生態というのは、普段何気なく泳いでいるとか、というときよりも、魚の生き様というか、本当に生き物の必死さが伝わってくる瞬間なんですね。

エサをとるのにしても、対象の生き物に関していかに身を隠すかとかね。
あるいはメスに対するアプローチだったら、これかなり必死になって言い寄ってるな、とか。
メスが離れてしまうと落胆した表情を見せたりとか。
なるだけそういうシーンを見てもらいたいというのはありますね。

映画『オーシャンズ』には、環境についてのメッセージも込められています。
奥村さんが 海のなかで思うこと。 それは。。。

「記録したい」ですね。

そういう貴重な自然のシーンを。
今撮っておかない撮れなくなるシーンもたくさんあると思うんですよ。 なので手遅れにならないうちに。

本当は、撮っておくんじゃなくて、そういう自然を残さないといけないんですけどね。
この先も、そういうシーンは繰り広げられるんだという風にしていかないといけないんでしょうけど、でも、切羽詰まっているところもたくさんあると思いますね。

水中カメラマン 奥村康さんに、最後に伺いました。
20年に渡るキャリアのなかで、最も心に残るのはどんなシーンですか?

北極の氷の上でテントを張って2ヶ月半くらい、イッカクというクジラの仲間が来るのを待っていたんですけども、氷が夏になると割れ目ができるんですけど、そこにイッカクが入ってくるんですね。 氷がひらくとですね、ちょっと空が暗くなるんですよ。 というのは、氷があると、光が氷で反射するじゃないですか。 そうすると そのときの空の色と、氷が割れて反射光が少なくなったときは、空の色が変わるんですよ。 筋状に割れると、空も筋状になるという。

そしたら、ある日、ガイドのイヌイットが 水路が出来たといって。
イッカクの呼吸音がきこえるんですよ。 プシュー、プシューと。
あわてて準備をして、水の中でイッカクを見たときは感動しましたね。
子どものころ、図鑑では見ていたんですが「こんな生き物がいるのか」という生き物が目の前にいる、という。

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